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初めての入浴

「違うよ。軽口をたたき合っているだけだよ。僕がイズルに食うしか能がないくせにっ!って言うのと同じさ。本当はイズルにはいいところがたくさんあるって知っているから言える話。分かる?」

 軽口をたたき合う中?もしかして……それって

「仲がいい友達?」

「友達か、ふっ。そんなこと言うと、イズルは背筋が寒くなるって言うんだろうな」

 ドミンガさんが本当に楽しそうにくすりと笑う。

「まぁ、悪友って単語でも当て嵌めといてくれる?それから、僕がイズルを褒めてたのは内緒だよ」

 褒めてた?

 ああ、いいところをたくさん知っているっていう話かな?

「で、エイルちゃんはどうして森へ行こうとしたの?村に来たばかりで知らないかもしれないけれど、森にはモンスターがいて危険なんだよ。まぁ、近くにはスライムくらいしか出ないけれど。そうそう、あそこ、見える?崖に隙間があるだろう?」

 ドミンガさんが指指したのは、滝がある場所のずっと左。崖が終わる少し前の場所の崖の割れ目だ。

「崖の上のモンスターが落っこちてたまっているから気をつけて。アネクモの糸が張ってあるから村には出てこないけれどね。毒を吐き出すようなものもいるから」

「モンスターがたまっている?」

 それはいいことを聞いた。

 うれしくなって声をあげたけれど、ドミンガさんは私がびっくりして声をあげたと思ったらしい。

「驚かせちゃったね。大丈夫だよ。たまっていると言っても、ほとんどスライムだし、時々別のモンスターも落ちて来るけれどせいぜい5、6匹。しかも、毎日夜にモンスター退治をしているからね。たまりすぎてアネクモの糸を超えてこちらに出てくることもないよ」

 餌場になんていいんだろう!

 安全にモンスターが手に入りそうだ!

「で、エイルちゃんは、どうして森へ行こうとしていたの?」

 え……っと。

「探そうと……」

 モンスターを探そうと思ったんだけど。

「何を?」

 あ……しまった。モンスターとは言えない。

 木の実?茸?野草?森の中で探すものを適当に口にしようと思ったけれど、この森に何があるのか全然わからない。それに、街で生活していたときも森に行って何かを取っていたわけじゃないから……。

「レ、レイナさんを……」

 切り株の掘り起こしをお願いするためと言えば不自然じゃないよね?

「レイナ様?もしかして、ファーズと喧嘩でもした?」

 う、なんで分かるんだろう。喧嘩とはちょっと違うと思うけれど、ファーズが原因で泣き出して走り去ったのは確かだ。

「だったら、多分あそこだよ。ついておいで」

 ドミンガさんは、私が足を踏み入れようとしたところから少し先に進んだ場所から森の中へ入っていく。

 足元を見れば、歩きやすいように下草が踏み固められている。人が何度も行き来しているのだろう。これなら迷子にはならなさそうだ。

 5分程で木の板が大人の背丈くらいの高さまで張られた場所が見える。屋根のない家みたいな感じ?

「レイナ様」

 コンコンと木の板をノックするように叩いてドミンガさんが声をかけると、中から声が返ってきた。

「ドミンガ?ちょうどいいところに!今風魔法で呼ぼうと思っていたのよ!石が焼けたから」

 石が焼けた?

 ぐるりと反対側に回り、ドアを開けて中に入る。

 板で覆われた場所には、池?いや、大きな岩に窪みがあり、池みたいな形になっていた。その横で、レイナさんが石を焼いていた。

「あら、エイルちゃんいらっしゃい。ふふふ、今から面白いものが見られるわよ。本当にすごいのよ、びっくりしないでね」

 レイナさんの声には元気が戻っていた。

 ほっとしたものの、村から少し離れたこの場所にいるのは、まだファーズさんと顔を合わせたくないからなんだろうか?私が原因で言い争いになったし責任を感じる。心配。早く元に戻ってほしいなぁ。

「【水】人肌で四分の3満たせ【水】熱湯を追加、四分の1」

 え?

 ドミンゴさんが耳慣れない水魔法の呪文を唱えると、目の前の池のような岩の窪みにあっという間に水が満たされた。

 湯気をあげた水が……。

 ぼんやりと、湯気の上がる水面を見ていると、レイナさんが私の肩をぽんぽんと叩いた。

「すごいでしょっ!ドミンガの水魔法。出せる量が多いだけじゃなくて、温度調整までできるのよっ!」

 温度調整?

 っていうことは、水じゃなくて、お湯?だから湯気が……。お湯を出す水魔法なんて初めて見た。

「ありがとう。じゃぁ冷めないうちに入りましょう。エイルちゃんもほら、脱いだ脱いだ。あ、ドミンガは手の空いた女性から風呂をどうぞって伝えてきてね」

 ドミンガが囲いから姿を消すと、あっという間にレイナさんは服を脱いでお湯で満たされた窪みに飛び込んだ。

「ほら、エイルも、脱いだ脱いだ」

 ぼんやりと立ったままの私をレイナさんが手招きする。

「あ、もしかして、風呂とか知らない?温かい水浴びだと思えば平気よ?」

 水魔法で出したタライ一杯のお湯で湯浴みをしていたけれど、体が全部お湯に浸かるような風呂は確かに初めてだ。

 ただ、母様から話を聞いたことがある。お風呂で長湯しすぎて上せたことがあったと言っていた。

 それから、香りのよい花を浮かべると匂いが立って気持ちがいいと言っていたっけ。

「【取出】」

 ポプリじゃだめかな?香りはいいし、タライのお湯にも少し入れたことがあった。乾燥して小さくなった花びらがふわっとお湯で膨らんでいくのが好きだったんだ。

「うわー、素敵!エイルちゃん、風呂をわかってるね!ふふふ、そうよ、そう!花風呂最高!」

 思わず母様のことを思い出して、勝手にポプリをお湯に入れてしまったけれど、レイナさんは喜んでくれた。

 初めての風呂。

「ああ、本当だ。母様の言った通りだ……。体をお湯につけると、体だけじゃなくて、心がほわんと暖かくなる。不思議……」

「そっか。エイルはお風呂初めてなんだ。……エイルは、結構いいところの子供なのかな?って思ってたから意外だった。あ、それともユーリオルとガルパの国の風習の違いなのかな?」

 いいところの子供に見えたんだ……。

 私は……母様の名誉のために出自がばれるようなことになってはいけない。もう少し気をつけないと。

「あの、さっきはなんで風魔法を使わなかったんですか?ドミンガさんに伝えてくれって言ってたけれど、レイナさんの風魔法だったら村まで届くんじゃないんですか?」

 これ以上、私の過去に触れられたくなくて話題を変える。

「んー、風魔法は便利だけど、味気ないじゃない?」

「味気ない?」


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