泥
あのすさまじい爆発でもまだ飛び上がれるなんて……!
当たりは火の海だ。爆発は収まったけれど、炎はあたりに漂っていたガスを次々と燃やして広がっていく。
ブルーはどこ?見えない、見えない!
「「「【水】」」」
突然、大量の水が火の海をかき消した。
「カイル!」
テラの声に振り返れば、カイルと、青い布をつけた人が2人立っていた。
「なぜここに?避難は?」
テラの言葉にカイルがふっと笑う。
「もう、僕にとってここは大切な故郷だからね。守るのは当然だよ」
あっという間に水魔法で火が消えた。
「【風】」
残った煙を、カイルさんは風魔法で吹き飛ばす。
「【回復】」
「【回復】」
全身真っ黒になったブルーが横たわっていた。
そんな……。
ルークやテラたちが必死に回復魔法をかけてくれている。だけど、ブルーは動きを見せない。
まさか?
「や、やだよ……ブルー……やだよ……」
高く飛び上がっていたドラゴンが降りてきた。
「ちっ打つ手なしか!」
ルークの言葉に、神官の一人が口を開いた。
「そうでもないみたいですよ。もう、飛べないらしい」
下降してきたのではない、共ぐらいのドラゴンは、落下してきたのだ。
地面にたたきつけられると、苦しそうにのたうち回りだした。
「あれ、息を吐くたびに、口から火が出ている」
テラがドラゴンを指さした。
「本当だ……、体の中でガスが燃え続けているのか……内部からドラゴンは焼かれている」
ルークが地面を転がり続けるドラゴンを見た。
「ブルーっ!」
ドラゴンの注意がこちらに向いてないなら!
ブルーに向かって駆けだした。
途中、ぬかるんだ地面に足を取られて何度も転ぶ。
服は泥だらけ、きっと顔も手も泥まみれだ。
「【回復】」
転んでぶつけた足や手は、誰かの回復魔法ですぐに痛みは引いた。
「ブルー!」
泥だらけの手を、ブルーの真っ黒になってしまった鼻先に伸ばす。
「ぶはーっ!」
「きゃっ!」
ブルーの勢いよく吐き出された鼻息に、吹き飛ばされしりもちをつく。
「ブルー!」
しりもちをついたまま、ブルーの顔を見上げる。
「主よ、泥だらけではないか?」
「よかった……生きて……生きてた……」
「当たり前だ。我はあれくらいの炎では死なぬ。ただ毒ガスとともに火を吸い込むとまずいからな。息を止めていただけだ。耳も塞いでいた」
ブルーの寝ていた耳がピーンと立った。
自分でふさいだりできるんだ……。
「なんだ、息を止めてただけか!びっくりした。回復魔法が聞かないかと思ったよ」
ルークが来た。
「坊主。回復魔法はしっかり効いておるぞ。体は何ともない」
ブルーが立ち上がった。
「しっかりか……それは治せなかったけど……」
ルークが、失われたブルーの前足を沈痛な面持ちで見た。
「ああ、大丈夫だ。1年もすればまた生えてくるだろう」
「「え?」」
私とルークの声が重なる。
「生えて、くるんだ……」
「よかった。よかったぁ、ブルーっ!」
ブルーの残った前足にしがみつく。
顔は、泥と涙と、そしてブルーから移った煤でぐちゃぐちゃだ。
「あーあ、二人とも汚いなぁ、頼める?」
ルークが振り返ると、カインが頷いた。
「【水】」
雨のように優しく水が降ってくる。
ブルーの体をこすると、黒いすすが落ちて、綺麗な青い毛が見えた。
「手伝うよ!」
テラが一緒にブルーの煤をきれいにしてくれる。
「あ、そういえばドラゴンは?」
振り返るとドラゴンは動きを止めていた。神官の一人が手を振っている。
「息はありません」
その言葉に、皆一斉に歓喜の声を上げた。
「やった!」
「やったぞ!」
「すごいよ、ブルー!やっぱりブルーは強いよ!ありがとう!」
ぎゅっとブルーの足にしがみつく。
「主、我の力ではない。我一人では悔しいが共ぐらいのドラゴンには勝てなかった……」
「でも、ブルー殿がいなければ勝てなかった」
ロンさんがブルーの背中の煤を洗いながら言った。
「そうですよ。ブルーがいなければ、今頃みんな死んでたよ。ありがとう」
テラがお礼を述べる。
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