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【書籍化】魔欠落者の収納魔法~フェンリルが住み着きました~【web版】  作者: 富士とまと


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穢れと浄化

「ごめんなさい。私、ツイーナさんを一刻も早く回復魔法の使い手のところへ連れて行かないといけないから。あなたたち神殿関係者は回復魔法を自分たちのためにしか使えないみたいなので」

「待て、悪かった、俺がその女を回復させるから」

「【収納】」

 ツイーナさんを収納し、二人に背を向けて歩き出す。

 グラグラと大地が揺れる。もう新しく鉱石が降ってくることはないが、揺れることで二人の上に載っている鉱石が位置を変え体を痛めつけるようだ。

「ヴィクトル様、鉱夫の言うようにやはり赤い壁は掘らない方が……」

 弱気な声が風魔法で届く。

「【風】やめろ、今すぐやめろ!これ以上揺らすな!私を殺す気か!」

 ヴィクトルが悲鳴に近い声で叫ぶ。

 そして、私に向かって怒鳴りつけた。

「ほら、薄汚い魔欠落者、お前の要求通り採掘をとめたぞ、石をどけろ!」

「私、山はどかしてあげました」

 薄汚い魔欠落者。

 この言葉に心臓がチクリと傷む。

 目の前で苦しんでいる人を助けない私は非道。だから薄汚いと言われても仕方がない。

 だけど、そうしてあなたたち神殿の人間はどれだけの人を見捨ててきたの?これくらい何なの?

 命まで取るわけじゃないでしょう?

 命を失った人がたくさんいるのよ?

 ふつふつと黒い感情が渦巻く。

「頼む、助けてくれ!もう魔力もつきそうだ」

 護衛が苦しそうな声を出した。

「わ、悪かった、だから、助けろ」

 涙が伝う。

 こんな奴ら助けたくないって。

 死んだって構うものかって、心の底に黒い感情が湧いて。

「魔欠落者に助けてもらうと、血が穢れると……そう教えているんでしょう?」

 兵の採用試験の時に魔欠落者による回復魔法を全力で拒否した男がいた。

 体の機能を失うよりも、魔欠落者に治療されることを嫌った。それほど深く人の心に神殿の教えが刻みつけられている。なぜ、そんな理不尽な教えを広めるのか。

「いや、それは……」

 ぐらりぐらりと大地が再び揺れた。

「【風】やめろと言っている、やめないか!」

「ヴィクトル様、やめています。赤い壁には一切手を触れていません、ですが、もう、遅かったみたいです、あぁ、あああーっ」

 風魔法で届いた声は、最後は悲鳴で終わっていた。

 何?

 何なの?

 揺れは、下から突き上げるようなどーんとしたものに変わった。

 ゴボボボボッっという不気味な音が鳴り響く。

 何?

 ドーン、ドーンと大地は突き上げられ、揺れは収まらず、ブシュー、ブシューと、毒ガスが噴石ととにも湧き上がる。

「毒ガスが……」

 あちこちから吹き上がる毒ガス。

 何が起きているの?

「魔欠落者に助けられたらあなたたちは血が穢れると思っているかもしれない……。私は……憎い人も嫌いな人も、死んでしまえばいいって思う人も……助ける……。そうすることで、きっと……この黒い感情が清められていくから……私の心は浄化されるから……」

 ねぇ、そうだよね?

 真っ黒に染まらない。

 どんどんこうして黒い感情を消し去っていけば……。

 ルーク、逆差別の国を作らないのはきっととても難しいことだ。

 二人から十分距離を取ってから収納魔法で鉱石をどけた。

 何が起きているのか分からないけれど、まずはツイーナさんを助けなければ。テラは治療院の建物に残っているはずだ。

 グラグラと止まることなく揺れ続ける大地。鉱山からはドドドと不気味な音が続いている。

 時折腹の底から響くような大きな音も聞こえる。何度か激しく毒ガスが噴出し、吹き飛ばされた小石が街まで降り注いでいる。

「エイル!」

 治療院の外に出てテラは鉱山の方を見ていた。すぐに私に気が付き駆け寄ってくる。

「一体何が起きてるの?」

 テラの質問に答えることができずに首を横に振る。

「分からないの。ただ、神殿関係者が赤い壁に手を出して……テラ、それよりお願い!ツイーナさんに回復魔法を!【取出】」

 ツイーナさんを取り出すと、すぐにテラは回復魔法をかけてくれた。

「エイル、あなたの収納魔法って、人を……」

「うん、人も収納できる」

 今は詳しく説明をしている暇も聞いている余裕もないのは私もテラも分かっていた。

「あら?いったいどうなって……」

 ツイーナさんが目を覚ました。

「あれは……!」

 途端にツイーナさんの両目が大きく見開かれ、空を指さした。

 え?

 指さした方向を振り返って、言葉を失う。

 巨体の影が落ちる。

 そして通り過ぎて行った影の主が、教会の建物を砂山のように簡単に壊していく。

「まさか、あれは……ドラゴン?」

 方向を変え、街へと再び向かう巨体。

 血のような真っ赤な体が日の光を受けてきらきらと光っている。大きな翼を広げ、長い尻尾で建物を壊しながら飛んでいた。

 大きく開いた口からはよだれとも血ともつかぬ赤い液体をたらしている。

「きゃっ」

 ドラゴンの翼が触れた建物から屋根が飛ばされて足元に落ちる。

 ツイーナさんがいち早くドラゴンの現れたショックから立ち直った。

「避難させなくちゃ……皆を……」

 治療院をテラが振り返った。

「どうやって……あ……エイル、あなたなら」

 テラの言葉に小さく頷く。


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