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空腹な者たち

 そっと触れてから話かける。姿が見えていないから、モンスターを目の前にした時ほどの恐怖を感じずに済んだ。

「あ、あの、お腹が空いたって……」

『そうだ娘。モンスターの収納がぴたりと止まったようだが、まさか我のために蛇を探しているのか?我はスライムも好きだぞ。あのぷるんとしたのどごしは癖になる』

 あ、モンスターの出ない村に入ったから……。

「もう少し待っていてください……あの、仕事が終わったら、できるだけ早くモンスター収納しますから……」

 このままモンスターを収納しなかったら、いくら高位モンスターと言えども飢え死にするんだろうか?

 ふと、そんな考えが浮かび、頭を横にふる。

 助けてもらったんだ。ちゃんと恩を返さなくちゃっ!

『我は寝て待つことにする』

 すぐに、いびきが聞こえだした。

 くすっ。そうか、高位モンスターもいびきをかいて寝るんだ。

 毛を大切にハンカチに包みなおして、ポケットに入れる。

 やっぱり、毛を入れる用の何か作らないと。無くしたら大変だ。


 ガコーン、ガコーンと斧が気を打つ音がだんだんと近づいてくる。

「おお、エイル、さっそく頼むよ。大きすぎて収納できないものは飛ばしてくれ」

 シュナイダーさんが私に気が付いて切り株を指示した。

「あれ?レイナ様は一緒じゃないんですか?」

 青い隊服を脱いで木にひっかけたイズルさんが、シャツで汗を拭きながら尋ねた。

「はい。えっと、その……」

 泣いて一人でどこかへ行ってしまったなんて言わない方がいいよね。

「後で来ると思います。では、切り株を掘り起こしますね。【収納】【取出】【収納】……」

 話を突っ込んで聞かれないように、急いで呪文を唱える。

 いくつくらい掘り起こしたかな。ざっと20はある。シュナイダーさん、木を切るの早いなぁ。疲れないのかな?片腕なのに……。

 両腕で斧を振り下ろしているイズルさんの方が疲弊しているように見える。

「疲れてないか?大丈夫か?」

 シュナイダーさんの言葉に、イズルさんがはぁーとため息を出した。

「疲れましたよ、休憩しましょう」

「お前に聞いたんじゃない。エイルに聞いたんだよ。もうかなり収納魔法を使っただろう?そろそろ魔力が切れるんじゃないか?」

 あ、しまった。

 そうだ……。普通は魔法を使える回数は魔力量が尽きるまでだ。尽きたら魔力が回復するまで少し時間が必要になる。ちょっとやりすぎたか……。

「うわー、あれだけ頑張って切った木の根がもうない!レイナ様よりもすごいな。ファーズの火魔法、いやドミンガの水魔法みたいだな」

 私の収納魔法みたい?どういうこと?

「ドミンガ?」

 誰だろう。荷物の受け渡しの場で紹介された村人にはいなかった。

「ああ、水魔法の名手さ。あの滝のような量の水をバンバン出すことができるんだよ。しかも魔力消費量がほとんどない」

「え?そんなにすごい量の水を?すごいですね、ドミンガさん」

 それは、確かに私の収納魔法みたいだ。すごい量の物を収納できる。

「ああ、すごいんだ。魔欠落者はみなすごい」

「魔欠落者がすごい?」

 そんな言葉初めて聞いた。魔欠落者は、魔法が欠けた劣った存在でしょ?

「何十人、何百人……いや、何人集まってもかなわないような魔法を一人で使えるんだから、すごいだろう?」

 すごいと言われても、素直に聞くことができない。

 だって、皆、魔欠落者だというだけで白い眼を向ける。

 私は親に売られ、ルークは命を狙われている。ゴーシュさんは親に山に捨てられた。

「でも、使えない魔法があって、人に頼らなければ生きていけない……」

 魔欠落者を産んだ母様やラァラさんは悲しみ、泣いて、苦しんで……。

「村人は、木を切り倒すのに、俺を頼る。俺は、切り株を掘り起こすのにエイルを頼る。みんな多かれ少なかれ誰かを頼って生きているさ」

 にぃっとシュナイダーさんが笑った。

「そうそう、荷運びはファーズに頼ってるしな。そうだ、塩、塩が今日は使えるんだ!あー、腹減った、そろそろおしまいにしよう」

「イズルは四六時中食べることしか考えてないな……」

 あ!お腹!

 青い狼さんがお腹を空かせて待ってるんだった!

「えっと、魔力が尽きそうなので、また後で手伝いますね!」

 村の端の開拓地に背を向けて駆け出す。


 ……村にはモンスターが出ない。どうしたらいいんだろう。

 ファーズさんと降りた崖の上を見上げる。あの上の森にはモンスターが出ていた。アネクモのロープを使って上に上がるのは、私にはムリそうだ。

 となれば、森の中に入って探すしかない。

「森に用があるの?」

 うっ。

 村人に見つかって声をかけられた。

「あれ?君、見たこと無いね。そういえば、ファーズが誰か連れて来たって話を聞いたけれど君のことかな?」

 声の主は、中肉中背の若い男だ。まだ成人しているかしていないかという感じ。

「はい。エイルです。妹……いえ、弟のルークと一緒にファーズさんに連れて来てもらいました」

「そっか。よろしくね。僕はドミンガ」

 ドミンガ?……さっき、イズルさんが言っていた人だ。

「魔欠落者……で、水魔法の……」

 思わず口をついて出た言葉に、ハッと息を飲む。初対面の相手に、魔欠落者だと言われたら……。影で噂されていたと知ったらどんな気持ちになるのか。

 しかし、ドミンガさんは、私の言葉にも表情一つ変えずにニコニコとしている。

 魔欠落者だって知られても平気なの?

「ああ、僕のことはもう聞いてるんだね。リーアから聞いた?」

 え?リーアさん?

「ちっちゃい頃の失敗談とかも話したりしてないよね?」

 声をひそめてドミンガさんが続ける。ちっちゃいころ?

「いえ、えっと、リーアさんではなく、イズルさんが水魔法の名手だって、すごい人だって言ってました」

 その言葉に、ドミンガさんが面白そうに目を見開いた。

「ふふ、そうなんだ。イズルが。いつもは水魔法馬鹿とか言ってるのにねぇ。本当は僕のことすごいと思っていてくれたんだ」

「水魔法馬鹿?もしかして、魔欠落者だから、水魔法しか使えないことを馬鹿にされてたの?」

 いい人だと思ったけれど、やっぱりイズルさんも魔欠落者を心の底から受け入れないの?


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