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【書籍化】魔欠落者の収納魔法~フェンリルが住み着きました~【web版】  作者: 富士とまと


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第五鉱山に

「俺たちだけで逃げろと?」

「自分たちは大丈夫だけれど、魔特化者はどのように扱われるか分からないから見つかる前に逃げて……と」

 全然大丈夫じゃない。ジョセフィーヌ様も宰相も将軍の牢屋に入れられてしまった。ツイーナさんもどうなるかわからないと言っていた。

 だけど、嘘をつくしかない。

 だって、もし魔特化者の皆が傷つけられることがあれば、ツイーナさんもジョセフィーヌ様も、きっと皆、苦しむ。

「嬢ちゃんは嘘が下手だな……」

 リーダーが私の頭を撫でる。

「う、嘘じゃないです」

「そんなつらそうな顔してたらすぐにばれるよ。今は俺たちがいることが不利になるということなんだろう?分かったよ。第一鉱山へ集合して、国を出る。そのあとのことはそのあと考える、それでいいんだよな?」

 私の嘘はすぐにばれた。でも、気持ちは伝わった。

 ……みんな、ジョセフィーヌ様たちのことを見捨てて我先に逃げたいわけじゃないんだ。だけど、とどまることが最良でないとも知っている。だから逃げてくれるはず。

「エイルちゃんはどうするの?」

 カインさんが私を心配そうな目で見た。

 どうしよう。どう伝えればいいのかな。

「私には役割があります。ここでの役割……【取出】」

 作業場で収納した大量の宝石類を取り出して見せる。

「人質じゃないですが、人質代わりにこれがあるので大丈夫です。【収納】」

 カインさんはまだ何か言いたそうだったけれど言葉を飲み込んだ。

「わかった。でも無理しないで」

「はい。気を付けてください」

 魔特化者の皆が鉱山を離れていく。そのタイミングを待ったかのように、ツイーナさんの声が風魔法で届いた。

「ヴィクトル様が鉱山をご視察されます。第五鉱山前に鉱夫たちは集まり出迎えよ」

 ああ、これはツイーナさんからのメッセージだ。第五鉱山に神殿関係者が来るから早急に魔特化者は移動するようにという。ツイーナさんはうまく第五鉱山へ誘導することに成功したのだ。

 第五鉱山、坑道の入口に残った者たちが集まり一列に並んだ。

 人数にして10名ほどだ。まだ他の鉱山から人は集まっていない。

 何かあったら、すぐに収納や取出ができるようにと、皆の様子が見える場所に隠れることにする。

 採掘した鉱石の一時置き場があり、積み上げられた鉱石の山と山の間に身を潜める。

 すぐに、ヴィクトルを先頭に10名ほどの人間が姿を現した。護衛役だろうか。帯剣した神官服の3人の男がヴィクトールの横と後ろについている。

 ヴィクトルの数歩後ろにツイーナさんの姿もある。

 他に、資料の一部や地図などの荷物持った人間が続く。

「見てこい。お前らは案内だ」

 ヴィクトールは地図を神官の一人に手渡すと、鉱夫たちに命令する。

 荷物持ちの一人が折りたたみ式の椅子を広げ、別の人間が折りたたみ式の机を広げた。

 神官2名と鉱夫たちが鉱山へと入っていく。

 風魔法の使い手が外の空気を送り込まないのに、毒ガスは大丈夫なのだろうか……。

 ツイーナさんは何も言わない。

 調査に向かった人間から風魔法で報告が届く。

「ヴィクトル様、地図に記載されている通り、入口付近にはめぼしい鉱石は見つかりません」

「【風】もっと奥へ行ってみろ。左側の道だ」

 ヴィクトルは、簡単に書き写された坑道の地図を見ながら指示を出す。

「ありました!地図には書いてありませんが、何かが光ったので、光魔法で奥を照らしてみたら、キラキラと無数に輝くものが見えます」

 ヴィクトルがニヤリと口元をゆがませる。

「【風】持ってこい。掘らせろ」

 すぐに魔法で声が返ってくる。

「鉱夫たちは言うことを聞きません。赤く光る場所は危険だと言っています」

「【風】貴重な宝石を隠そうとしてるんじゃないのか?掘れ。言うことを聞かぬのであれば、ジョセフィーヌの命はないぞ」

 赤く光る場所?

 赤い壁を掘ると大地が揺れる。輝きが強ければ強いほど危険……。

 ダメだ!

 がくんっと、すぐに足元が揺れた。

 ああ!話は本当だったのだ。

「やめさせてください。鉱夫たちの言っていることは本当です。今のように赤に触れれば大地が揺れます。坑道が崩れれば、中にいるものが危険です」

 ツイーナさんの言葉に、ヴィクトルは笑った。

「中の者?運が悪ければ死ぬ程度のことだろう?一人や二人犠牲になろうが、神のご意思だ」

 神のご意思?

「神官様もご一緒に入られているのですよね?」

「いくらでも替えの効く力の弱い神官がどうしたと?」

 ひどい。

 ぐらりと、また揺れた。

「ヴィクトル様、壁に亀裂が入ってこれ以上続けるには……」

 悲壮な声が飛んできた。

「【風】私がやめろと言うまで続けろ」

「お願いします、やめさせてくださいっ!私の父は坑道で生き埋めになって亡くなりました。これ以上不幸な人を増やさないでください」

 ツイーナさんがヴィクトルにすがるように手を伸ばす。

「目ざわりだ。私に意見するとは。連れていけ」

 ツイーナさんは護衛の一人に腕をつかまれて、ヴィクトルから遠ざけられた。

 ぐらり、ぐらりと、揺れはだんだんと大きくなっている。

 ガラガラという何かが崩れる音が坑道から聞こえた。

「やめさせて!やめて!」

「うるさい、黙れとヴィクトル様が言っている!」

 ツイーナさんを黙らせるために、護衛がツイーナさんを投げ飛ばした。激しく背中を打ち付け、ごふっとツイーナさんが変な声を漏らす。

 口から一筋の血が伝うのが見える。

「ツイーナさんっ!」

 思わず鉱石の山の間から飛び出した。

「エイ……ル、なぜ、あなたが……」

「薄汚い魔欠落者、やはり、お前は魔欠落者をかばっていたんだな」

 護衛がツイーナさんの腹を踏みつけた。

「やめてっ!」

 グラグラと揺れは一段とひどくなり、鉱石の山も不安定な場所からガラガラと石を落とし始めた。


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