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「主の友よ、我が生きているのは嬢ちゃんの温かな回復魔法のおかげだ」

「それから、僕の魔法のおかげだよね?」

 ルークがブルーに笑いかける。

「これで、貸し借りなしだから」

 ルークが人差し指をブルーに向けて突き出した。

「もう坊主って呼ばないでちゃんとルークって呼んでよっ!」

 ブルーが楽しそうに笑う。

「そうか。悪かった」

「嬢ちゃん?」

 カインさんが不思議な顔をしてテラを見た。

 あー、そうか。

「テラは女の子だよ?身を護るために男の子のふりをしてるだけで」

「なんだ、人間は男女の違いも分からぬのか?」

 ブルーがふんっと鼻を鳴らす。

「なんでブルーは分かるの?」

 尋ねたら、ブルーが首を傾げた。

「分からぬというのが分からぬ。分かるであろう?女のような恰好をしている男のことも、人間は分からぬのか?」

 え?女の恰好をしている男?

 誰のことだろう?

「皆の避難は完了しました。今からそちらへ向かいます」

 ツイーナさんの声が届く。

「【風】ドラゴンは倒しました。これから僕たちも城へ向かいます」

 カイルさんが風魔法で声を返す。

「今の声のやつだ」

 え?

「ツ、ツ、ツイーナさんが男?」

 でも、だって、え?身支度の手伝いとかしてくれたよ?

 髪の毛もきれいに整えてくれたし……?

「ところで、これ、どうする?」

 ルークがドラゴンを指さした。

「ブルー食べる?」

「冗談ではない。毒まみれでとても食えたもんじゃない。だが人間どもには貴重な素材が取れるであろう?肉や骨に残ったドラゴンの気が魔物除けの効果も持つはずだぞ?」

 魔よけの効果?

「ほしい。魔よけの効果が骨にあるなら、骨が欲しい」

 ブルーの耳がピクリと動いた。

「主が何かを欲しいというのは珍しいな」

 え?

「そういえば、そうだね。エイルが何かを欲しがるのって珍しい」

 ルークが笑う。

「私……、うん。そうかも。魔欠落者だから何かを望むなんてしちゃダメだって思っていたから……。欲しいなんて言葉、自然に出てくるなんてびっくりした」

「まぁでも、自分のために欲しいわけじゃいよね。魔獣の村のために欲しいって言ったんでしょう?」

 ルークの言葉にうなづく。

 滝以外でも魔物除けができれば、村を少しでに広げることができる。安心して村で過ごすことができるようになる。

「エイルらしい」

 私らしい?ルークから見た私ってどんな人間なんだろう?

「さぁ、きれいになった」

 テラがすっかり煤が落ちて青い毛並みが見えたブルーを見上げている。

「ブルーはきれいになったけれど、みんな真っ黒だね」

 ルークの言葉にテラやロンさん、それにいつの間にかブルーの体を一緒に洗ってくれていた神官やカイルさんを見る。

 確かに皆、服も手も顔も真っ黒になってる。

「本当だ。ははははっ」

 テラが声を上げて笑った。

「ちょうどいい。こんな服、もう脱ぎ捨てようと思っていたのだから」

「ああ、その通りだ。中の黒さを隠すために表面だけ白く見せてる悪魔の装束などもう必要ない」

 神官二人が、煤で汚れたかつては白かった神官の服を脱ぎ捨てた。

「いいんですか?」

 心配になって訪ねる。

「神殿に逆らったら、困るんじゃないか?」

 ルークも心配そうに神官を見た。

「皆さん、どうしたんですか?城に来るのが遅いから……って、真っ黒じゃないですか!」

 ツイーナさんが息を切らしてこちらにかけてきた。

「あなたたちは……」

 ツイーナさんは、脱ぎ捨てられた神官服に視線を落としてから、神官の顔を見た。

「勝手なことを言うようだが……。この国で働かせてくれないだろうか?」

 神官の一人が口を開く。

「もう、神殿から出る。神官はやめる」

 もう一人の神官が言葉をつづけた。

「私もだ。あの子たちに比べたら回復魔法では役に立たないかもしれないが、鉱山の採掘でも荷運びでもなんでも手伝います」

 ツイーナさんが困った表情を浮かべた。

「私の一存では何とも言えませんが……ジョセフィーヌ様が元とはいえ、神殿関係者を受け入れるかどうかは……」

 ああそうか。妹さんは神殿の人間に殺されたようなものだもの。

 神殿関係者がいれば、つらいことを思い出してしまうかもしれない。

「ねぇ、それよりも、ガルパ王国に行かない?行ってさ、新しい神殿作ろうよ」

「新しい神殿?」

「神殿っていうか、新しい教えを広める宗教っていうか。そもそもさ、神殿が力をつけたのって、病気やけがを治してくれるからでしょ。だったら、病気やけがを治してくれる新しいところがあれば、神殿の教えなんて守らなくなるんじゃない?命を盾にされなくなればさ」

 ルークの言葉をよく考えてみる。

「レイナさんが言っていた、教会の代わりをまず作るっていうことと同じ?」

「まぁ、それはそうなんだけど、いきなり魔欠落者に治療してもらうのってハードルが高いだろうなぁとは考えてたんだよね。だからさ、元神殿関係者の神官が新しい教会を作ったというのであれば、みんなも受け入れやすいのかなぁって。で、そこで魔欠落者とかかわったからってそれは罪でもないし、穢れることもないって教えていくとか、どうかな?」

 信仰には信仰?

「いいですね」

「仲間を集めます。神殿をやめさせられたり、やめていった者に声をかけてみます」

 ルークと神官が手を取り合おうとしたときに、ツイーナさんが口を開いた。

「神殿と敵対するようなことをしたら、神聖軍が動きますよ?ガルパ王国が他国に攻め込まれる可能性もありますよ?」

 ルークが口元を引き締める。

「ガルパ王国とユーリオル王国手を組めば、神聖軍も他国も簡単には手を出せない」

 ツイーナさんが首を傾げた。

「ガルパ王国とユーリオル王国が手を結ぶことなど、ありえないのでは?今もあまり関係はよくなかったはず。大国がにらみ合っているからこそ、むしろ戦争が起きずにいるはずで……」

 ルークが唾を飲み込む。

「5年だ。5年でレイナとファーズは国を掌握し安定させる。そして、その5年で僕は知恵と力と仲間を手に入れ、取り戻す」

 取り戻す?

 何を?

9月14日前後に2巻発売です。

よろしくお願いいたします。

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