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魔欠落者との疑い

 1階が食堂、2階が宿屋という作りの店にはいると、すぐに女将さんがファーズさんに声をかけてきた。

「ファーズ、しばらく見ない間に、隠し子でも引き取ったのかい?」

「ばかいえ。俺をいくつだと思ってる。まだ22歳だぞ。いくつの時の子だよっ」

「あー、はっは。そうだった、そうだった。あんたの顔見てると年齢忘れちゃうんだよね」

 ぷっと、ルークが噴出した。

 やっぱり誰から見ても22歳には見えないよね。

「で、この子たちも一緒に泊まるんだが、いくらだ?」

「あー、いつもの部屋に一緒に泊まるってなら、子供たちは食事代だけでいいよ」

 部屋に行く前に、食堂のテーブルについた。

「いい人ですね」

 私の言葉に、ファーズが食堂の奥に向かった女将さんを振り返った。

「ああ、いい人だろう」

「お兄さんもいい人です」

 ルークがにこっと笑う。

「ダメだ。連れていけない」

 運ばれてきた料理を黙々と口に運ぶ。

 何とも言えない空気が流れる。

「次の街までは連れて行ってやる。……なんなら、親戚の家まで送ってやってもいい。だが、魔獣の森の村はだめだ。連れていけない」

 ファーズさんは、決して「なぜ行きたいのか」と聞かない。それは、理由を聞いてしまえば同情して気持ちが揺れることを避けているように思える。

 ……理由を聞かないことが、ファーズさんの固い意思の表れなんだと思った。

 でも、ルークは決して引こうとしない。二人は視線を合わせたまま微動だにしない。

「魔獣の森が危険だというそれだけの理由じゃない。いや、それだけでも十分な理由だが……。遠い。馬車は使えない険しい道を進む。子供の足じゃ無理だ」

 ルークが、唇をかんだ。

「危険な森の中を、子供の足に合わせて移動することはできない」

 ファーズさんは、ルークを納得させるために……すでに理解しているだろうルークに、あえて言葉にして口にした。

「足手まといは、連れていけない」

 ついに、ルークは下を向いた。

 ここで駄々をこねられるほど、子供ではない。

 だけど、素直に諦めるほど子供でもなかった。


 ファーズさんが、次の街に向かうための荷の準備をいている間、私たちは宿の部屋に二人でいた。

「魔獣の森の村、エイルはどう思う?」

「……うーん、正直、あまり考えてないから何とも思わないかな。ルークはどうして行きたいって思ったの?」

「魔獣の森の手前までが、この国の領土?国を出ればさすがに追われないと思う」

 なるほど。

「でも、国を出るだけなら、他の隣国へ向かってもいいよね?もう少し安全な道を通っていけるところでもいいんじゃない?少し遠くなるかもしれないけれど」

「他の国もダメ。何が起きるか分からない。どの国にも所属していないから、いい。そこを自分の国にできる」

 え?

 えーっと、王様にでもなりたいのかな?

「エイル……魔欠落者が胸をはって生きられる国を作りたい」

 コクンと頷く。

 もし、そんな国があれば……。母様と幸せに暮らせたかな……。

「エイル、一緒に来てほしい。危険があるのは分かっている。でも、一緒にいたい」

「いいよ。私も、そんな国に住みたいもの。だけど、どうやって村まで行くつもり?ファーズさんに断られたでしょ?まさか、ファーズさんの後をこっそりつけるわけにもいかないよね?とてもじゃないけど、体力的に無理だ」

 私の言葉に、ルークは頭を下げた。

「それに、村についたとして、私たちを受け入れてくれるのかな?隠れるようにすんでる人って、よそ者を受け入れてくれないイメージなんだけど……」

 

「その件は、ファーズさんの紹介があれば大丈夫だと思う。儲けもないのに、品物を届けてくれるファーズさんの頼みを、村人はむげにはできない?」

 うん。そうかな?そうかもしれない。

 っていうか、ファーズさんはいい人だ。ジョンさんとラァラさんもいい人で、女将さんもいい人だ。いい人たちとばかり交流のあるファーズさんの知り合いが悪い人なわけないよね?

 でも……。いい人だったとしても……。

「受け入れてもらえるのかな?だって、私もルークも……」

 魔欠落者だ。

 そのうえ、魔欠落者のための国が作りたいなんて野望まで持ってる。

 ルークは、再び下を向いてしまった。。

「村についてはもう少しファーズさんに聞いて情報を集めようと思う。だけど、魔欠落者に対してひどい扱いをするとは思えない」

 そうだといいけど……。

 だけど、想像だけで行動を起こすには、魔獣の森なんて危険すぎると思う。

「僕の予想が正しければ、ファーズさんも魔欠落者」

「え?うそ?」

「回復魔法も風魔法も水魔法も光魔法も一度も使ったのを見ていない」

 それは魔力を節約するために……。

 それに、必要もなかったからじゃ。

「お金を財布から出していた」

 そうだっけ?

「街の外ではお金は使わない。収納しておかないのはおかしい」

 ルークはよく見てるな。

 私は少しも疑問に感じなかった。

 言われてみれば、森の中に店なんてないから、収納からお金を出すことはない。入れっぱなしでいい。盗賊に襲われても収納にいれてあれば無事だ。

 魔力を節約するためと言っても、小銭をポケットに入れておけば事足りる。銀貨をポケットに入れて街の外にでる人なんてまずいない。

 もし、本当にファーズさんが魔欠落者だとしたら……村が魔欠落者に対してひどい扱いをするとは考えにくい。

 いやでも、ファーズさんが魔欠落者であることを隠しているなら、村の人も知らないのなら……。また話は違うと思う。


 朝早く街を出て、昼過ぎにはこの国最北端の街についた。

「ここが、家だ。ゆっくりしてくれ。俺は荷を届けてくる」

 ファーズさんの家と案内されたのは、街の北東の端の方の小さな平屋の一軒家だ。

 荷馬車を置くための庭と馬小屋がついている。街の中心部の家よりは広いが、ボロい。ボロいうえに、汚い。家にいることが少ないためか、手入れ不足であれこれひどい状態だ。

「ほら、これ見て」

 ルークが家の中をあちこち探索して、寝室らしき部屋に手招きした

「これって、もしかして……」

 金属の小さな器に、先が煤けた細くよった布が刺さっている。器の底にはほんの少しだけ液体状のもの……油があった。

「そうだよ。光魔法が使える人は見たこともないだろうけど、僕にはわかる」

「うん、私も使っていた」

 灯りだ。油を吸った布に火を付けて使う。

「やっぱりファーズさんは魔欠落者なんだ!」

 ルークが嬉しそうに声を上げた。

「そうなのかな?単に、魔力を節約するためかもしれないよ?」

「なんで?街中なのに魔力を節約する必要がある?」

「魔獣の森も近いし、強いモンスターがいつ襲ってくるか分からないから、用心のためとか」

 ルークの眉が下がった。

「エイルは、ファーズさんが魔欠落者じゃないほうがいい?」

 ……そういうわけじゃなけど……。

 誰かが魔欠落者だということを知って喜ぶのも違うきがする。

 仲間が増えて嬉しいって、それは何の問題解決でもない気がする。よくわからないけれど……。

「どちらでもファーズさんはファーズさんだよ。私達のこと助けてくれて、心配してくれて、皆から慕われて……うまく言えないけど……」

 ルークが動きをとめて固まった。

「魔欠落者か、そうじゃないかで人を分けるのって……私達を差別している人たちと一緒みたいな気がする……。同じ魔欠落者だから仲良くなれそう、魔欠落者じゃないから心が開けないとか……」

「差別……」

 ルークが両手で、頭を押さえた。

「差別意識が僕にも……僕も……あいつらと同じ……」

 ガチガチと、ルークの歯が鳴り出した。

 パニック?

 ルークの目が何も移していない。ただ、きょろきょろと激しく動いている。息が荒くなりだした。

「大丈夫。違うよ。あいつらが誰か知らないけど……ルークはあいつらとは違う。もう一回よく考えてみて」

 ルークの両腕をつかんで、真正面から目を覗き込む。

「いい、ちゃんと考えて。ファーズさんが魔欠落者じゃなかったら嫌いになる?ジョンさんやラァラさんのことは嫌いだった?……私が本当は魔欠落者じゃないよって言ったら、もう一緒にいてくれない?」

 ふるふると、首を横に何度も何度も振るうちに、ルークの震えが止まった。

「ね、違うでしょ?魔欠落者だと知ったとたんに態度を変える人とは違うよね。でも……私も……ルークといっしょだよ。この人も魔欠落者だったらいいのにって思ったことある。そうすれば、嫌われなくてすむのかなって」

 でも違う。

 魔欠落があったってグリットさんみたいに、いいところを探して認めてくれる人がいる。

「ありがとうエイル。僕、魔欠落者以外排除するような、逆差別の国を作ってしまうところだった。それは、より対立を生むだけ」

 ルークはうんっと大きく頷いて、ベッドにドスンと腰を落とした。

「最終目的は、差別のないみんな仲良く暮らせる国。エイル、何か書く物持ってない?」

 収納魔法の中身を思い出す。書く物はほとんど使う機会がないから入れてなかったな。

 首を横にふると、机の上にインク瓶があるのが目に入った。

「ファーズさんがもってるみたい」

「借りよう」

 ルークが机についた。引き出しを開けて、ペンを見つけ、質の悪い紙も取り出す。

 紙とかペン持ってるってことはファーズさんも文字の読み書きができるってことだよね。荷運び人じゃなくて、商人なのかなぁ?

「最終目標っと。そのためにするべきことは……差別意識をなくすこと。この国の問題で考えれば……神殿は排除。国に仕える者は魔法の力ではない方法で採用。貴族という特権階級の排除……いや、そうすると王制維持が難しくなるのかな?そもそも王は必要なのかな?」

 「勇者になるんだ」っていう子供の夢物語にしてはすごい。

 ……いや、もしかすると本気?必死に思いついたことを書き留めているルーク。

 魔獣の森の小さな王国……。みんな仲良く幸せに暮らせる夢の国。うん、そういうのもいいかもしれないね。

 ルークが、色々なことを考えている。

 私も……決めた。

 ファーズさんはいい人だ。信じることにする。そうして、信じられる人を少しずつ増やしていけば……きっと……。

 魔欠落者も幸せに暮らせる場所ができるはず。どうせ、魔欠落者だから差別されるとか、私は魔欠落者だから受け入れてもらえないとか……そんなことばかり考えるのはやめる。

 人を信じよう。

 信じて、動いてみよう。

「ルーク、私にいい考えがあるわ」


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