ルークの決意
目的地に着くまでに、数匹の低級モンスターを収納した。レイナさんも、いくつかのモンスターを火魔法や、時には剣を使って倒していく。
姫なのに、細身の剣を器用に扱っている。腕前はなかなかだ。
「すごい……レイナさん……僕なんかより、ずっと剣の腕が立つ……」
ルークがショックを受けたように小さな声でつぶやいた。
ああ、そういえば前にも男の子なのに、私を守れないとショックを受けていたことがあったっけ。
「あったわ、あそこよ!」
レイナさんの言葉に、見上げれば……。
うわー。
まるで蜘蛛の巣の天井のように、木々の間がくもの巣で覆われている場所があった。
一体、いくつのくもの巣があるんだろう。そして、どれほどの数のアネクモが住んでいたんだろうか……。
「【収納】【取出】」
さっそく、レイナさんがくもの巣を収納して地面の上に取り出した。
「やったわ。私にもできるわ!とりあえず、入るだけ収納して村へ戻りましょう」
こくんと頷く。
レイナさんが一つ収納するたびに、私も一つ収納していく。
本当は、きっと見えているすべてのくもの巣を収納できると思う。だけれど、桁外れの大きな収納だということは隠したい。だから、レイナさんのペースに合わせて不自然のない量だけをおさめることにするんだ。
「【収納】」
いくつ目のくもの巣を収納したときだろうか。
「しまった!まだ生き残りが!」
レイナさんの焦った声。上からアネクモがすごい勢いで降りてきた。
「【しゅ……】」
アネクモを収納して危険を回避しようとして、レイナさんの存在を思い出す。生き物を収納できることが知られたら……。
「危ないっ!」
レイナさんに突き飛ばされ、我に返った私の目に、レイナさんの背中が写った。
「【火】業火、焼き尽くせっ!」
レイナさんの呪文と共に、アネクモが炎に包まれた。熱い。すごい熱を持った炎だ。
アネクモは、炎に包まれながらも動きをレイナさんの方に向かってきた。
「首の間接を……」
レイナさんがそうつぶやきながら細身の剣を振り上げた。
カツンという音とキィーンという二つの音がした。
レイナさんの剣は、間接ではなく硬い胴の部分に当たり折れてしまったのだ。
アネクモは、一瞬動きを止めたものの、そのまま突進してきた。
「エイルちゃん逃げてっ」
レイナさんはが、私の前に両手を広げて立ちはだかる。
だめだ、このままでは!
生き物を収納できることを隠すよりも、レイナさんを助けることの方が大切だ!
だけど、レイナさんの背でアネクモの姿を見ることができないっ。どうしようっ!
「【火】業炎、熔けてなくなれ!」
ファーズさんの声が聞こえ、ほっとして力が抜けたレイナさんの体がかしいだ。そして、再び目に飛び込んできたアネクモは、青い炎に包まれ、熔けだしていた。
助かった……。
そう思ったのもつかの間、さらに2匹のアネクモが降りてきた。
「【火】剣……」
ファーズさんが剣を構え、火魔法の呪文を唱える。一緒に森を抜けたときに何度も見た、火を剣に纏わせて戦うものだ。アネクモの首の間接を迷いもなく両断していく。ファーズさんに任せておけば、アネクモの2匹くらいどってことはないだろう。
「ちっ、ダメだ、魔力切れだ」
え?
「何か燃えるものを持ってないか?」
焦るファーズさんの声にいち早く反応したのは、私だった。
「【取出】」
アネクモの糸はよく燃える……だから、火付けに役立つと覚えていたからだ。
「ふっ、上出来」
一緒に入れていた、魔法の石も転がり出た。
「火打ち石か。サービスいいな、エイルよくやった」
ファーズさんが火打ち石を剣にぶつけると、すぐに火花が散り、剣に巻いた糸が燃え上がる。
「せやっ!」
炎をまとった剣を二振りすれば、2匹のアネクモはすぐに息絶えた。
「馬鹿、危ないだろう!柵の外に出るなら、絶対俺を連れていけと言っただろう!」
ファーズが、コツンとレイナさんの頭を小突いた。姫の頭なのに……。あ、いや、ただの幼なじみだっけ?
「えへへ、ありがとう、ファーズ。やっぱりファーズの火魔法はすごいね。私のは全然効かなかったのに、ファーズの青い炎はアネクモを熔かしちゃうんだもん」
「違う……!」
ん?
レイナさんの言葉を、ルークが否定した。
ルークは、今、ファーズに仕留められたばかりのアネクモを見下ろす形で立っていた。
「魔法がすごいんじゃない……。魔法なんて役に立たない。モンスターには、この森では……生きていくには……。魔法よりも、剣の腕、力が必要だ……そうでしょう、ファーズ!」
ルークの目は、何か答えを見つけたように煌めいている。
「そうだな。アネクモを倒すのに必要なのは、剣の腕と火だ」
ファーズさんの言葉に、ルークは嬉しそうに笑った。
「火は、魔法じゃなくても作れる。だから、魔法は必要ない、剣の腕があれば……戦える。強くなれる。そうでしょう?」
「そうだな。魔法はあればあったで便利なんだが……頼りすぎて魔力切れになった後何もできない奴よりは、初めから魔法を頼らない奴のほうが強いことはよくある」
魔法を頼らない……。
魔法があるのが当たり前で、魔法が使えない魔欠落者は、魔法が使える人を頼って生きている。自分が使えない分を他の人の魔力を奪って生きている。
そうか、川の水、火打ち石……魔法を頼らないと思えば、使える人の手を患わせることもない。
「ファーズ、僕に剣を教えて……。僕も、ファーズみたいに強くなれる!僕、強くなりたい!」
「ん?僕?」