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魔法の石

 ルークの言葉に、とびかかってくる牙兎をすんでのところで収納する。

 ぼーっと考えている余裕なんてなかった。いつどこからモンスターが現れるのか分からないのだ。

「さぁ、村まであと一息だ。ここが最後の休憩場所になる」

 そこにもやはり小さな滝があった。

「昨日狼が現れたこともある。お前たちだけを置いていくのは危険だな……昼は魚にするか」

 ファーズさんがすぐに川辺に足を運び、大きな石を川の中に突き出ている石にぶつけた。

「魚が浮かんできた」

「石の影にいた魚を気絶させて捕まえる方法だよ。ほら、エイル」

 川の中にずぶずぶと入っていったファーズさんは、気絶した魚をつかんでホイホイと私の足元に投げてよこした。

「あ……、は、はいっ!」

 昨日、魚のさばき方を教えてもらったんだ。私に任せてくれた。まだ、ファーズさんほど早くもないし、上手くもないけれど……それでも、私にできるだろうって任せてくれたんだ。

 収納からナイフを取出して、魚の腹に当て、内臓を取り出していく。川の水で洗い、枝を刺す。

「できた……」

 一人でできたっ!

「火の用意もできてるよ」

 ファーズさんが、枝に刺した10匹ほどの魚を手に笑った。

「上出来だ」

 うん。

 嬉しすぎて涙がにじむ。

 火の近くへ行くと、ルークが興奮気味に話し始めた。

「エイル、空気が入るように枝を組むんだ。火が付きやすいようによく乾いた枯れ葉や木の皮を中央に入れる。枝も大きさ別に組む順番を考える」

「ルーシェも物覚えがいい。次は一から頼もうかな」

 ファーズの言葉にルークが顔をほころばせた。うん。できることが増えるのは嬉しい。

「これなら小さな火魔法ですぐに火がつけられる。そうだ、面白いことを教えてやろう」

 面白いこと?

 ファーズさんは、ナイフで河原に転がっている石をガツガツとそぐように叩いた。

「お、これだ。これ。エイル、アネクモの糸を一つ出してくれるか?」

「【取出】」

 アネクモの糸を取り出して手渡す。ファーズさんは、糸をくるくると親指の先に5回ほど巻き付けて切った。

 右手に、さっき拾った石、その上にアネクモの糸を親指で抑えるようにして持つ。

 それを、左手に持ったナイフの側面にカツンカツンと打ち付けた。

「あ、光った」

 ルークがファーズさんの手元を凝視する。火花がアネクモの糸に散ると、糸から煙が出始めた。ナイフを収め、手で囲いを作って息を吹きかける。

 ふわっと小さな赤い炎が上がる。

 それを枯れ葉の間に置いて、さらに息を吹きかけると、火が付いた。

「それ、魔法の石?」

「違うよルーシェ。どこにでもある普通の石。こうして打ち付けて出た火花を燃えやすい物で拾うんだよ。アネクモの糸は燃えやすいからすぐに火がつく。少し難しいけれど、枯れ葉をもみほぐしたり、埃を集めたりしても火がつくよ」

 ルークの魔法の石という言葉が頭から離れない。

 火魔法が使えない私達魔欠落者にとってみれば……魔法の石だ。

 火魔法が使えなくても、火を付けられる!

 川があれば水が手に入り、石があれば火がつけられ、油があれば明かりがともせる……。

 魔欠落者だけど、でも、欠けているままじゃないんだ。ちゃんと、それを補えるものがあるったり……補いあえる人がいたり……。

「私も、やってみていい?」

「いいよ。本当は鉄やすりみたいなものがあればいいんだけどね。ナイフ気を付けて」

 鉄やすりか……。どこかで手に入れたいな。

 初めに、アネクモの糸でやってみた。糸から枯れ葉に火を移すのが少し難しい。

 次に、枯れ葉をもんだものを使ってやってみたけれど、全然火がつかない。……ああ、これは、アネクモの糸をたくさん収納しておいた方がよさそう。

 ……でも、どうやって手に入れたらいいんだろう?自分じゃ倒せないし……。

「焼けたよ」

「あ、はーい」

 ”魔法の石”を収納してから、昼食。

 移動中、アネクモを見つけた。襲ってこないので、収納はしない。ずっとずっと高い位置に、木の間に巣を作っている。

 巣を収納したら、糸は手に入るんじゃない?

「【収納】」

「アネクモっ!」

 足場を失ったアネクモがルークの目の前に落ちてきた。ファーズさんがすぐに気が付いて一閃。

 ごめん……。蜘蛛の巣を収納するのは危険だった……。

「おっと、忘れるところだった」

 まっすぐ進んでいたファーズさんが、くるりと斜め後ろに方向転換した。それからしばらく歩いたところで、降ろされた。

 滝のない場所。木々が少し切れていて光が差し込む場所だ。

「えーっと、あったあった。これと、これ」

 四つん這いのような姿勢になって、ファーズさんが地面に生えている草の何本かを手に取る。

「手伝ってもらえるか?これと同じ形の葉っぱの植物を探して抜いてくれ」

 見せられた何種類かの草を探して引っこ抜いていく。

「お前たち探すの早いなー」

 あっという間に、ファーズさんの両手いっぱいの量が集まった。

「あんまりたくさんでも持っていけないのが辛いところだな……。これが少ないみたいだから、あとはこれだけ探してくれるか?」

 細長い葉っぱの草を探す。

 何の草なのか分からないけれど、せっかくなので細長い葉っぱの草を探す途中で見つけた別の草を【収納】。周りの土付き。

 ファーズさんは、アネクモの糸で草を縛って、背負子につるした。

「さぁ、あと一息だ。行くか!」

 ぷらーん、ぷらーんと、背負子につられている草の束が、時折足に当たる。

「この草、」

 何ですかと尋ねようと思ったら、ファーズさんと声がかぶった。

「今回はずいぶん楽に移動できた。荷物が軽くなったっていうのもあるが、後ろからのモンスターの襲撃がずいぶん少なかったからなぁ」

 あ。姿を見たら収納しまくったから……。もう少し、悲鳴を上げるなりして襲われそうになったふりしないとダメだったかもしれない……。

「荷物じゃない」

「ははは。そうだな、ルーシェとエイルは荷物じゃない。さぁ、そろそろ着くぞ」


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