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私と違う

 山狩りにあって連れていかれた子供たちの名前をハーグ君から聞き終わると、リーダーと思しき人が声を上げた。

「よし、休憩は終わりだ。さぁ仕事を再開するぞ!」

 その言葉で、皆きびきびと仕事を始める。

 ハンマーを杭に振り下ろして岩肌を削っていく男たち。

 ハーグ君は、男が削た岩肌を光魔法で他よりも明るく照らしてじっくりと見ている。

「あ、親方!」

 ハーグ君の声に、頭の毛が少し薄くなった30前後のがっしりした男が振り返った。

「見てください、この隙間から光を入れると、あそこ」

 ハーグ君が光魔法で岩の隙間の先を照らす。

「どれどれ」

 親方が隙間を除く。

「ほー、こりゃまた、えらくキラキラと輝いてるな」

 キラキラ?

「でも、ありゃダメだ。宝石じゃない」

 親方はそれだけ言うと、また自分の持ち場に戻った。

「え?違うんですか?あんなにきれいなのに……。宝石じゃなくても、価値がありそうじゃないですか!」

 ハーグ君が親方の後を追う。

 そんなにきれいなの?

 隙間から中を覗き込む。

「うわー、ほんとうにきれい」

 赤い小さな玉みたいなものがキラキラと光を受けて輝きを放っている。

 ……違う、よく見ると、光を受けなくてもキラキラしてる。

 赤?

「あ!ハーグ君、赤いところは掘っちゃだめなんだって。大地が揺れて岩が崩れ落ちる」

「え?」

 ハーグ君が振り返った。

「おお、嬢ちゃんよく知ってるな。そうだ。赤いところは触っちゃならねぇ。おい皆、ハーグがいち早く赤い壁を見つけてくれた。その奥は赤い。だからそっちは掘り進められない。分かったな!」

 親方が、皆に支持を出していく。

「新入り、よく見つけた。宝石じゃないが、赤い壁に穴開けて生き埋めなんて洒落にならないからな。助かった」

 親方がハーグ君の頭にぽんっと手を乗せた。

 ハーグ君は褒められたことがうれしいのか、人差し指で鼻の下をこすった。

「いいか、赤は危険を知らせてくれる色だ。しかも段階がある。ちょっと赤いだけならいい。だが、今見たように輝けば輝くほどやばいやつだと、言い伝えられている。それから、もう一つ。危険な赤は、これが赤いやつな」

 親方が、ハーグ君の身に着けている黄色い布を手に取った。

「赤い布、つまり火魔法はやばい」

「毒ガスが出ていて、火魔法で燃えるんですよね。魔法だけじゃなくて火が坑道の中では使えないから、灯りの確保が光魔法に頼るしかないって、聞きました」

 親方の手が伸びて、今度は私の頭をぽんっと撫でる。

「本当に嬢ちゃんは物知りだ。あとは何を知っている?」

 えっと……。

 老人たちに聞いた話をする。

 竜の鳴き声の話。右足から入る話。

「なんでエイルはそんなに詳しいの?」

 ハーグ君が驚いた顔をする。

「話を聞いてメモを取るのが、今日の私の仕事だから」

 手元の紙とペンをハーグ君に見せた。

「おう、嬢ちゃん、字が書けるのか。ちょうどいい」

 親方がズボンのポケットから紙を4枚つなげた大きなものを取り出して広げた。

 木の枝のようないろいろと枝分かれした線が書かれている。ところどころに何かの記号や文字が書き込まれている。

「ここに、赤って書いてくれないか?」

 赤と指をさされた場所に書き込む。

 よく見ると他にも何か所か赤の文字。何だろう?

「ここの地図だよ。今いるところがここ。赤い壁があったところは掘り進められないからよけて進む。あと、×印は毒ガスの噴出口が近くにあって危険な場所。〇が鉱石や宝石がよく出た場所だな。おお、ここに青い石、こっちに鉄って書いてもらえるか?」

 言われたように地図に書き加えていく。

「親方、この黒い丸印は?」

 ハーグ君が興味深そうに地図をのぞき込む。

「ああ、空気の抜け穴だ。風魔法で送り込んだ空気に押されて、毒ガスが抜ける穴の場所。毒ガスが流れていくから近づいちゃだめだ」

「毒ガスは外に出るんですか?その、大丈夫なんですか?」

 今まで話を聞くだけだったツイーナさんが、親方の代わりに説明してくれた。

「毒ガスは魔獣の森の方向へ抜けていくのよ。町に影響がないだけじゃなくて、毒ガスがモンスター除けの効果にもなってちょうどいいの」

 そっか。モンスター除け。滝以外にも、モンスターが嫌うものってあったんだ。

「さぁエイル。まだたくさん回るところがあるから。ここもみんな〇ね」

 ツイーナさんがうんと頷く。坑道の出口で、収納魔法で岩を運んでいた少女に会った。

「ツイーナさん、少し時間をください。えっと、収納魔法、収魔特化者と会ったの初めてで、えっと」

「そう。いいわよ。情報収集も重要だものね。ここでの収魔特化者の役割を教えてもらうといいわ。私は先に出て外にいる人達を見ているから」

 ツイーナさんに許可をもらって、少女に話しかけた。

 見た目は私と同じくらい。見た目通りなら10歳よりも少し下の年齢だ。私のように、見た目が幼くて実際はもう少し上の年齢という可能性もある。

「初めまして。私はエイルです。少し話をしてもいい?」

 ひらひらと橙色の布を振って見せる。

 少女も、私と同じ橙色の布を振って笑ってくれた。

 だけど、違った。

 すぐに、私と少女が違うということは分かった。

 私の収納魔法は時間停止も状態維持もできない。だけれど、この子の収納魔法は時間停止も状態維持もできる。

 ……。だから。

 生きたものを収納できない。

「じゃぁ、仕事に、もどるね……」

 その事実を知った後、少女とどのような会話をしたのか覚えていない。

 収魔特化者だからって、皆が同じではない。ひとくくりにはできない。

 それぞれが違う……。

 ブルー。

 私以外にいないかもしれない。

 やっぱり、やっぱり……。私、ブルーのために長生きしようってがんばるけど、私がいなくなってもブルーがお腹いっぱい過ごせるように何か考えないといけない。うん。帰ったら、ここから帰ったら考えるね。


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