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村人との対面

 村長の家と言っても、他の建物よりも広いだけで、やはり粗末なものだ。建物の中に入ると、土間に続いて、膝の高さくらいに板間がある。

「【水】」

 レイナさんが水魔法で靴の汚れを綺麗に洗い流した。

「ほらファーズも足を出して【水】。あなたたちは?自分でできる?」

 十分な水量が出せるのか、魔力は残っているのか……それとも、水魔法が使えるのか。どういう意味で尋ねられたのかわからなくて一瞬固まる。

 魔欠落者だということを知られることが、怖い。

 ファーズさんもレイナさんもきっと魔欠落者だからと態度を変えるような人じゃないと、そう思うけれど……。

 姫と騎士……上流階級の人間は、取り分け魔法の力の強さや魔力の大きさで人を判断する傾向にある……。

「水……【取出】」

 水魔法を使うふりをして、小さな声で収納魔法に入れておいた水を取り出す。

 レイナさんが使っていた水魔法くらいの量の水を出して、私とルークの靴を綺麗にする。

「あら、まぁ……あなたの水魔法って……」

 レイナさんがそれを見て驚いた声をあげる。

 しまった。何かミスった?

「二人分の靴が洗えるような水魔法が使えるなんて、ずいぶん大きな水魔法が使えるのね」

 あ、しまった。レイナさんと同じようにと、それしか考えてなかった。

 水魔法が得意な人でも水瓶1杯分がせいぜいなのに、ざーざーとたくさん水を出してしまった。

「あ、で、でも、風魔法は、と、得意じゃないんですっ」

「そっか。じゃぁ、私が乾かしてあげるね!」

 レイナさんは「【風】」と呪文一つで靴に風をあてて乾かしてくれた。

 レイナさんは水魔法も風魔法もずいぶん大きな魔法が使えるみたいだ。

 靴を綺麗にしてから、板間に上がる。

 中央に囲炉裏があるだけで、他には家具らしいものは何もない。所々に何かの毛皮が置かれているだけだ。大人が2、30人ほど寝れそうな広さがある。村長の家というよりも、集会場的な役割の建物なのかな。

「じゃぁ、エイル、荷物を出してくれるか?」

 こくんと頷く。

「あなた、エイルっていうのね。私はレイナ……っていうのはもう言ったかしら?」

「は、はい。私はエイルです。妹はルーシェ」

「話はいいから、荷物が先」

「もぉー、ファーズは融通がきかないんだからっ」

 と、文句を言いつつも、レイナさんは楽しそうだ。久しぶりにファーズに会えたから嬉しいんだろうなぁ。

「【取出】」

 ファーズさんから預かった荷物を取り出す。

「うわー、エイルすごい!収納魔法も得意なんだ!よく入っていたね!」

 どすんと大人二人分の大きさのある荷物にレイナさんが目を丸くした。

 あ、それから途中で預かったアネクモの糸もださなくちゃ。

「【取出】」

 コロンコロンと、頭くらいの大きさにまとめた糸が10こほど転がり出た。

「ええー、まだ入ってたの?これ、アネクモの糸?」

 建物の外ががやがやと騒がしくなってきた。

「ほら、話は後々。みんなが荷物を受け取りに来たから、見やすいように並べてくれ」

 うわー、よくこれだけの荷物をあの体積にまとめることができたね……っていうくらい、解かれた荷物からいろいろなものが出てくる。

 塩の入った袋、衣類、靴、鍋に油、それからよくわからないもの、たくさん。

 あんなに広いと思った床がすぐに品物でうめつくされてしまった。


「さー順番に入ってくれよー並んだ並んだ」

 入口の外で、イズルさんの声がした。

 中年の男女とよちよち歩きの子供が入ってきた。

 男が小さな器をファーズさんに渡す。それをみて、レイナさんが塩の入った袋を手に取った。

「それから、頼まれていたのは子供の服だったな。まだ少し大きいかもしれないが、これでいいか?」

「ああ、ありがとう。子供はすぐに大きくなるから助かる。代金はこれで足りるか?」

 麻の袋から、ザラザラと隅に保存のきく木の実を男は出した。

「ああ、十分だよ。ありがとう」

「ところで、その子たちは?レイナ様の身内かい?」

 私とルークとレイナさんの顔を見比べて男が口を開いた。

 そういえば、レイナさんはとっても美しい金の髪をしている。ルークの色と似てる。顔も二人ともとても整ってて……ファーズさんと親子と言われるよりも、レイナさんと姉妹だと言われた方がよっぽど納得できるよねぇ。

「んー、まぁいろいろとな。しばらくは村に厄介になる。ほら、二人とも自己紹介」

 ファーズさんに言われ、ぴんっと背筋を伸ばして立つ。それから、ぺこんとお辞儀。

「エイルと、妹のルーシェです。よろしくお願いします」

「あら、礼儀正しいのね。私はカラ、主人はルバン。娘のメルは1歳よ。仲良くしてね」

 ニコニコ笑ってくれた。これ、村に受け入れてくれるってことでいいのかな?

 その後も、次々と村人がやってきては同じようなやりとりが繰り返される。

 ファーズさんは、私たち二人の素性や村に来たいきさつなどを濁して答えている。でも、誰も突っ込んで尋ねようとせずに村へ受け入れてくれるような言葉をくれる。

 姫であるレイナさんとその護衛騎士がいるくらいだから……子供二人が村に来た事情なんてどうでもいいのかもしれないけど……。ありがたい。

 魔欠落者だから逃げてきたって……みんなに説明する勇気は持てない。

 物々交換で村人がもってくる品のほとんどは食料だ。

「アレ、手に入ったか?」

 随分背の高い男性が、肩に何枚かの毛皮を担いで入ってきた。

 ドサッと、毛皮を置くと、その下から現れるはずの左腕がなかった。

「ああ、ある。いくついる?」

 ファーズさんがアネクモの糸の塊を見せた。

「おお、たくさんあるな。助かるよ。弓に貼る弦は、アネクモの糸が一番調子がいいんだが、矢を飛ばすときの摩擦熱ですぐにダメになるからなぁ」

「弓?」

 ルークが首を傾げた。

「お、なんだ見慣れない顔だな?ファーズとレイナの子か?」

「ちっ、ちっ、ちがいまっ……」

 レイナが真っ赤になって反応する。

「わはははっ。冗談だ。お前たち、なんて名だ?」

「ルーシェ。姉はエイル」

「よろしくな。俺は村一番の弓の名手。シュナイダーだ」

 シュナイダーさんが大きな手でルークの頭を撫でた。

 片腕で、弓?どうやって引くの?できないよね?昔の話?

「立派な毛皮だな。これなら街で高く売れるよ。他に必要なものがなければ残りはお金で渡すがいいか?」

 毛皮の質を確かめていたファーズがお金の入った巾着に手をかけながら尋ねる。

「金よりはアネクモの糸がいいな。次はいつ手に入るか分からないんだろう?」

「全部渡したいところだが、他にも使うからあと3つと、銀貨4枚でどうだ?」

 へー。アネクモの糸って使い道がいろいろあるのか。たくさんあればあるほどいいのかな?

 いくつか蜘蛛の巣収納したと思うんだけど……。


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