ロン
「魔欠落者のロンは、十歳のころに卒業した」
卒業?
「十歳からは風読み弓使いのロンになった」
風読み弓使い……。
「それから、今は、風読み弓名人のロンだ」
「風読み……弓名人の、ロン」
ロンさんがうんと頷く。
「魔欠落者を卒業するって面白い言い方だね」
ルークがふっと笑う。
「周りが私を魔欠落者と呼ぶのと、自分が自分を魔欠落者だと呼ぶのは別の話だって、父親が弓を仕込んでくれた。得意な風魔法を生かせる道を示してくれたんだ」
「いい父親を持ったんだな……」
ルークが少し寂しそうな顔を見せる。ルークは命を狙われていたけれど、両親の話を聞いたことはない。その命を狙っているのが両親だとすると……。
母様は私のことを愛してくれた。
だけれど、ロンさんの父親のように生きる道を示してはくれなかった。
ううん、違う。
水魔法が使えなくても川に行けば水はあると教えてくれた。森にある食べ物を、たくさんのことを教えてくれた。
ジョセフィーヌ様達が関心するような綺麗な文字が書けるように教えてくれた。
魔欠落者を卒業して、自分ができることに自信を持つ生き方……。弓だったり文字を書くことだったり……。
それは、魔特化者として得意な魔法を生かした生き方ともまた違う……。
生まれながらに持っているものではなく、努力して自分の力で手に入れるもの……。
ふと、グリッド商店で働くゴーシュさんを思い出した。「パン作りは得意だ」とおいしいパンをたくさんくれた。
ふっ、ふふふ……、そうか、うん。
魔欠落者でも、魔特化者でもなくって……魔力の大小や使える魔法で差別も逆差別もしない世の中……。
無理じゃないのかもしれない。
「いいぞ、準備はできた」
ロンさんが火打石を巻いた矢を手に持つ。
「弓使い、射程距離はどれくらいある」
ブルーがロンさんに質問しながら、街から距離を取った。
「届くか?狙えるか?」
「ああ、問題ない、任せてくれ」
ロンさんが頷くのを見てブルーが私たちを見た。
「主、火が広がるといけない。なるべく離れていろ」
「さぁ、エイル、そろそろまた魔力の限界だろう、行くよ」
ルークが私の手を引いてブルーからさらに遠くへ、ロンさんからも離れた場所に引っ張っていく。
「ルーク、でも」
「見えていれば収納出来るでしょ?もし、火が回ったら、収納すればいい」
そうか。ブルーが心配だからって近くにいても足手まといだ。ルークの言う通り。
もし火が上がったらロンさんやブルーを収納して火の届かないところに避難させられる。
「主、出せ。我がドラゴンを押さえつける。」
うん。
「【取出】」
ルークは常に回復魔法を皆にかけ続けて魔力が尽きないようにしている。
そのため、肉体的な疲労は私もテラも神官の二人もルークも感じていない。ブルーもきっと。
だけど、いつまで続くかわからない戦闘に、精神疲労はたまってきている。
お願い、この作戦、成功して!
共ぐらいの赤いドラゴンがブルーの目の前に出現する。
羽根はすでに穴だらけだ。尻尾もあちこちから血を流している。だけれど、まだ力強く羽ばたき、尾を振り回すことができる。鋭い歯で、ブルーに噛みつくことも。
ドラゴンが大きな口を開いてブルーの後ろ脚に噛みつこうと首を曲げる。
ブルーは軽く飛び上がりそれをかわすと、ドラゴンの首筋に噛みつき、後ろ脚で羽根を踏みつけた。
首をふりブルーを振り払おうとするが、それが叶わないと知ると、ドラゴンが口を半開きにする。
吐く。
大きく開けたときは噛みつこうとしているときだ。半開きの時は、ガスを吐く前。
緊張が走る。
ひゅんっと、ロンさんが矢を射る。
「【風】」
ロンさんが風魔法で矢の速度を上げ、軌道を修正した
カッと、矢がドラゴンの歯に当たった音がした。いや、聞こえるはずがない距離なのに、音が聞こえた気がした。
その瞬間、すさまじい光景が目に飛び込んでくる。
爆発。
そう、爆発とはこういうものなのか!と。
口から吐かれた毒ガスが一瞬にして真っ赤な炎と化し、すさまじい爆風と爆音が響き渡る。
「【収納】」
すぐにロンさんを収納して安全なところに取り出す。。
立っていられないほどの爆風。
すぐに膝をつく。
ブルーは、大丈夫なの?!
収納しなくちゃ!
爆心へと視線を戻す。
「!」
激しく燃え上がる炎。そして立ち上がるすさまじい量の黒い煙。
「ブルー!」
見えていれば距離があっても収納できる。
見えなければ……収納できない!
そんな!
「ブルー、ブルー!」
飛び出して煙の中に突っ込もうとしたところをルークとテラに止められる。
「エイル!危険だ!」
「でも、ブルーが!」
どうなっているの?
炎と煙の中から、ドラゴンが飛び上がった。
「そんな……」




