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青い狼のモンスターとの取引

 村へは迷うことなくたどり着いた。そのまま、崖の割れ目へと向かう。

 割れ目は両手を広げたくらいの幅で、上までパカリと割れている。奥行きもそれなりにありそうだ。

 村側には、大人の3倍くらいの高さまでアネクモの糸で作られたネットが張られていた。森に貼られたものとちがって、手が入るかどうかの狭い間隔の網が張られている。これなら、スライムもちょっと通り抜けることができないだろう。

 危険の無いように2メートルほどの距離をとって中を見る。

 スライムが4,50ほどいるだろうか。足りるのかな?

「【収納】【収納】【収納】」

 呪文を繰り返してスライムを収納していく。

 ……ちょっとめんどくさいなぁ。

「スライムをまとめて【収納】」

 なんて、できたらいいなぁ。と思って声に出したら、声に出したようになった。

 見えていたスライムが一度に収納できたのだ。

 他のスライムの影になっていたりして見えない場所にいた個体は残っている。

 あー、これは便利。じゃぁ、もしかして切り株も一度に収納できちゃうってことじゃない?また一段と開拓進むのに役立てるかも。

 でもダメだ。収納量のことは秘密にしてるんだから……。

 ポケットからハンカチを取り出し、青い狼さんの毛に触れる。

「足りますか?」

『うむ。十分だ』

 ほっ。よかった。

「あと、角兎と大きなモグラみたいなモンスターがいますけれど、食べますか?」

 蜘蛛は嫌いだと言っていたので、尋ねてみる。

『ほう、モグラみたいなというのは、尻尾が針になっているやつか?それはいい。苦みが効いて旨いんだが、地中のモンスターなどめったに食べられないからな』

「【収納】」

『うはー、たまらんな、この苦み。ああ、人には毒だったかな?』

 え?毒?もしかして、尻尾の針に刺されると駄目な感じのモンスターなのかな?

『爪と尾の針はどうする?』

 え?

「どうするって?」

『人間は素材だと言って回収するだろう?何かに使うんじゃないのか?今まで食らったモンスターの素材もその辺に転がってるぞ』

 その辺って、収納の中ってことだよね。

 そうか、このままじゃどんどんたまる一方なんだ。どうしよう。中の様子も全然分からない。素材になるモンスターの残骸が散らばっているんだろうか。

 収納したナナバやほかの木はどうなっているんだろう。土付きで収納してあるけれど、ちゃんと成長してるだろうか。

 実が熟したら収穫しないといえない。取出だと実だけを取り出すことはできないし……。木を出したり入れたりするのを誰かに見られるのもまずい……。

 青い狼のモンスターがいなければ、ルークを収納して中の様子を見てもらえるんだけど……。

 あれ?そもそも……、青い狼さんは私の収納の中に閉じ込められていて、食べる物も取りに行けなくて嫌なんじゃないのかな?

「あの、うっかりしていたんですが……。もしかして、収納から出せばすぐに食べる物を手に入れられたんじゃないんですか?お腹を空かせて待たなくても……」

 そもそも、なんで自分から収納されたんだろう?

『我は強い』

 うん。

 モンスターのことはよくわからないけれど、人との会話ができるのは高位モンスターなんだよね。

 高位モンスターっていうことは、当然強いよね?

『強くなりすぎて、我からあふれ出る気を抑え込めなくなった』

 確かに、目の前に現れたときの威圧感はすごかった。体からあふれだす気だけで倒れそうになるくらい。

『人間とは比べ物にならないほど、モンスターは気を感じることに長けている。我の気を感じて、身を守るすべのないモンスターは、近くに強い気を感じればすぐに逃げ出す。故に、我の近くにはモンスターはいない。逃げ出したモンスターを追い、何キロも駆けて食事をせねばならぬ。獲物をしとめるのは息をするよりも簡単だ。だが、獲物を求めて駆けまわるのは決して楽ではない』

「大変ですね……」

 何キロも……。それが毎日続くのだと想像すると、とても大変だ。

『ああ。それがどうだ。娘の収納の中にいれば、気は外に漏れださず、外に出れば近くに獲物がいる。それどころか、ここで待っていればヌシが獲物を入れてくれる。実に快適だ」

「快適……だから収納しろと言ったんですね……」

 そっか。森を移動しているときには、ばんばん目につくモンスターを収納してたもの……。長距離移動しなくても食べ放題だったんだよね。

『まさか、出ていけと言うのか?』

 えっと……ずっと青い狼さんが収納にいるとすると……いざというときにルークを収納して隠すことができなくなるかな?中の様子も見に行ってもらうわけにもいかないし……。

 と、考えて黙っていると、青い狼さんがコホンと小さく咳をした。

『ただでとは言わぬぞ。食わせてもらうお礼に、ヌシを守ってやろう。モンスターだろうと人間だろうと、我の敵などおらぬ』

 すごいなぁ、自分でここまで自信を持ってるのって。でも、確かに伝説級のモンスターでも現れない限り無敵なのかもしれない。

『ぬ……娘、我が信じられぬか?』

 黙っていたのを、否の返事と受け取ったのか、少し焦ったような青い狼さんの声が聞こえた。

 自信満々な口ぶりだったのに、収納から出されるかもと

「ごめんなさい、違うんです。えっと……中にルークを、人を入れても大丈夫ですか?あの、男の子なんですけど」

『お前を背にかばって立っていたあのちびのことか?我に刃を向けねば問題ない』

「本当?えっと、人間を……食べたりとか……」

『ない。我の食糧はモンスターの持つ魔素だからな。人間も動物も植物も食わん』

 へぇー。そうなんだ。モンスターが無いからって、動物を収納しても食べられないのね……。

『腹も膨れたし我は寝る。明日も頼んだぞ』

「はい、おやすみなさい!」

 勢いあまって返事しちゃったけれど、これって、青い狼さんに守ってもらうことを条件に収納魔法の中に住回せることに同意したことになるのかな?

 ……毎日モンスターを頑張って収納しないと。


 火が落ちて暗くなり始めたころ、頭上にとても明るい光魔法が上がった。

 拾い村すべてを照らすほどの大きな光魔法だ。

 それを見て思い出した。レイナさんが「魔欠落者の村」だと言っていたことを。

 ドミンガさんの他にも魔欠落者がいるって言うことだよね。……きっと、この大きな光魔法も魔欠落者のものなんじゃないかな……。

 ルークと私は、荷物を配った広い村長さんの家と呼ばれる建物で寝ることになった。奥にはレイナさんと私。衝立をはさんで手前にルークとファーズさんとイズルさんが寝る。

 心配したレイナさんとファーズさんの二人の関係は、どうやら元通りになったようだ。


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