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【書籍化】魔欠落者の収納魔法~フェンリルが住み着きました~【web版】  作者: 富士とまと


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赤と青


「ツイーナさん、どこへ避難させればいいんですか?」

 ツイーナさんが人差し指でこめかみをつつきながら考えこんだ。

「地下……そう、地下牢に!地下牢の奥に、いざというときの城からの脱出経路があると聞いたことが……。王家の者しか知らないけれど、ちょうどジョセフィーヌ様は地下牢にいるから、そこに」

 ツイーナさんの言葉にうんと頷いた。

「ツイーナさん、風魔法で皆に知らせてください。自分で移動できる人は自分で。城までの移動が困難な者はなるべく固まって待っていてほしい。どこにいるのか風魔法で知らせてほしい。それから、テラは中で治療が必要な人に魔法を」

 ツイーナさんもテラもしっかり頷き返してくれた。

 城の方向を見れば、赤い煙が上がっていた。

 赤は危険の印。

 赤い煙はモンスターが出た合図。

 赤い壁は触ってはいけない色。

「それからツイーナさん……、赤は敵、青は味方だと……皆に伝えてください」

 ツイーナさんは何のことか分からないまますぐに風魔法を使ってくれた。

「【風】赤は敵、青は味方」

「【取出】」

 ツイーナさんが声を飛ばしたことを確認してから、ブルーを出す。

 目の前に突然現れたブルーに、テラとツイーナさんは息をのんだが、悲鳴を上げるようなことはなかった。

「青は……味方?」

 テラの口からつぶやきが漏れる。

「!」

 ブルーは、いつもならどうした主よと話しかけてくるのに、今回ばかりは私に何か言う前に空を見上げた。

「あやつは……まだ生きておったのか……」

「ブルー、知ってるの?」

 ブルーはドラゴンから視線を外さずに、私の問いに答える。

「共ぐらいのドラゴン……。力を欲するあまり同族を食らった狂ったドラゴン……。先代たちの記憶、8万年前から姿を見せることはなかったから死んだものだと思っていたが」

 共ぐらいのドラゴン……。

「ブルー」

 私が何かを言う前にブルーは体をプルリと一度震わせた。

「はっ、我が武者震いをするとはな……」

 武者震い?

「強いの?」

 ブルーよりも強いの?という言葉を飲み込む。

「ああ、奴は強い。ただのドラゴンなど我の敵ではないが、奴は……。奴とは楽しい戦いができそうだ!」

 楽しい戦い?

 それは、互角ということ?どちらが勝つか分からないってこと?

 勝てたとしても、ブルーがいっぱい傷つくかもしれないってこと?

 やだ、そんなの……。

 ブルーが私の顔を振り返った。

 不安が顔に現れていたのだろう。

 尻尾のふさふさでほっぺを撫でられる。

「主は我が守ると言ったであろう」

「でも……」

 ブルーに無理をさせたくない。

「いざとなれば主をつれて逃げるだけだ。主は街の皆を何とかしたいのであろう?我には分かるぞ」

「ブルー」

「この街の人間も、魔獣の森のみんなと同じなのであろう?ならば、我にとっても……」

 大切な家族だと、言葉を残してブルーは地を蹴った。

 上空の共ぐらいのドラゴンの羽に食らいつく。

 羽の一部を食いちぎり、ブルーが降り立った。

「共ぐらいのドラゴンよ、我が相手をする」

 羽を食いちぎられたドラゴンは、怒りの咆哮を発する。

「ふっ、言葉も忘れたか。共ぐらいのドラゴンよ」

 ブルーが地を蹴り崩れた教会を飛び越えて街道へと出た。

 ドラゴンは空高く飛び上がり、ブルーめがけて降下。すぐさま口から激しく何かを吐き出す。薄い黄色い靄に見えるあれは……毒ガス?

「青は味方……、ドラゴンを街からおびき出してくれた……」

 テラが茫然とドラゴンとブルーの戦いを見ていた。

「今のうちにっ!」

 ツイーナさんの言葉にハッとする。そうだ。せっかくブルーがドラゴンの気を引いてくれている。今なら街に戻ってくる可能性も少ない。急いで避難しなければ。

「【収納】」

 テラを収納する。

「エイルの収納は人も収納できるの?そういえば、あの青い……ブルーと言ったかしら?あのモンスターを収納から出していたわよね?」

「はい。隠していてすいません」

「助かったわ。お願い。歩けない人たちを収納して運んでちょうだい」

 ツイーナさんと治療院の階段を上がる。ベッドの上で何が起きたのか分からず不安な様子の老人たち。

「大丈夫ですよ【収納】」

 説明している暇はない。視界に映ったものをまとめて収納していく。

「ベッドごと?容量は大丈夫なの?」

 ツイーナさんに、たぶんと答える。実際、私は自分の収納の中に入ったことがないから具体的な広さも、収納したらどういう感じで中に並ぶのかも何も分からないのだ。

 でも、そんなことを今はなしている暇はない。

 ブルーに、いつものような余裕はなかった。

 ブルーが負けるなんて思ってない。でも、心配なのだ。

 次々に部屋に入り収納していく。ツイーナさんが「安心してください大丈夫です」と言えば、何が起きているのか分からなくても、皆の不安は少し解消されるようだ。

 治療院を出る。

「【風】街に残っている者は連絡を」

 ツイーナさんの声に、いくつか声が届く。遠いところから順に回って、人々を収納していく。

 街を移動しながら街の外に視線を向ける。

 赤いドラゴンと青いブルー。

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