いいの?私は魔欠落者よ?
激しくぶつかりあっている。時にブルーが足でドラゴンを攻撃し、時にドラゴンがブルーを尻尾で攻撃する。
ああ!ブルー!
ツイーナさんが風魔法を飛ばしても声が返ってこなくなった。
そのまま城の地下へと急ぐ。地下牢には、何をどうしていいのか分からず身を寄せて話し合っている神官が2人いた。
「なんだ、おまえら!」
神官が地下牢に姿を現した私とツイーナさんの前に立った。
「どきなさい、牢のカギを渡しなさい」
ツイーナさんの言葉に、神官が腰ひもにぶら下げた鍵に手を置いた。
「【収納】」
「はっ、鍵が!返しなさい!私たちを敵に回すということは、神殿にたてつくことですよ?どうなってもしりませんよ?」
「外の騒ぎが聞こえませんか?伝説級……いいえ、伝説以上のモンスターが現れました。もう、街の皆は避難を始めています。あなた方はなぜここにとどまっているんですか?」
ツイーナさんの言葉に、神官たちは表情を変える。
「う、嘘をつくな。伝説級のモンスターなど、いったいどこから突然現れると言うのだ」
神官の言葉に思わず怒りがこみ上げる。
「ヴィクトルが鉱山で眠っていた共ぐらいのドラゴンを起こしてしまったのよっ!大地が揺れたのは知ってるでしょう?何度も赤い壁は採掘してはいけないとあれだけ言ったのに……」
私の言葉に、神官の一人が目を輝かした。
「流石ヴィクトル様……ドラゴンを目覚めさせるとは」
何を言っているのだろう?
「そ、そうだ!これは神のご意思だ!魔欠落者をそばに置くような女王が治めていた国への天罰なのだ!」
神のご意思。はっ。
神殿関係者は、人を殺そうが神のご意思だと言えば許される狂った人の集まりなのか。
「どいてちょうだい!」
ツイーナさんが天を仰いで神に祈り出した神官を手で押しのけようとする。
「通さぬ。神は我らの味方だ。お前たちを逃がしわけにはい――」
「【取出】」
収納の中からヴィクトルと護衛の上に載っていた鉱石を神官の上に取り出す。
「ぐあぁ!な、何をするっ!」
「悪魔め!どけろ!」
私とツイーナさんの邪魔をしないように足を鉱石で挟ませてもらった。ほんの足の先だけだ。
「【取出】ツイーナさん鍵です」
「ジョセフィーヌ様ご無事でしたか」
「どうなっておるのじゃ」
宰相や将軍の閉じ込められていた牢の鍵も開ける。
「先ほどエイルが神官に言った通り、ドラゴンが現れました。街から避難を」
「妾だけ逃げるわけにはいかぬ。国民も一緒じゃ」
「地下牢に王家の者のみが知る抜け道があると聞きました。そこから皆を避難させることはできませんか?」
ツイーナさんの言葉にジョセフィーヌ様が頷いた。
「ツイーナ、悪いが、通路が先ほどの揺れで崩落していないか確認をしてくれぬか、将軍は兵に国民の避難を邪魔する神殿関係者を抑えるように指揮を。宰相は避難先に必要な物の準備を。収魔特化者に運ばせよ。第一鉱山へ避難しているものを呼び寄せるのじゃ。あそこにいる者たちも大切な妾の民じゃ」
ああ、やっぱり……。
魔欠落者をジョセフィーヌ様は憎んでいるわけではなかった……。
「いそぐぞ」
宰相が将軍に声をかけて地上へと続く階段を上っていく。
「さぁ、ツイーナ秘密の通路はこちらじゃ」
ジョセフィーヌ様が奥の牢屋へ入っていった。
階段の前で倒れている神官が、必死にあがいている。
「【風】牢から脱走した。将軍と宰相をとらえてくれ」
「【風】魔欠落者に襲われた、誰か救援を頼む」
ジョセフィーヌ様が戻ってて、神官を見下ろした。
「無駄じゃ。この地下牢は風魔法の声が届かぬ。逃走を企てられぬよう風が通らぬ作りになっておるのじゃ」
ジョセフィーヌ様の言葉にも神官は動揺を見せない。
「こんなことをしてただで済むと思うな。神聖軍に攻め込まれてもいいのか!」
「そうだ、明らかな反逆行為だ!言い訳はできぬぞ!」
強気な発言に、ジョセフィーヌ様は無表情で返した。
「こんなことというのはどんなことじゃ?神殿に伝わらなければ、どんなことかわからぬであろう?」
ここで初めて神官が表情を変えた。
「まさか、我らを返さぬ気か?」
「何をする気だ、我らが死んで帰らねば、神殿も容赦はしないぞ。王族だけでなく国民も皆殺しだ。それでもいいのか」
皆殺し?罪のない人の命も手にかけるというの?
いいえ、そもそも誰も罪なんてないのに!
「何をする気と言ったな?何もせぬ。妾は国民を連れて逃げるだけじゃ。秘密の通路を使ってな。お前たちがドラゴンに食われようと知ったことではない」
ジョセフィーヌ様がもう言うことはないとばかりに、神官から視線を外して階段へ向かった。
「さぁエイル、妾たちもすべきことをせねばならぬ」
「はいっ!」
神官を無視して階段を上がる。
「待て!待ってくれ!この石をどけてくれ!風魔法が使えないなんて聞いてない!」
「いいの?私は魔欠落者よ?」
振り返って声をかける。
「いいも悪いもあるか!お前がやったんだろ!早くどけろ!くそが!」
首をかしげて二人を見る。
「神殿の教えでしょう?魔欠落者に助けられたら血が穢れるんでしょう?血が穢れたら、あなたたちは神官ではいられなるけど、それでも、私が助けてしまってもいいの?」
二人が言葉を詰まらせた。
「くそっ、俺は悪魔の誘惑になんか惑わされぬ、行け!行ってしまえ!いいさ、ヴィドルク様がきっと助けてくれる!」
「そ、そうだ!私たちが戻らねば、ヴィドルク様が変に思い探しに来てくれるはずだ!」
首を傾げた。




