財産を収納
「目的は分からぬが出迎えねばならぬ。ツイーナはジョセフィーヌ様への連絡と城で働く者への連絡を。それから」
「分かっています。魔特化者は鉱山へ向かわせます。あそこには毒を恐れて彼らも近づかないでしょうから」
魔特化者は鉱山へ?
「【風】客人がきます。城の者は接客準備を、【風】魔特化者は全員急いで鉱山へ向かいなさい」
慌ただしく風魔法で指示を出しながらツイーナさんが階段を下りる。
何が起きているのか分からずいた私の肩に、宰相が手を置いた。
「エイルも、嫌な思いをしたくなければ、すぐに鉱山へ行きなさい。【風】将軍、すぐに兵をまとめて城の警護」
兵に城の警護?
何が起きているの?誰が来たというの?
少し高い位置にある窓。背伸びをして窓の外を見る。
帯剣し馬にまたがっている人が20名ほど。馬に囲まれて2台の馬車が見えた。
馬車に刻まれた印、あれは……。
「神殿の?」
「そうだ。エイルも早く行きなさい。神殿の人間は魔特化者を毛嫌いしている。会わない方がいい」
宰相に背を押されるようにして階段を駆け下りる。
建物を出て、そのまま鉱山へと走り出す。
その途中、カートに人を乗せて押しているガッシュさんと会った。
カートに乗っていた男性は、片足を足首から失っている。そして、腰には赤い布。
火魔法の使い手。だから鉱山では働いていなかったんだ。
「手伝います!」
ガッシュさんに声をかける。
「いや、大丈夫。それよりも早く鉱山へ」
「収納魔法で」
カートを押すよりも早いと言おうとして途中で言葉を止めた。人を収納できることは言っていない。
それに、説明なく収納される人間は驚くだろう。
……中にはブルーもいるんだから。
「そうか、エイルは収魔特化者だったな、それに、作業場の位置も知ってるな。頼む、作業場や製鉄所を回って、宝石や鉱石を収納に隠してくれるか?収納した後の指示はツイーナに確認してくれ!」
「はい、分かりました!」
私にできること、いいえ、収魔特化者の私にだからできること。ここでは当たり前にその人その人に役割が降られる。
午前中に回った作業場や製鉄所、そのほかの鉱石や宝石などが置かれている場所をめぐって次々収納していく。
まだカラフルな布を身に着けている人を見かけたら、魔特化者は鉱山へ行くように指示が出ていることを伝える。
急なことで風魔法の連絡が届いていない人もいるようだ。
収納し終わって城へ向かう途中に、診療所へ駆け込むテラの姿を見つけた。
「テラ!鉱山へ向かわないと!」
「ああ、エイル。よかった。何が起きてるか分かる?」
「神殿の人間が来たみたいなの。鉱山の毒を嫌って神殿の人は近づかないから、魔欠落者は嫌な思いをしないように鉱山へ隠れるようにっていうことみたい」
テラは私の言葉を聞いてほっと息を吐いた。
「よかった。魔物が現れたんじゃなくて。相手が人間なら、私は残るよ。ここにいる人たちが急に容体が悪くなるといけないし」
テラが、診療所の2階に視線を向ける。
「分かった。気を付けてね」
テラが頷くのを確認してから城へ向かって駆けだした。
ツイーナさんに指示を仰げと言われたけれど、どこにいるのだろう?城に向かったのは確かだと思う。
「あの、ツイーナさんがどこにいるのかご存じありませんか?」
大量の宝石や鉱石を収納した。
総額いくらあるのかも分からないほどだ。そして、これはこの国の人たちが食べていくための大切な財産。
皆で協力して鉱山から取り出し加工した大切な財産。
慌ただしく動き回る侍女の一人に声をかける。
「ツイーナさんは、ジョセフィーヌ様の身支度を手伝っていると思います」
ただの屋敷ではない。城だ。城の中だというのに自由に歩き回れるのは、ツイーナさんについてあちこち回って顔を覚えてもらえたからだろう。
……だけれど、こういうときばかりはできれば「ここで待っていなさい、ツイーナさんを呼んできますから」と言ってほしなぁと思ってしまう。
ジョセフィーヌ様の身支度か……。あまり顔を合わせたくないな。
どこにいるのだろう。食事をとった部屋かその隣か、他の場所か……。とりあえず、2階に上がり食事をとった部屋に向かう。
ちょうど、向かいの部屋からツイーナさんが出てきた。よかった。
「ツイーナさん」
「エイル、どうしてここへ?早く鉱山へ行きなさい」
ツイーナさんは両手に書類を山積みにしている。
「【収納】どこへ運ぶんですか?他にも運ぶものがれば手伝います。移動中に話をさせてください」
ツイーナさんは一瞬戸惑ったものの、すぐに部屋の中に戻っていく。
「エイル、じゃぁ、ここに並んでいるものすべて収納してちょうだい。これは鉱山や宝石の採掘資料なの。他国の者には見られたくないから念のため移動させるつもりで」
そうか。
お金のある国だと知られないためにということなんだ。
「ツイーナさん、ガッシュさんにたのまれて、作業場などに置かれていた宝石や原石や鉱石など収納しました。どうしたらいいですか?」
「書類だけではなく現物を見られるのもまずかったわね。特に現物は、そのまま持ち去られる危険もあるわけだし……」
ツイーナさんが、食事をした部屋をノックして返事を待たずにドアを開いた。
「将軍、警護態勢が整っている場所はどこですか?」
部屋の中には将軍のほかに10名ほどの兵がいて何やら打ち合わせをしていた。
「ここだ」
将軍が指で床を指し示す。
「ほかには?エイルの安全を確保できる場所は他にありませんか?」
将軍がドアの前で立っている私を見た。
「魔特化者は鉱山に向かわせたはずじゃないのか?」
首を傾げた将軍にツイーナさんが早口で答える。
「宝石や鉱石、もろもろの書類など見られたくないものをすべてエイルが収納しています」
将軍が首を左右に曲げ、コキコキと音を立てた。
「そりゃ、ここにいるべきだな」
将軍は表情を引き締め、ツイーナさんに指答えた。
「急いでエイルを着替えさせろ。使用人の服からそこそこなお嬢様の服装に。確か、あそこに子供サイズの服があっただろう」
「あの服は……でも」
ツイーナさんが、一瞬言葉を詰まらせ、そして将軍に首を横に振って見せた。




