青の
ルークがシャツの胸元を開いて、鎖骨の下をあらわにした。
そこをぎゅっと手で圧迫してから手をどけた。
圧迫したことで白くなった肌に、赤い模様が浮かび上がり、すぐに消えた。
「今のは……」
ツイーナさんが口元を抑える。
「僕はユーリオルの第一王位継承者。魔欠落者だからと排斥しようとした人間に命を狙われ国を追われている」
え?
「5年で、僕は、僕の地位を取り戻し、ユーリオル王国を手に入れる。そして、ガルパ王国と手を取り神殿と戦う。この世を変えるために」
まさか、ルークが……。ルークが王位継承者?
「だから、新しい神殿を作る準備を5年で進めてほしい」
ルークが神官の目を見た。
子供の夢物語だと一笑するのは簡単だ。だが、笑わない。
それどころか、神官二人は片膝をついた。
「殿下……わかりました。信じて5年、新しい神殿の、神官、神父となれる人物を集めます。白い神官服を脱ぎ捨てる人物を……」
泥と煤まみれの神官服を見下ろす。
「小さな国じゃが、仲間に入れてくれぬか?必要な資金の援助や仲間をかくまうくらいのことはできるはずじゃ」
「ジョセフィーヌ様!」
いつの間に来たのか、ジョセフィーヌ様が宰相と将軍と立っていた。
「赤は敵、青は味方という声が飛んできたが、青というのは貴殿のことであろう」
ジョセフィーヌ様がブルーを見上げる。
「我が国を救って下さり感謝申し上げる。何をもって貴殿の恩に報いればよいのか妾どもは知らぬゆえ、教えていただけぬか?」
頭を下げるジョセフィーヌ様に、ブルーはそっぽを向いた。
「我は国を救ってなどおらぬ。主を守ったまでだ」
ブルーのしっぽがゆらゆらと揺れている。
お礼を言われることに不快な思いをしているわけではないようだ。
「どうしても礼をしたいというならば、主の望むものを与えよ」
「えっ、ブルー、私の望むものって」
「エイル、ブルー殿の恩に報いねばならぬ。どうか望みを言ってはもらえぬか」
ジョセフィーヌ様だけじゃなくて、宰相や将軍、それからツイーナさんの目が私に向いている。
望み?
でも、私は別に欲しいものなんて……。
「ほらエイル、さっきさドラゴンの骨が欲しいって言ったみたいに、欲しいもの言いなよ」
欲しいもの?
「じゃ、じゃぁ、あの……モンスターを」
「なんじゃと?」
私の答えに、ジョセフィーヌ様が驚きの表情を浮かべた。
「えっと、今じゃなくていいんです。ブルーが来たら、モンスターをごちそうしてあげてください。スライムとか弱いモンスターで構わないので……。あの、ブルーは、スライムはぷるるんとのど越しがよくておいしいそうなんです。それから蛇型のモンスターが好物で、クモはまずいって言ってました。だから……」
今度はブルーが驚きの声を上げる。
「主よ、主の欲しいものを望めばよいと言っておるのに、何を言うのだ!」
「これが、私の望みだよ、ブルー。私がいなくなっても、ブルーがお腹を空かさないように……」
ブルーが腰を落として頭を下げて私に鼻先を寄せた。
「主がいなくなるなど……」
そっと手を伸ばしてブルーの目元に触れる。
「本当、エイルらしいね。ブルー、素直にお礼を言えばいいよ」
ルークが私の隣に並び、ブルーの鼻をぽんぽんとたたいた。
「救世主青き守護神ブルー殿が姿を現し時モンスターを捧げるべしと、法典に明記する。それでよいか?」
今度はルークが目を丸くした。
「守護神……だって!」
神官が手をたたいた。
「そうだ。新しい神殿の神官服は青にしましょう。今ある教会が白の教会なら、我らが作るのは青の教会」
神官の言葉に、皆の口が動いた。
「青の教会」
きっと皆の気持ちは同じものだろう。
そう、素晴らしい!
とても素敵だ。
青の教会が広がって、ブルーがずっと食べ物に困らずに幸せに生きていける世界を想像すると、とても幸せな気持ちになった。




