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赤い色

「そうだな。ユーリオル王国でも魔欠落者差別はあるか。ガルパ王国では、五体六法揃って、魔欠落していないというだけでは何の意味もない。すべての魔法の力が大きな者が優秀。いくら何かにとびぬけた才能があったとしても……他が劣っていれば評価されない」

 ファーズさんが淡々と言葉を続ける。

 無いことに目を向ける……か。

 私も、そうだったかも。魔欠落者だからって、欠落してることに目を向けていた。使える収納魔法に、私ができることに目を向けようとはしてなかった。

 ルークは、剣を習うって、欠落してることじゃない、これから手に入れる、できることに目を向けた……。私ができること……。

「俺も分かっている。レイナは、結婚から逃げ出したわけじゃないんだ。人を人として見ない世界が嫌になったんだ。レイナは”魔力の強い姫様”としか言われない。どれだけ勉強を頑張ろうが、どれだけ優しかろうが……」

 結婚も嫌なんだと思うけどな。ファーズさん以外の人と結婚するのが……とは思っても口にはできない。

「しかし、思いのほかアネクモの糸が手に入ったからな、釣り糸にも使えそうだな。これで糸が切れて逃がさないで済むぞ」

 釣り?

 そうだ!

「アネクモの糸を収穫するみたいに、魚も収納して取出すれば釣る必要ないよ」

 私はもっと役に立てるんだと、嬉しくなって口にした。収納が小さい人なら無理だけど、魚サイズの収納を持っている人なら何人かいるんじゃないかな。

「あはは。エイル、忘れてるだろう。魚は生きてるんだよ。生きているものは収納できないよ?」

 はっ。しまった。

 そうだった。

 私の収納は、時間停止と状態維持が効かないから、生き物も収納できるんだってこと忘れてた。気をつけないと……。

「あ、そうだった。アネクモの糸みたいに便利に収納使えないかって思ったけど、だめだね」

 動揺に気が付かれないように、わざと明るい声を出す。

「今でも十分便利だよ」

 ファーズさんが頭を撫でてくれた。よかった。動揺していることを疑問に思われなかった。

 ルークは、ちょっと変な表情で私の顔をチラリと見た。うっかり発言に、呆れた?


 村に戻って、荷物を配布した大きな建物にアネクモの糸を置く。

「蜘蛛の巣は、縦糸を取り除いて横糸だけにして使えるようにしなくちゃいけないんだったな。ルーシェ、頼めるか?」

 ルークはもちろんとうなずいた。あれ?私は?

「エイルは切り株の方を頼んでもいいか?」

「はいっ!」

 そうだ。切り株は私の収納が役に立つ。

「あー、切り株んとこ行くついでに、リーアに糸巻きの手伝いをしてほしいと呼んできてくれないか?っと、違うな。風魔法で呼んでもらっていいか?俺の風魔法じゃ、リーアのところまで届かないから」

 ギクッ。

 まただ。使えて当たり前だという言葉に心の奥がガチンと固まる。

 使えない魔法に心を支配されてる。違う、大丈夫。

 私の収納魔法は役に立つんだから。他の魔法が使えなくたって、それを負い目に感じることなんて……。

 だけど、ダメだ。まだ、まだ、ダメ。まだ、心がついていかない。苦しくなる。

「わ、私の風魔法も直接話ができる距離程度しか届かなくて……ルーシェ……いえ、ルークも」

「お?そうか。って、ルーシェじゃなくて、ルークって言うんだな。うん、男らしい名前だ。リーアの家はここから3番目の家だ。頼んだよ。家にいなかったら、ヤンばぁさんに風魔法で呼んでもらってくれ」

 はいと返事をしてリーアちゃんの家に向かう。

 家の外に人の姿はないので、隙間だらけのあばら家の外から家の中に声をかける。

「リーアさんいますか?」

 すぐに、ヤンさんから返事が返ってきた。

「おや?その声は、新しく村に来た子だね?」

 ガタコトと小さな音がして、ヤンさんが立ち上がろうとしているのが分かった。

「リーアは今、あっ」

 ヤンさんの小さな叫び声に、ガシャ、バタン、ドッっと、何かが倒れたような音が続いた。

「だ、大丈夫ですかっ?」

 とっさに、ドアを開けて中へ飛び込む。 

 明るい外から、室内に入ると、目が慣れなくて真っ暗だ。光魔法が使えればすぐに様子が分かるのに……と、じれた思いで目が暗さになれるのを待つ。

 板間に、刺繍を刺しかけの布がおいてあり、そのそばに四つん這いになったヤンさんがいた。

 その手は散らばった糸を手探りでかき集めている。

「手伝います」

 手を伸ばして、遠くに転がった糸を集める。

「ああ、ありがとう。すまないね。慌てて立ち上がろうとして、布に足を取られて糸をひっくり返してしまったみたいでね……」

「怪我はないですか?」

「ん?私は大丈夫だけど、糸置台は壊れてないかい?」

 糸置台?

 2段になった、木製の小さな棚のようなものが倒れている。起こして見ると、特に壊れている様子はない。

「壊れてないみたいです」

「本当かい?よかった。えっと、エイルちゃんと言ったかね?少し、糸をもとの位置に戻すのを手伝ってくれないかい?」

 転がった糸を台に入れるくらい。

「一番左端には赤い糸を置いておくれ」

「え?赤?」

 薄暗い室内では、赤い糸の色がよくわからない。これが赤かな?茶色と言われれば茶色かもしれない。

「ああ、ごめんごめん。暗くて分からないかい?【光】」

 ヤンさんが光魔法で部屋の中を照らした。

 一瞬にして明るくなったため、今度は眩しくて目をつむる。光にならしながらそっと目を開くと、丸く巻いた色鮮やかな糸がころころとたくさん転がっているのが見えた。

 赤い糸を見つけて手に取る。

 4つの赤い糸。

「赤い糸はどんな順番でもいいんですか?4つありましたけど」

 と、手のひらに4つの赤い糸を載せて見せる。

 しかし、ヤンさんの視線は、ぼんやりと一点を見つめたまま、私の手の平に向けられることはなかった。

 私を無視するように、糸置き台に体を向けて、手で台をなぞって一番左端を指さす。

「ここに、夕日のように赤い糸を、その隣のここには、鮮血のような赤を。それから、ここには兎の肉のような赤。最後に、て真っ赤になった頬っぺたのような赤を置いておくれ」

 4つの糸を見比べる。夕日の赤は少しオレンジ色。鮮血は真っ赤。少し濁った兔の肉の赤に、白を混ぜたような赤。

「これでいいですか?」

「このハンカチの刺繍の花の色を見ておくれ、一番外側の花びら、内側の花びら、陰の色、それからつぼみの色の順に置けていれば合っているよ」

 すごい。ヤンさんの刺繍は本当に素晴らしい。花一つにも何種類もの色の糸を使って……。

 あれ?こんなに繊細に色を使い分けて刺繍をしているのに、暗い室内じゃぁ色が分からないんじゃ?

 ヤンさんの顔を見上げる。改めてよく見れば、目は少し白く濁って、何かを映しているようには思えなかった。

「ヤンさん、目……」


次回久しぶりにフェンリルさん登場です。


感想、評価、ブクマありがとうございます!大変励みになります。まだ暗い話が少し続きます。お付き合いいただければと思います。

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