レイナとルークの会話
「うっわー、すげーなエイル。収納魔法か。こんなでっかいものも入るんだな」
シュナイダーさんが驚いたのは、収納魔法の大きさだった。そうか、レイナさんは運んできた荷物を出すところを見せたから知ってるけど……。
知ってるのに、レイナさんはなんでそんな困ったような顔をして私を見ているの?
「あああ、エイルちゃんにしてやられた!そうか、そうよね!収納って、単純に物を入れて運ぶだけの物だと思ってたけど……こんな使い方もあったのかぁ……。私も、試してみる!シュナイダーさん、ちょっと根っこが小さめの木を切り倒してくれる?」
そっか。収納魔法でねっこを取り除くっていう使い方に驚かれたのか。
シュナイダーさんはレイナさんに言われてすぐにさっきよりも少し細い木を切り倒した。
「さぁ、やってみるわね!【収納】……って、入らない!私の収納魔法じゃ容量が……」
がくっとうなだれるレイナさん。
「レイナお姉ちゃん、荷物出したら?」
ルークが喜怒哀楽表現の激しいレイナさんとは対照的な冷静な表情でアドバイスしている。
「あ、そうだった!荷物入ってたんだった。【取出】これ、エイルちゃん入れといて!さて、切り株さん、勝負よっ!【収納】」
切り株は綺麗に根っこごと収納された。
「やった!すごい、すごい!」
ぎゅー。
喜んだレイナさんが私とルークをぎゅっと抱きしめる。
「本当にこりゃすごい。掘り出す時間が短縮できる……。開墾のスピードが格段に上がるよ……これからも、手伝ってくれるか?」
シュナイダーさんも満面の笑みで、私の頭を撫でた。
収納魔法で喜んでもらえる。私の、できそこない収納魔法でも……使い方次第で、役に立てる!
「姫さーん、お待たせ。切り株の掘り起こしの手伝いに……あれ?」
「ちょっと状況が変わった。掘り起こしじゃなくて、切り倒しに回ってくれ」
「あとで手伝いに来るから、二人でいっぱい木を切り倒しておいてねー!」
レイナさんは、ひらひらと手を振って歩き出した。イズルさんは、分けがわからなくてこっちとシュナイダーさんの顔をキョロキョロと見ている。
私達3人は、そんな二人を残してそのまま森の中へ入っていった。
「モンスターが出るかもしれないから気をつけてね。出ても小さなものだろうから、小さな火魔法で驚かせれば逃げて行くからね」
まただ。
使えることを前提とした話をされる。それが当たり前なんだけれど……。ふっと心が重たくなる。
「どうして、小さなモンスターしか出ないの?」
ルークが素朴な疑問を口にした。
「滝を嫌ってモンスターが近づかないのは知ってるよね?あの滝はかなり大きいから結構遠くまでモンスターは出てこないんだ。だけど、時々滝の気配っていうの?そういうのが平気なのが現れるんだけど、」
そこまで説明して、レイナさんは言葉を切って、前を見た。
「あった、あれを見て」
小さな赤い紐が空中で揺れている。
「何、これ」
ルークが空中に揺れている赤い紐に手を伸ばす。
「あっ」
赤い紐を掴むと、その左右がキラッと光った。
「その赤い印は、私たち人間用。うっかり引っ掛からないようにね。ほら、エイルも見てご覧」
手招きされて近づく。
目を懲らして見れば、赤い紐は透明な糸に結びつけられていた。
「大人の背くらいの位置、膝くらいの高さ、それからその間に2本、合計4本のアネクモの糸を張ってあるんだよ。モンスターが入り込まないように、柵の変わり。火を使われない限り、下級や中級モンスターじゃ入ってこれないからね」
「だから、糸の間をすりぬけられる小さなモンスターだけしかいないってことか」
ルークが納得したように頷いた。
「便利よね、アネクモの糸。刃物も通さないから、城壁の強化にも使えそうだと思わない?」
城壁?
「火に弱いということは……火に強い素材で挟み込むようにして使うとか?」
「まあ、ルーシェちゃん。そうよ。そう。火に弱い弱点を補う何かと組み合わせて使うの。いいと思わない?」
それから、二人はなぜか城壁談義を続けている。
ちょっと、ルーク、自分が今5歳の幼女設定だってこと忘れてない?
あ、あれ?
本当は9歳で、きっと騎士とか戦争とか勇者とかの物語が好きな男の子だったとしても……。
「矢を射る穴に使うのもいいかもしれない。透明なことを生かして、のぞき窓に使うえば」
「わー、それ、採用!ルーシェちゃん、冴えてるね!」
「あとは……。的が進軍して来る場所に、罠として高さ20センチくらいの場所に張っておくか。馬は足を取られて大混乱になるだろう」
「まって、ルーシェちゃん。さすがにあまり広範囲に使うことは難しいわよ?量が少ないというのもあるけれど、透明だけれど光を反射して光るから、気がつかれる恐れがあるわ!」
「一理ある」
全然、話についていけない。矢を射る穴ってなんだろうか?
「エイルはどう思う?」
は?
全然わかりません。
「モンスターに怯えて暮らす村の周りに柵を作るとか、森の中の街道を安全に通れるように柵を作るとか……」
住んでいた街や、旅の途中で遭遇したモンスターのことを思い出して話してみた。
問われた質問とは全くとんちんかんな答えを口にしたにもかかわらず、ルークも、そしてレイナさんも飽きれた顔をせずに聞いてくれた。
「!エイルちゃん、すごい!そうだよね、城を守ったって、国民が犠牲になるような国どうしようもないよね!」
「街道整備……モンスター被害による損失が減ると、国が得られる利益は……」
って、ルーク、どんな教育受けてきたの!文字を教えられたちょっといい家柄の子だとは思ってたけど……。もしかして、すごく賢かったりする?魔欠落者というだけではなく、家を継ぐ問題のごたごたとかあったりするの?
五体六法満足な兄弟がいるけれど、頭の方がいまいちとか……。それで命を狙われてたり?考えすぎかな。
「ルーシェちゃんっ、そう、街道もそうだけど街もそうだよね!モンスター被害が減ると国民が助かるだけじゃないんだね!国も助かるわけだ!なら、城の強化よりも優先して行わせることができるかもっ!」
と、レイナさんが楽しそうにいろいろと話をしている。
あれ?でも、確か、レイナさんって……国を捨てたって言っていたよね?
「レイナさんは、国も国民も好きなのに、何故国を捨てたの?」
レイナさんが、はっとして顔を曇らせた。しまった。聞いちゃいけないことだったのかな。
「そうだ……私、国を捨てたんだ……もう、国政も国民の生活も……私が背負うものは……」