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青い狼からのもらい物

 一人で魚4匹と鳥1羽が焦げ付かないように見ていないといけない。責任重大だ。

 プチプチと魚の皮が爆ぜるように焦げていく。少し火から距離をとって、裏に向けて木の枝を指し直す。

 そうして、たき火に意識を集中しすぎた。ファーズさんの言葉に、滝の近くは安全だと信じて安心しきっていた。

 気がついたら、川の向こう側に大きな犬がいた。

 違う……狼?

 モンスターじゃないから、滝の近くでも出てきたんだ。

 1匹じゃない。視界に入るだけで、5匹の狼の姿があった。

 狼は群れで行動するから厄介だと言っていたのは誰だったか……。視界に入らない滝の上、それから背後の岩の向こうにも、何かがいる気配を感じる。

 どうしよう……。見えている狼だけなら収納してしまえばいい。だけど、いったん動いたら一斉に襲われそうな気がする。……見えていない狼を収納することはできない。

 そうだ、青い大きな狼。収納魔法に入っている、あの狼のモンスターなら……。

 私が襲われる可能性もある。でも、今、狼の群れに襲われる危険よりは小さいはず。

「【取出】」

 呪文を唱えるのと同時に、狼たちが一斉に私にとびかかろうとした。だけど、それは現れた圧倒的な存在に阻まれる。

『この娘は、我のものぞ。傷つけることは許さん』

 青い大きな狼の高位モンスターが、狼のリーダーを睨みつける。

 え?私が、青い狼のものってどういうこと?私、食べられちゃうの?

 まさか……大きくなるのを待ってるとかそういうことなの?

『去ね!』

 狼たちが慌てて去っていった。

 そして、青い狼が私に顔を向ける

『娘、』

 た、食べられるっ!

『蜘蛛はまずくて食えん。蛇はうまい。覚えておけ』

 は、い?

『さっさと収納しろ』

 全くわけが分からないまま、逆らうなんて選択肢はなくて、呪文を唱える。

「【収……」

『ちょっと待て、これを渡しておこう』

「ひゃっ」

 鋭い爪が生えた前足が、私のすぐ目の前に出されて、思わず後ずさる。

『我の毛だ。あやつらは鼻が利く。これを持っていれば二度と襲われぬ』

 よく見れば、爪の先に青い人差し指くらいの長さの毛が付いていた。

 延ばされた前足は、同じ場所に差し出されたまま、それ以上私に近づけるようなことはない。

『受け取れ』

「あ、ありがとう……」

 恐る恐る手を伸ばし、青い毛を受け取る。

 青い狼はふんっと鼻を鳴らし、早く収納しろと言わんばかりに顎をしゃくった。

「【収……納】」

 言われたことを思い出す。

 手の中にある青い毛は、狼除けになるってことだよね。収納からハンカチを取り出し、無くさないように毛を包んでポケットに入れる。

 それから、蜘蛛がまずくて、蛇がおいしい?食事に困ったら蛇を捕まえて食べろっていうアドバイス?

 ……あっ!もしかして、蜘蛛って、アネクモのこと?蜘蛛の姿をしたモンスター。それから、確か大きな蛇も収納した。

 青い狼の高位モンスターは、収納したモンスターを食べているってこと?

 餌を与えているわけじゃないけど、結果的にそうなってるの?だから、そのお礼に助けてくれた?

 この娘は我のものって、もしかして……。私が食べ物を運ぶ奴隷扱いってことなのかな?別に、大きくなるのを待って食べようと思っているわけじゃない?

 ……もし、そうだとしたら……。

 蛇を探して収納しなくちゃっ。蜘蛛ばかり収納してたら怒らせて、次に取出したときに……食べられちゃうかも……。

 

「大丈夫かっ!すごい大きな"気"を感じたが……」

 ファーズさんが、ルークを背負って飛ぶようなスピードで帰ってきた。

「あ、はい。大丈夫です。狼がいっぱい来て……」

「狼?!」

 ファーズさんが警戒するようにあたりを見回す。

「その狼を追って、なんか強そうなモンスターが来て……こちらには気が付かないまま行ってしまいました」

「なるほど、そうなのか。運が良かったな。怖かっただろう。すまない、一人にすべきじゃなかった。滝があるからと油断した」

 ルークは、全て察したようで何も言わずにとってきたアネクモの糸を私に渡した。

 ちょっと焦げた夕飯を食べて、岩の隙間に3人で固まって眠る。何度かファーズさんは起きて周りを警戒していた。モンスターか獣の気配でも感じたのかな……。


 朝はファーズさんの荷物から干し芋をもらって食べて出発。

 干し芋は保存がきくのか。だったら、私の収納にも入れておけるなぁ。

 時間停止、状態維持が無くても、入れておいても大丈夫な食べ物はきっとほかにもあるよね?何があるんだろう。

 私にできることを考えるようになったらなんだか楽しい。

 ファーズさんの背に揺られながら、昨日と同じように収納しながら進む。襲ってくるモンスター、焚き木、木の実のなる木。

 頭上のアネクモは、襲ってこない限り収納するのはやめる。……青い狼さんが嫌がるだろうから。

「ファーズさん、蛇のモンスターとかいないんですか?」

 おいしい蛇を収納しなくちゃ。

「蛇?三尾蛇や、角蛇なんかは出ることがあるな。高位モンスターであるバジリスクは見たことがない」

「バジリスクって、毒霧を吐くって言う蛇型モンスター?」

「ルーシェはモンスターに詳しいなぁ。そうだよ。ドラゴンなんか伝説級とまではいかないが、蛇の王と言われるモンスターで、蛇型モンスターを使役して街を壊滅したという話もある」

 怖。街を壊滅って……。伝説級のモンスターはそれ以上なの?伝説だから、本当にいるかどうか分からないんだよね……。出会うようなことないよね?

「おっと、噂をすれば出てきた」

 ファーズさんの目の前に三尾蛇が現れた。大人くらいの大きさの蛇だ。ファーズさんは動じることもなく、あっという間に切り捨て、ずんずんと進んでいく。

 あー……切り捨てて死んだ蛇でも、青い狼さんは食べるかな?鮮度が落ちるからいらないとか言わないかな……?

 どうしようか悩んだけれど、収納するのはやめた。

「エイルっ」


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