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【書籍化】魔欠落者の収納魔法~フェンリルが住み着きました~【web版】  作者: 富士とまと


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追放者

 第五鉱山の入口付近にはすでに神殿関係者の姿はなかった。ヴィドルクも護衛たちもどこかへ行ってしまったようだ。鉱山の中にはヴィドルクの命令で入った神官がいるはずなのに。

「ここから空気を送り込むのは俺たちに任せて。行ってこい」

 5名ほどの緑の風魔特化者が呪文を唱える。2,3人ずつのローテーションで途切れなく風を送り込んでくれるようだ。

「行こう!」

 カインさんの言葉に、私とハーグ君とテラが頷き返す。

「【光】」

 ハーグ君の声にすぐに坑道の中が明るくなる。10mほど進めばすぐに分かれ道だ。

 しまった。地図がない。

「【風】入口から進んですぐの分かれ道は向かってどちらに進めばいい?」

 カイルさんの声に、すぐに「右だ」と返ってくる。

 そうか、風魔法はこうして使うこともできるんだ。

 右側通路を進んでいくと、すぐに大きな岩が目に入る。見上げれば天井がすっぽりと穴をあけている。

 どうやら上から岩が落ちてきて坑道を塞いだようだ。

「【収納】」

 大きな岩を呪文一つで片づける。

「すげー、なぁエイル、エイルがいれば、鉱夫が鉱石を掘り出す必要なんてないんじゃないのか?」

「だめですよ。つながっている者全体を収納することしかできないので、鉱山全部収納することになっちゃいます」

「山全部?さすがにそんな大きなものは無理だよな」

 ハーグ君が笑う。

「あながち無理じゃないかもしれないよ?すごく広かったからね」

 テラの言葉にハーグ君が首をかしげる。

「は?広かった?」

 急ぎ足でどんどん坑道を進んでいく分かれ道になれば、カインさんが道を尋ね、光が届かなくなればハーグくんが光で照らす。道を塞ぐ岩は私が排除。疲れてくればテラが回復してくれる。

 どんどんと進んでいくことができた。

 会話をする余裕もあり、私の収納魔法のことやブルーのことなど簡単に説明もした。

「【収納】」

「ああ、助かった!ありがとう!」

 一人目の鉱夫は額から血を流して倒れていた。

「【回復】他の皆がどこにいるのかわかりますか?」

 テラの言葉に、鉱夫が分かれ道の右奥を指さした。

「あっちだ。あっちから俺は逃げてきた。その先の赤い壁のところから」

「【収納】、【収納】」

 鉱夫の案内でしばらく進み、大きな岩を5つほど収納した先に、数人が倒れていた。

「大丈夫ですか?【回復】」 

 テラが駆け寄り話かける。

「これで全部ですか?」

 カイルさんの言葉に、一番初めに助けた鉱夫が人数を数えた。

「ああ、全員だ。神殿のやつらを除いてな」

「神殿の人はどちらですか?」

 尋ねると、鉱夫が顔を見合わせた。

「さぁ?俺たちが採掘しているのを距離をとって見ていたからなぁ。あっちのほうか?」

 誰も真剣な顔をしていない。

「助けるのか?あいつらも?」

 ハーグ君の問いに

「見殺しにするような悪魔みたいな行動はできません」

 私の答えにぷっとテラが笑った。

「うん、まぁ、ついでだ。」

「【風】救出に来た。どこにいる?声は位置が特定しにくい。壁を叩いて合図してくれ」

 カインさんの言葉にすぐにカツーンカツーンと壁を叩く音が聞こえてきた。

「皆さんはここで待っていてください。ちょっと行ってきます」

「オイラも行くよ。光は必要だろう」

 少し戻って分かれ道でもう一方の道を進んでいく。

「あそこ、隙間から光が見える。そこじゃないか?」

 ハーグくんの指さした場所に近づいて声をかける。

「すいません、この奥に誰かいますか?神官ですか?」

「ああ、そうだ!助けてくれ!」

 光が漏れる程度の隙間しかない。人の力でこの岩をどかせばどれくらい時間がかかるのだろうか。

「私は、あなた方を助けたいと思っています。でも、あなた方はどうですか?私に助けられても大丈夫ですか?」

「何を言っているんだ?」

 中から戸惑いの声が聞こえてきた。

「私たちは魔欠落者です。魔欠落者に助けられたら穢れるのでしょう?神殿ではそう教えていると聞いています。神官の地位ははく奪されるかもしれませんが、それでもいいですか?」

 私の問いに、答えはすぐには返ってこなかった。

「なー、早くしてくれよ、助けなくていいならオイラたちもう行くから!」

 ハーグ君が返事をせかすと、聞き取るのがやっとの小さな声が聞こえてきた。

「本当なのか……助けたいというのは……」

「はい。だからここに来ました」

「どうして?死んでしまえばいいと思わないのか……?」

 ハーグ君は頭の後ろに手を回して壁にもたれかかった。

「そりゃ、神殿は好きじゃないさ。オイラだって。けどなぁ……。死んでしまえばいいっていうのと、実際に死んじゃうのじゃ違うだろう?オイラが死んでしまえばいいって思ったせいで死んじゃったら絶対嫌な気持ちになるじゃん」

 ハーグ君の言葉には同意だ。

「それともさ、神殿の人間は違うの?死ねよと思った相手が死ぬと気持ちいいの?死んでほしくて殺したくてたまらないの?殺して回るの?」

 中から静かに笑う声が聞こえてくる。

「あはは。それじゃぁ殺人鬼だね。すまない。自分が死ぬかもしれないとこんな時になって初めて気が付くなんて……」

「そうだ、私も、助けたいって何度だって思ったんだ。それなのに……助ける人の選別をする教会に疑問だった。助けたって損をするわけじゃないのに。利益にならないから助けない……。いつから、神殿は神官は商人になってしまったんだろう……」

「そうだ……。その疑問を神殿に告げた者は悪魔に魅入られたとして追放されていった。悪魔に魅入られたと言われるのが怖くて……こんな風に思っていることは言えなかった。言えなかったが、今なら言える……。金貨一枚払えない親を恨みなさいと……笑いながら子供に告げる教会は間違っている……」

「ああ。助けてくれ。助かったら、私は神殿を出る。追放じゃない私自身が神殿を捨てる」


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