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魔獣の森へ

 次の日の早朝。街の北門の外。

「本当に、親戚の家まで送っていかなくていいのか?」

 大人二人分ほどの体積がある大きな背負子を、ファーズさんは背負っていた。

 これなら作戦は上手くいきそうだ。

「魔獣の森の村に行きたい」

 ルークの言葉に、ファーズさんははぁっと小さなため息をついた。

「言っただろう?連れていけない」

「足手まといになるからでしょ?体力がなくてファーズさんの足についていけないから」

 ルークがにこっと笑った。

「ああ、そうだ」

 よし。連れていけない理由がそれだけなら問題ない。よそ者を受け入れない村だからとかは一言もファーズさんは言わない。

「ねぇ、じゃぁファーズさんが私たちを背負って連れて行ってくれれば足手まといにならないよね?その荷物よりも私達二人の方が軽いよね?」

 にっこり笑った私に、ファーズさんが困ったなという顔を向けた。

「それじゃぁ荷物が運……!」

「【収納】」

 ファーズさんの言葉は途中で途切れた。

 私の呪文で、ファーズさんの背中の荷物が消えたからだ。

「え、あれ?」

「【取出】」

 ファーズさんの足元に荷物を取り出す。

「これで、背負えるよね?」

 ルークの言葉を無視して、ファーズさんは私の両肩に手をのせた。

「今のはエイルの収納か?まだ入るのか?」

 興奮気味のファーズさんの言葉に、嘘で答える。

「す、少しなら入るかもしれませんけど、ほぼ限界の量だと……」

 これくらいなら、例え噂になっても戦争に駆り出されるような話にはならないよね。

「ちょっと、待っててくれないか?」

 ファーズさんが街の中に駆け戻っていく。


「あれ?ファーズの奴、荷物ほっぽってどこへ行った?」

 おじさんが一人、街の中から現れた。昨日食堂で見た顔だ。

「忘れ物を取りに戻りましたよ」

「そうか、行き違いか。そうだ、お前たちも南の街から来たんだろう?いくつか向こうの街で、神父も匙を投げた病気を治した凄腕の回復魔法使いが出たと噂を聞いたんだが、知らないか?」

 え?それって、もしかして……。

 ルークのこと?……もう、こんなに離れた街まで噂が流れてきたの?

「誰か、病気なの?」

「うちの娘が、声が出なくなっちまったんだ。教会で見てもらって何度も回復魔法かけてもらったんだがちっとも治らねぇ」

 ほっと胸をなでおろす。

 命に係わる病気じゃなくてよかった。

「声が出ないんじゃ、呪文が唱えられねぇ。このままじゃ、魔欠落者と変わんねぇよ。せっかく五体六法満足に生まれてきたってのに……魔欠落者なんかと一緒にされたんじゃ、娘が不憫で……」

 びくっと体が震える。

 ルークの手が伸びてきて、私の手を握った。

 男は私たちが知らないと言うとファーズさんを探しに街に戻っていった。

「僕……、逆差別しない自信がない……あんな奴助けたくないって思った」

「世界中の人を助けられるわけじゃないから、助けたくない人は助けなくていいんじゃない?人を見て判断するのは差別じゃないと思うよ。人を見ないで、一括りで決めちゃうのが差別じゃない?例えば、貴族だから嫌いとか。貴族にもいい人いるかもよ。逆に、魔欠落者“仲間”にだって、嫌な人いるよ」

「そっか。うん、そうだよね。ありがとうエイル」

 9歳の心で、ルークはいろいろなことを考えている。

 私は……。きっとルークほど深く考えてはいない。単純に好きか嫌いか……それだけ。

 でも、なんとなくね、見た目や地位や能力……人はそれ以外の大切なものがあって、それが心とか性格とか……。心や性格は、遠くからじゃ分からない。

 だから、きっと、もっと魔欠落者も普通の人ももっと近づいてお互いを知れば……いわれのない差別が減るんじゃないかなんて……無理かなぁ。


「すまんすまん、待たせた。というかもうちょっと待ってくれ」

 両手に荷物をいっぱい抱えてファーズさんが戻ってきた。背負子に積み上げられた荷をほどいて、荷造りをし直している。

「頼まれてはいたんだが、さすがに重すぎて一度には持っていけなかったんだよ。鉄製品は村では常に不足しているからね」

 と、鉄鍋や鉄板など、重そうな鉄製品を積み上げる。鍋の中には、小さな別の品を詰め込み体積をなるべく小さくする工夫をしている。

「さて、さっきより重くはなったが体積はほとんど変わらないと思うが、収納できるか?」

 問題ないことを示すために収納する。

 足元には、まだ一抱えほどの衣類などの荷物があった。背負子にくくり付けファーズさんが背負い、腰を落とす。

「乗れるか?」

 ルークと背中合わせで背負子にのる。足が、ファーズさんの右側と左側にぶらぶらする形だ。

「落ちないようにつかまってろよ」

 片手はファーズ背負子の棒の部分につかまり、もう片方の手は、ルークとクロスして組んでから、背負子の底をつかんだ。

「よいしょっと。お前ら、軽いな。これならもう少し荷物を積めるか?」

「お兄さん、積む場所ないよっ!」

「あはは。そうだったそうだった。じゃぁ行くぞ」

 と、ファーズさんが足を1歩前に出して止まった。

「あー、しまった。大事なこと忘れてた……。お前たちは、どうして魔獣の森の村に行きたいんだ?興味半分じゃ連れていけない」

「両親がいないのは本当。親戚の家に行くのは嘘。本当は親戚から逃げてる」

 ルークの簡潔な答えに、ファーズは今度はしっかりと歩き出した。

「信じてくれるの?」

「子供二人なら、普通は迎えに行くだろう?自分たちで遠くまで来いというようなやつらはろくな人間じゃないと思っていた。よほど貧しいなら別だがな。お前たち、それほど貧しくはないだろう?」

 扱われ方は別としても、食べることに困るようなことはなかった。

 ルークも、もともと着ていた服は街の人たちと比べて高そうなものだった。それに、文字もすらすらと書いていた。

「ファーズさんも貧しくはないですよね。荷運び意外にも仕事してるんですか?」

 ファーズさんが笑いだした。

「荷物運びが仕事か……うん、確かに、今はそれが仕事か、違いない。くっくっく」

 え?違うの?

 何が面白いんだろう?

「おっと、揺れるぞ、しっかりつかまれっ!」

 突然、ファーズさんがスピードを上げて駆け出した。

 大きく振り上げた剣が、右に左にと繰り出される。角兎だ。


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