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私にできること

「【取出】」

 ファーズさんの前方頭上に1匹取り出す。

「出たな。【火】炎剣」

 炎をまとわせた剣で、ファーズさんはあっという間にアネクモの首を切り落とした。ん?そんなに弱くて中位モンスター?それともファーズさんが強いの?

「すごい!アネクモを一撃!」

 ルークが絶賛してる。

「硬くて普通の剣ではなかなか倒せないからな。火に弱いのと、首の付け根は少し柔らかいからそこを付けば問題ない」

 正確に首の付け根に剣を当てられるのってやっぱりすごいことだよね?ファーズさん、強いんだ。

「さぁ、ちょっと手伝ってくれ」

 手伝う?

「この糸は、火には弱いが刃を通しにくいから、高級素材として人気があるんだ。引っ張り出して巻いてくれ」

 ファーズさんが蜘蛛のお尻からちょろりと出ている糸を引っ張った。すると、ずるずるとおしりからどんどん糸が出てきた。

「わかった」

 ルークが引っ張って出す。……気持ち悪いなんて言っている場合ではないよね。私は、巻くのを担当する。

「もしかして、ファーズさんの収入源?荷運びじゃなくて、冒険者が本職?」

 ふとルークが思いついたことを口にする。

「冒険者か……それもいいな」

 それもいい?ってことは違うのか。

「おっと、また出てきたな」

 頭上から2匹のアネクモが降りてくる。ファーズさんにはどってことないようで一瞬で2匹を仕留めた。

 あれ?

「まだ魔力は大丈夫なんですか?」

 立て続けに【火】魔法を使っている。魔力が少ないようなことを言っていなかっただろうか?

「ん?ああ。火魔法に関しては消費量が小さいから問題なく使えるんだ。他の魔法は、俺の場合は効率が悪いようでな……魔力の消費量が半端ないんだ。火魔法20回分でやっと水魔法1回とかな」

 へぇ。そういうこともあるんだ。

 それからもたびたびアネクモに遭遇し、糸を回収する。

「3人だと早いな。こんなに回収できるとは思わなかった」

 糸の塊が一抱えできた。

「じゃぁ【収納】」

「え?まだ入るのか?」

 しまった。ぎりぎりの設定だっけ?

「お昼に食べたナナバの分……空きましたから」

「ああ、そういえばそうだな」

 ほっ。

「助かるよ。ありがとう」

 にっこり笑ったファーズさんに頭を撫でられた。

 私の収納が役に立ってる……。時間停止も状態維持もできない出来損ない収納魔法だけど……。

 胸の奥がほわんと暖かくなった。嬉しい。魔欠落者の私でも、役立たずや足手まといになるだけじゃないこともあるんだ……。


「さて、着いた」

 ついたと言って降ろされたのは、2メートルほどの落差のある小さな滝の近くの岩場だった。

「小さいが滝があることでモンスターの出現は少ない。今日は、ここの岩の隙間で野宿だ」

 野宿……。岩の隙間というのは、大人が3人ほど入れそうな上下左右背後と岩に囲まれた場所だ。モンスターの侵入があるとしれば前方のみ。

 その前方にはモンスターが嫌う滝。そっか。安全地帯っていうこと?まだ明るいけど、無理して進まずにここで野宿するのね。

「夕食をとってくる。あまり離れないから、何かあったら風魔法で声を飛ばしてくれ」

 そう言い残して、ファーズさんは出て行った。

「エイル……僕、いろいろと間違っていた」

「ん?何が?」

「魔欠落者だからって、それを理由にあきらめすぎてた。ファーズさんは強い。火魔法なしでもどんどんモンスターを倒していった。中位モンスターのアネクモ……いくら火魔法の力を借りたといっても、ファーズさんの強さがなければ倒せなかったはずだ」

 うん。それは私も思った。ファーズさんの筋肉を見れば、鍛えているのはすぐにわかる。そして、剣の動きを見たら、素人の私でもよく訓練した凄腕だというのがわかる。迷いがない。正確にモンスターの急所をついているように見えた。

「僕、ファーズさんに剣を習いたい。もっとできることを増やしたい」

「うん、私も。動物の捌き方を覚えて、自分で調理できるようになりたい」

 炊き木を使えば私にだって火を入れた料理が作れる。この森なら、簡単に炊き木は手に入る。

 あれができない、これができないと、できないことを数えるのはやめる。私には何ができるのか、できることを増やしてそれを数えよう。

 何が、今できるだろうか……。

 そうだ!

「【収納】【取出】」

 滝から続く川に、魚の姿が見えた。それを収納してから、陸地に取り出す。

「ルーク捕まえてっ!」

「あ、うんっ!」

 ピチピチと跳ねる魚を、ルークが必死に捕まえる。それから、押さえ付けて石で魚を叩いて動かないようにした。

 そうして、4匹捕まえたところでファーズさんが戻ってきた。手には一部が焦げた鳥を手にしている。

 火魔法で鳥が捕まえられるの?

 ファーズさんが魚の腹にナイフを入れ、内蔵を引き出し川の水で洗う。

「教えてほしい」

 と頼んだら快く引き受けてくれた。2匹目は、手を添えてもらってナイフを使う。3匹目は一人でナイフを使うのを見てくれた。4匹目は、すべて任された。

「上達が早いな」

 ファーズさんに褒められて、すごくうれしくなった。できる。私にもできることは増やせる!

 それから、鳥を捌く手元をじっと見る。覚えるんだ。もっとできることを増やすんだ。

 あ、そうだ。できることといえば【取出】で、ナナバの実を取り出す。

「まだ、入っていたのか……なぁ、エイル、今ナナバを出した分、収納できるスペースが開いたってことだよな?」

 頷いて見せると、ファーズさんは立ち上がった。

「表面が焼けて来たら向きを変えてくれ。中まで火が通るには少し時間がかかる。その間に、ちょっとアネクモの糸をとってくるよ。さっきいくつか倒したんだが、収納してもらえるなら糸が欲しい」

「手伝う」

 ルークがファーズさんのあとを追って行った。


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