救出
ハーグ君がちっちゃな声でつぶやいた。
「神殿にもいろんな人がいるんだな……みんな同じじゃないんだ……」
うんと頷く。
追放された人がいたなんて知らなかった。
疑問を持っている人がいるなんて知らなかった。
どれくらいの人がいるのかわからないけど、もともと神父や神官をしていた人間だ。回復魔法の力が強いことは間違いない。
元神官……元神父たちが、レイナさんに協力してくれないだろうか。あとで話を聞いてもらおう。
「【収納】」
目の前の神官が驚いた顔をしている。
なんで?
「エイルっ!」
ハーグ君の叫ぶ声と、それから……背中に走る衝撃。
何?
「やめろっ!何をするっ!エイル、エイル、大丈夫か!」
「ふっ、はははははっ、さぁ、我が僕よ助けに来ましたよ?」
口に温かいものが上がってきた……。何、これ。
口から流れ出たものを見て、血だと自覚する。私、背中を刺された?
「ヴィドルク様、何を……助けるとは……」
「ふふふ、魔欠落者に助けを求めたら穢れますからね。けれど大丈夫。穢れの元さえ始末してしまえばなかったことになります」
なんで……すって……。狂ってる。
「【回復】」
「【風】助けてくれ、魔欠落者の少女が命を狙われている!」
神官の声が聞こえる。
「【回復】【回復】すまない、私の力ではこれだけしか直してあげられない……」
口に上がってくる血が止まった。それとともに、激しい痛みを感じ始める。
「何をしているのです!薄汚い悪魔の子は死なねばならぬのだと、分からぬのか!」
「ヴィドルク様っ!」
ヴィドルクが剣を神官に向けて振り下ろしたのが見える。
「【火】悪魔はあなたの方だ!」
もう一人の神官が火魔法をヴィクトルに向けた。
だ、ダメ、もし毒ガスが残っていたら、危険……!
「大丈夫か!何をするっ!」
駆けつけた鉱夫たちが一斉にヴィクトルに飛びついて抑えつけた。
神父が腰に巻いていた神殿関係者の証のベルトを解き、ヴィクトルの腕を後ろ手に縛る。
「エイル!【回復】」
「ゲホ、ゲホッ、ありがとう、テラ……」
口に残っていた血を吐き出す。痛みは引いた。
「ありがとう、二人のおかげで助かりました」
神官に頭を下げると、
「いや、こちらこそありがとう。そして、すまなかった」
「くそっ【火】」
ヴィドルクはまだ抵抗を続けている。
「やめろ!坑道で火を使うなっ!」
「うわぁ!まずい!毒ガスが残っていた!」
足元がたちまち燃え上がる。逃げるぞ!ハーグ君の服に火が移る。
「うわぁ!」
「【水】」
カイルさんがすぐに水魔法で火を消し止めた。
「【回復】」
神父が呪文を唱えるとすぐにハーグ君の火傷は消えたが、そうしてる間にまた足元の火から別の鉱夫の服に火が付いた。
「テラ、ごめん、テラの回復魔法を信じる……」
テラの手を握る。
「うん」
もう一方の手でカイルさんの手を握った。
「カイルさん、水魔法で助けて」
「ああ」
二人の返事を確認して呪文を唱える。
「【収納】」
テラとカインさん以外の全員を収納し、走り出す。
順々に火が燃え移っていったのではきりがない。
私とテラとカイルさんの三人だけなら……。
燃える、水魔法で火を消す、回復魔法で回復する、熱い、痛い……。
テラごめんね、勝手に道ずれにしちゃった。カイルさんもごめんね、説明なく付き合わせちゃって。
来た道にはハーグくんの光魔法で明るいままだから迷うことはない。
「【水】【水】――」
「【回復】【回復】――」
走って、走って、走って……
「大丈夫か!毒ガスに引火したんだな!」
「【風】毒ガスを押し戻し続けるわけにいかない……どうすれば」
「水魔特化者を【風】毒ガスに引火した。水魔特化者は第五鉱山に来てくれ」
「それより坑道に閉じ込められていた人はどうなった」
「【取出】」
「ああ、よかった皆無事だったか……」
あとは他の人たちに任せよう。




