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大蜘蛛と大蛇

「後ろからも襲ってくるかもしれないっ、火魔法で脅せばすぐに逃げ出すから」

 ファーズさんの言葉は、何の疑いもなく私たちが火魔法を使えると思っている。”魔法を使えるのは当たり前”だと言われたようで少しだけ悲しくなった。だけど、ファーズさんに悪意がないのは分かるから、このことでファーズさんを嫌いにはならない……。

 火魔法は使えないけど……。

「【収納】」

 目に入ったモンスターたちは、小さく呪文を唱えて処理する。

 それに合わせて、ルーシェがファーズさんに聞こえる声で「【火】」と言った。火魔法を使っているふりか。なるほど。

「ふぅ、大丈夫だったか?」

 ファーズさんが背負っている私たちを下ろしてから、どっと座り込んだ。

「大丈夫です。ファーズさんは?」

「あ、ああ。問題ない。このあたりのモンスターに手こずっていたら、村までは到底たどり着けないからな」


 それから、同じような戦闘を繰り返し、水場に着いた。水が、バシャバシャと高いところから落ちてくる。

 空気が気持ちいい。

「初めて見るか?これは滝というんだ。気持ちいいだろう?逆にモンスターは苦手みたいでな。あまり近づいてこない。休憩しよう。ちょっと待ってな食事の準備するからな」

 ファーズさんがどこかへ去ったすきに、収納から器を取り出して水を入れて再び収納する。こっそりファーズさんの家にあった水瓶を持って来たので、たっぷり水は収納できた。

 それから、滝の水が落ちている場所できらきら輝いてる石を【収納】、手のひらに【取出】。

「わぁ、ルーク、見て!これ綺麗っ!」

「本当、宝石みたい」

 宝石……。

 母様が大切にしていたネックレスを思い出す。絶対に人に見せちゃだめよと、私が10歳の時にプレゼントしてくれたネックレス。

「なぜ、見せちゃだめなの?」

「綺麗だから、見た人が欲しくなっちゃうでしょう?」

 金で模様の描かれた青い半透明の石が金の土台にはめられたネックレス。

 確かに、綺麗だったけれど……。あのネックレスは人に見せたら奪われるほどの物なのかな?

 今、私の手の中にある透き通った薄い緑の石の方がよっぽど綺麗に見える。

「エイル、もっと収納しよう。宝石なら、役に立つ」

「そうだね。うん。お金になるかもっ!」

 きらきら光る石を見つけては【収納】していく。魔獣の森の村に受け入れてもらうにしろ、別の場所で暮らすにしろ、お金はあって困る物ではない。

「お待たせ、ちょっと待ってろよ」

 ファーズさんは、片手に兎を2羽。もう片方の手に枯れ枝を抱えて帰ってきた。

 手際よく兎を裁く。血を抜いている間に枯れ枝をくみ上げ、火を付ける。丸焼きは時間がかかるので、薄くそいだ肉を枝に刺して火であぶって焼いていく。

「ほら、こうして食え。他に何かあればいいんだが、できるだけ多くの荷物を運ぼうと思うと食料は現地調達するほうが効率がいいからな」

 他に食料?そういえば……。

「【取出】」

 パンはまだもつだろうけれど、収穫して入れておいたナナバはそろそろ食べごろのはずだ。そのまま入れておくと熟しすぎて腐ってしまう。

「わ、ナナバじゃないか。何だ、もしかして俺の荷物の他にも、いろいろ収納してあるのか?」

 ギクッ。

「ずいぶん大きな収納だなぁ」

「た、食べる物は旅に必要だから……」

「そうだな。食べ物さえあれば、何とかなる」

 ファーズさんはそこから先、私の収納魔法にふれることはなく、焼いた肉とナナバを黙々と食べた。

 ナナバはまだ少し青っぽかったけれど、この間のように顔をしかめて我慢して食べなければいけないほどひどくはなかった。あと2日くらいで食べごろかな。

「じゃぁ、行くか」

 再び背負子に乗ってファーズさんに背負われる。襲ってくるモンスターの収納と合わせて、小枝を収納していく。

 ファーズさんは、火魔法は着火だけに用いていた。後は焚き木で調理をしていた。ということは、魔欠落者の私達も、着火さえ誰がに手助けしてもらえば……。着火の方法を見つければ、火に困ることはないということだ。たっぷりの焚き木があれば。

「【収納】【収納】【収納】【収納】」

 ファーズさんに聞こえないように小さな声で呪文を繰り返す。視界にさえ入れば、触れなくても収納できるというのは本当に便利。

 調子にのって、枝を拾っていたら……。

 ぼこっ。

 ぎゃっ、しまった。あれ、枝じゃなくて、木の根だったんだ。大きな木を間違えて収納してしまった。

 見えている部分だけじゃなくて、そのもの全体が収納されるんだっ!

 慌てて【取出】したけど、埋まっていた場所に上手に収まることもなく、バランスを崩して木はゆっくりと傾き始めた。

 ああ、取出の位置は大体は指定できても細かく元あった場所というのは流石に無理なのか……。

「何の音だ?」

 振り返ったファーズさんが、モンスターに遭遇した時のようにスピードを上げてその場を離れる。

 どっしーんと、木の倒れる音が響いてきた。

「あれほどの大木が急に倒れるなんて?近くに高位モンスターでも現れたのか?二人とも、何か見なかったか?」

「見なかった」

「根が腐ってたような……」

 原因は私とは言えない。

「そうか、それならいいが……そろそろ中位モンスターも出てくるから、少しでも何かの気配を感じたら教えてくれ。下位モンスターのように小さな火魔法ではどうにもならない」

 中位モンスターか。遭遇したことのあるのは、ビッグスライムと双角兎だ。他にどんなものが出てくるんだろう。

「!」

 大木から糸をつーっと伸ばして大きな蜘蛛が下がってきた。大きななんて表現は生ぬるい。馬のように大きな蜘蛛だ。

「(気持ち悪いっ)【収納】」

 危ない。あのまま降りてきたら、間違いなくあの気持ち悪い姿を目の前で見る羽目になった。

 それからは、また上から何か落ちてこないかと足元の小枝を収納するのを辞めて顔を上げてあちこち見ていた。

 よく見れば、大木の上の方に蜘蛛の巣があるのをいくつも見つけ、気持ち悪い蜘蛛を【収納】していく。いや、まって、私の収納の中が気持ち悪いものだらけになるとか……ちょっと考えたくないんだけど……。

 上を見ていたおかげで、甘くて赤い小さなクランボの実をつける木を見つけた。音で気が付かれないように距離をとってから土と根ごと【収納】。

 ぼこっと大きな穴があく。穴から、しゅわーっと鋭い牙を見せて大蛇が現れた。

「【収納っ】」

 さっきの蜘蛛といい、蛇といい、なんでみんな巨大なの。今の大蛇なんて、胴回りが牛くらいあったよ。

「おかしいな、そろそろ現れてもいいころなんだが……今日は出てこないな」

 ファーズさんの呟きに、ルークが質問した。

「何が出る?」

「ああ、中位モンスターのアネクモだ。巨大な蜘蛛の形をしていて、上から襲ってくる」

 え?もしかして、大きな蜘蛛だと思ってたの、中位モンスターだったの?


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