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【書籍化】魔欠落者の収納魔法~フェンリルが住み着きました~【web版】  作者: 富士とまと


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カインの思い

 宰相も将軍もツイーナさんも、固まり、ジョセフィーヌ様はスプーンを取り落とした。

 カツーン。

 静まり返った部屋に、スプーンが音を立てて床に落ちる。

 数秒。たったの数秒だけど、とても長く感じる沈黙のあと、ジョセフィーヌ様が立ち上がる。

「憎い、……憎いのじゃ。妾は、魔欠落者が憎い……」

 声が震えている。

 動揺?怒り?悲しみ?

 ベールの奥の表情は分からない。

「憎い、憎いのじゃ。……妾の幸せを奪った魔欠落者が……。だから、だから……」

 ふらりとおぼつかない足元で、ジョセフィーヌ様が私の元へと近づく。

「憎いっ!」

 グイッといきなりものすごい力で襟元を掴まれた。

 うっ、喉が締まる。

「私の幸せを奪ったのじゃ。私から、愛しい人を……だから、憎い。魔欠落者さえいなければ、妾は……」

 くっ、苦しいっ。

「ジョセフィーヌ様!」

 宰相の声に、ジョセフィーヌ様は正気を取り戻した。

 ゲホ、ゲホ、ゴホッ。

 解放され、一度に大量の空気を吸い込んでむせる。

「妾は……。妾は……憎いのじゃ……だから、だから、魔欠落者が死のうが、どうなろうが……」

 ジョセフィーヌ様は、そういうと踵を返して部屋を出て行ってしまった。

「大丈夫?エイル?【回復】」

 ツイーナさんがせき込む私の背に手を当て、回復魔法をかけてくれた。

 喉の詰まったような感じがなくなり、呼吸が楽になる。

「かわいそうに……」

 宰相の声に顔をあげる。

 宰相は、ジョセフィーヌ様の出てった扉を見ていた。

 かわいそうという言葉は、ジョセフィーヌ様に向けられたものだ。

「私……その、ごめんなさい」

 宰相だけじゃない。将軍もツイーナさんも、同じ目をしていた。ジョセフィーヌ様を気遣う目を。

 だから、謝った。何か、知らないうちに私は、ジョセフィーヌ様につらい思いをさせる発言をしてしまったんだ。

 ツイーナさんが首を横に振った。

「さぁ、片づけて午後の仕事をしましょう」

「は、はい!」

 食器を収納して今度はカートもすべて収納して食堂に戻した。


「あ、カインさんっ!」

 午後に回った第五鉱山の入口でカインさんを見つけた。

 いたんだ!見つけた!よかった!

 風魔法の使い手だとハーグ君が言っていたので、ここで空気を送り込む仕事をしているようだ。

「あら?知り合い?だったら彼に皆の名前を聞いて記録しといてくれる?私は中を確認してくるわ」

「はいっ!」

 ぺこんとツイーナさんに頭を下げる。少し話をする時間をくれたみたいだ。

「君は、あの時の、そうか。うん、よかった。君もここへ来られたんだね」

 よかった?

 来られた?

「えっと、ハーグ君も一緒です。その……カイン兄貴やほかの連れていかれた子供を助けたいと、わざと捕まって……」

 他の人から距離があるので、声を潜めれば聞こえないだろう。

 それでも用心しながら周りを確認してカインさんに逃亡するために火魔法が使えることを隠して行動していることなど伝えた。

「そうか、ハーグが……。そうだな。ハーグは知らないものな。だがすぐに気が付くさ」

 気が付く?

「逃げる必要などないことに。ここは、魔欠落者にとっては天国みたいな場所だ」

「天国?」

「魔欠落者を、魔特化者と呼ぶことは聞いたかい?」

 こくんと頷く。

「それが国民にすんなり受け入れられているのはなぜだと思う?」

 鉱山で働くにはとても役に立つからじゃないの?

「ここには無いんだよあれが。そしてあいつらがいない」

「あいつらって?」

 カインさんは、苦々しい顔をして答えた。

「教会だよ。教会がないから神殿のやつらもいない」

「神殿って、国境を越えた行き来が許された独立してるんだよね?なんで、この国にはいないの?」

 神殿は、どの国にも所属しない。神殿関係者は、国境も自由に行き来できる特権があったはずだ。

 どの国も神殿に逆らおうという気はない。何故なら、回復魔法の力が強い者の派遣を打ち切られると困るからだ。

 ……レイナさんは、回復魔法の力の強い魔欠落者に神殿が独占的に担ってきた治療をしてもらおうとしている。

 神殿の力が弱まれば、魔欠落者に対する差別的な教えを信じる者も減るのではないかという考えだ。

 この国に神殿関係者がいないのは、治世者が受け入れを拒否していたからだろうか?拒否なんてできるの?できるとしてもなぜ?

「おーい、カイン次はお前の番な、頼んだ。魔力が切れた」

「あ、はい!今行きます!」

 カインが緑の布の人……別の風魔法の使い手に呼ばれて持ち場に戻っていく。

「そうだ、ハーグに他の子供たちもここに連れてこられないか相談したいって伝えられたら伝えてくれないか?」

「わかりました」

 他の子たちも連れてくる。

 カインさんは、見ず知らずの私やルークも必死に守ってくれた。きっと一緒に生活していた子供たちもそれは大切にしていたのだろう。

 大切な子供たちを連れてくるという。そこまで、カインさんは、ここを気に入り、信用しているということだ。

 国を治めるジョセフィーヌ様が……あんなに魔欠落者が憎いと言っているにも関わらず。

「おまたせエイル。どう、皆の働きは」

 ツイーナさんが戻ってきて手元の紙をのぞき込む。

 あ!しまった!すっかり仕事がおろそかになっていた。

「ご、ごめんなさい、あの、私……」

 自分の名前を書いて、×印を付けた。


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