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アンジェリーナ

女性に対する残酷は表現がございます。そういった表現に弱いかたはお気を付けください。(年齢制限を設けるような具体的な描写はありません。)

「な、なぜ、私が、はぁ、はぁ……なぜ、私が、魔欠落者の……妹の気持ちなど、憎い妹の気持ちを、はぁ、はぁ……」

 息が苦しそうだ。

 過呼吸?そう、うまく呼吸ができなることがあるって聞いたことがある。

「ジョセフィーヌ様!」

 将軍が慌ててハンカチを取り出してジョセフィーヌ様の口に押し当てた。

「はぁ、はぁ……」

「おや?妹を憎んでいるの?ふぅーん」

「そうじゃ……、魔欠落者さえいなければ、はぁ、はぁ、私は幸せになれたのじゃ……はぁ、はぁ」

 ジョセフィーヌ様の顔色は真っ青を通り越して真っ白だ。息ぐるしさも一向に収まるように見えない。

「なんだ。憎いなら問題ないよね。婚約破棄を言い渡した日に来たんだよねぇ。私はどうなってもいいからどんなことでもするからお姉さまと結婚してくれと懇願するわけ」

 ジョセフィーヌ様が、口に押し当てていたハンカチを取り落とす。

「アンジェ……リーナ……が……?」

 ヴィドルクがくくくと何かを思い出して笑い出す。

「魔欠落者の女ができることなど娼婦くらいだ、何でもするといったって、男の慰み者になるくらいしかできないだろう?」

 ヴィドルクが段の下にいた男たちに問いかけた。

「あの時慰めてもらった者は今日はおらぬか?」

 ジョセフィーヌ様が、床にばたんとうつぶせに倒れた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 かぶっていたベールが床に落ち、束ねていた髪が広がる。

 そして、ゆっくりとあげられた真っ白な顔には、涙が浮かんでいた。

「ひ、ひどい……、アンジェリーナはまだ14歳だったのに……。なんで、なんで、そんなひどいこと……」

 ヴィドルクは、倒れたジョセフィーヌ様に手を差し伸べることもせず口端を持ち上げる。

「憎いんだろう?ならなぜそんな顔をする?」

「に、くい……。憎くてたまらない……あの時……あの時……」

 ジョセフィーヌ様が、上半身を持ち上げ、息も絶え絶えにヴィドルクのズボンにしがみついた。

「妾は、憎い!……あの時、お前さえいなければ私は幸せになれたのにと、妹を罵倒した私が……私があんなことを言わなければ、アンジェリーナは……崖から飛び降りることもなかったのに……」

 宰相がジョセフィーヌ様の両肩に手を置いた。

 まさか……、このドレスの持ち主だったアンジェリーナ様は……。

 ジョセフィーヌ様の妹は、魔欠落者で「おまえさえいなければ」とジョセフィーヌ様が言ったから、いなくなった……。崖から飛び降りたと?

 魔欠落者が憎いんじゃない。妹を死に追いやってしまった自分が憎かったんだ。

 だけど、自分のせいで妹が死んだという事実を受け入れることが辛すぎて、魔欠落者が憎いと口にしてなんとか耐えていた……。そういうことなの?

 ツイーナさんも他の人も分かっているんだよね。

 黄色のドレスを見下ろす。

 本当に憎いのであれば、ドレスを、部屋をあんなにきれいなままとっておいたりしない。

「違いますぞ、違います。やっと謎が解けました。ジョセフィーヌ様のせいではございませぬ」

 宰相が大きな声を出してジョセフィーヌ様の気を引く。

「そうだ、聞いただろう、死ぬほど苦しめたのは、あいつらだ」

 将軍も、ジョセフィーヌ様に必死に話しかけている。

 だけれど、ジョセフィーヌ様の意識はもはやこことは別のところにあるようで声が届いていないように見える。

 それでも私も、言いたい。

 口を開くなと言われていた。

 だけど、だけど、これは言わなくてはいけない。

「ジョセフィーヌ様、前に言いましたよね?なぜ、私は生きているのかって。魔欠落者のくせに、どうして生きているのかって……」

 ジョセフィーヌ様の手を取る。

「知ってたから。私のこと、母様が愛してくてれいることを知っていたから。私が死んだら、母様が苦しむと知っていたから……。」

 ジョセフィーヌ様が顔をあげて私を見た。

「アンジェ……」

 アンジェリーナ様の服を着ている私に、妹を重ねているのだろうか。

「アンジェリーナ様だって、ジョセフィーヌ様が自分のこと愛してくれてるって知ってたよ。だから、きっと、お前さえいなければって言われたあと、死ぬ選択じゃなくて、婚約破棄を撤回してほしいって頼みに行くことを選んだんだよ?死ぬ気なんてなかった。生きていようと思ってたはずです」

「妾が、いなくなればいいと言ったから崖から身を投げたのではないと……?」

 しっかりと頷く。

「違うよ。違う。愛してくれた人を悲しませる選択なんてしない。私は、私が死んだら母様がもっと悲しむことを知っていたから、死なない。死にたいとも……言わない。死んだ方がよかったなんて、言わない!きっと、アンジェリーナ様だって死にたくなんてなかった」

 私の言葉に、少しだけジョセフィーヌ様の呼吸が落ち着いた。

「なぜ……死んでしまったのじゃ……妾はひどいことを言った。謝りたかったのじゃ……」

 ポロリとジョセフィーヌ様の目から涙が零れ落ちる。

「なぜだろうなぁ?何があったんだろうなぁ。これでお姉さまと結婚してくれますねと言っていたが、冗談だろう魔欠落者な上に穢れた妹がいる女と誰が結婚するかと言ったら飛び出していったが」

 ヴィドルクがくくっと喉の奥で笑った。

 ひどい……。

 ジョセフィーヌ様はショックのあまり再び呼吸を荒げる。

「はぁ、はぁ、はぁ……何しに……何しにきた……出ていくがよい、妾の……国から!」

「何しにって、結婚するためだって言ったよね?」

 それまでヴィドルクの言葉へ受け答えをしていなかった将軍が声を荒げた。

「ふざけるなっ!今すぐ出ていけ!これ以上顔を見せるな!」

 今にもつかみかかりそうな勢いで、将軍がヴィドルクをにらみつける。

「あの時は貧乏国でも王だからと話に飛びついたんだよね。まさか身内に魔欠落者がいるなんて思わずにね。身内に魔欠落者なんて悪魔の子がいたら、いくら王とはいえ神殿での地位は地に落ちる。下手すれば追放だよ?仕方がなかったんだ」

 なぜか、ヴィドルクは飄々と過去の話をし始めた。

「だけどさ、ここ数年、どんどん金持ちになってるでしょこの国。金持ちの国の王ならさ、神殿での地位も保障されるからね。だから、来たのさ。王になるために」

 ヴィドルクがジョセフィーヌ様の手首を掴んで立ち上がらせた。

「せぬ、はぁ、はぁ、結婚など、せぬっ」

 息も絶え絶えになりながら、ジョセフィーヌ様はヴィドルクの胸を突いた。

 一歩よろめいたヴィドルクは、ジョセフィーヌ様の掴んでいた手を乱暴に突き放す。

「ジョセフィーヌ様!」

 後ろに倒れそうになったところを将軍が支えた。

「せっかく平和的に結婚という方法を取ろうとして挙げたのになぁ、残念だ」

 ヴィドルクが残忍な笑みを顔に浮かべ私を見た。

「魔欠落者、だって?」

 髪の毛をつかまれて引っ張られる。

 痛っ。

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