同じじゃない
次に案内されたのは、鉱山だった。
入り口に立っているのは、緑の布をつけた少年と少女が一人ずつ。
「【風】」
「風魔法で、外の空気を坑道の中に送り込んでいるのよ。これで、中の毒ガスを押し出しているの。常にきれいな空気を送り込むために、二人で交互に魔法を使ってもらっているのよ」
ツイーナさんの説明に、寝たきりの老人の姿を思い出す。
長年毒を吸い続けると歩けなくなる……と。
「この子たちのおかげで、毒ガスを吸う危険が格段に減ったわ。大丈夫、入りましょう」
ツイーナさんが坑道に足を踏み入れた。
私も、そのあとに続く。坑道の入口で一度立ち止まり、えっと、右足から。うん、よし。
坑道の中は、驚くほど明るかった。
洞窟をイメージしていたので暗いと思っていたけれど。
「【光】」
黄色の布を身に着けた子供とすれ違う。
「昼間のようでしょう。この子たちが光魔法で照らしてくれるから、ほら、足元の段差に躓いて転ぶこともないわよ」
老人の話を思い出す。天井や壁を見上げると、亀裂か入ってぽろぽろと今にも崩れそうな場所もはっきりと見える。その下を除けながら、坑道を奥へ奥へと進んでいく。
もし暗かったら……。この何倍も進むだけで危険なのだろう。
いくつもわかれる横道。その先がどこにつながっているのか、明るい場所に向かえば迷うことはないけれど、もし暗ければ……。
10分ほどすすむと、カツンカツンと岩を砕く音が響いてきた。
坑道の分かれ道を右に進むと、20人ほどの大人が岩を砕いている。
緑の布、青い布、白い布、橙の布、黄の布……赤い色の布以外の人たちと、布をつけていない人がいた。
「喉が渇いたな。水頼む。皆も一度休憩を取ろう」
「【取出】」
「【水】」
「【回復】」
すぐにコップが姿を現し、中に水が満たされ、疲労が吹き飛ばされた。
「ありがとう」
呪文を唱えた人に、礼を言いながら思い思いに腰を下ろしてコップの水を飲んでいる。
「おーい、新入り、お前も休憩だ。こっちこい」
年長者の男に呼ばれて、壁に向かっていた少年が振り返る。
「あ、ハーグ君」
「エイル!」
ハーグ君はここにいたのか。
「ああ、一緒に入った子なのね。うん、私たちも一緒に休憩を取りましょうか」
ツイーナさんがにこっと笑う。
「ありがとうございます!」
それは、ハーグ君と話をしてもいいということ、なんだよね?
コップを二つ受け取り、ハーグ君の元に行く。
「はい、どうぞ」
二人で壁を背にして腰かけて水を飲む。
「よかった。無事だったんだ」
ハーグ君がほっと息を吐く。
「うん。テラも見たよ。医務局っていうの?なんか回復魔法の魔……特化……者が集まっている建物で働いてたのを見たよ。ハーグ君は坑道で働くことになったんだ」
「ああ、そうだ。まぁ、オイラは非力だから主に光魔法要因。あとは大きく切り崩した壁面に宝石の原石が無いか探すのが仕事」
ハーグ君がちょっと声を潜めて話を続ける。
「初めさ、坑道で働くなんて、犯罪者や奴隷が送り込まれるなんて噂も聞いたことがあったからさ、すごい重労働で数年で命を落とすような仕事だと思ってたんだ。だから人を買い集めてるのかと。でも、どうも違うみたいなんだよなぁ」
ハーグ君が首をかしげる。
犯罪者や奴隷が送り込まれて働く場所か……。数年で命を落とすような過酷な仕事。
風魔法で空気を送り込まなければ、光魔法で照らさなければ……。
毒に侵され、落石に押しつぶされる。
「【収納】」
私と同じくらいの背丈の女の子が、壁から落とした大きな岩を収納した。
ゆらゆらと腰から下げた橙色の布が揺れているのが目に入る。
収納魔法の魔……欠、特化者!
いた!いた!
いたよ!
世の中には私以外にもいる。だったら、私が年老いて死んじゃうまでには、私の代わりにブルーと生きてくれる子が見つかるかもしれない。
よかった。ブルー。
女の子に話かけようとしたけれど、忙しそうに坑道の出口に向かって速足で行ってしまった。
「エイルも、あの子と同じようにここで荷運びの仕事だったら一緒に働けたのにな」
荷運び。そうか。収納魔法を使えば、重たい鉱石だって、大きな岩だって、簡単に坑道の外に運び出せる。
「で、エイルは何の仕事をすることになったんだ?」
ハーグ君の質問に首を小さく横に振った。
「よくわからない。今は、ツイーナさん、あの人にいろいろと案内されて、紙にメモを取っているんだけど。なんの仕事をすることになるかはよくわからないの」
「ふーん、そっか。エイルは字が書けるから、坑道では働かないのかな。聞いた話だと、こういう坑道が複数あって、それぞれ20人~50人くらい働いてるらしいんだ。その坑道ごとに宿舎があるんだってさ。オイラは今日からその宿舎で寝泊まりすることになる。エイルやテラとはばらばらになっちまうみたいなんだ」
ちょっと寂しい。
「で、でも、明日もこうしてあちこち回る仕事だったら、会って話をすることができるよ!」
このまま、仕事ぶりをチェックして回ることが仕事になれば、毎日とはいかないにしても会えるチャンスはあるだろう。
「そうだといいな。エイル、この後もいろいろと回るんなら、カイン兄貴がいないか探してくれないか?この坑道にはいないし、カイン兄貴の名前を知っている人間もいなかった。どうも宿舎が別だと交流もあんまりないみたいなんだ」
「うん。任せといて。あと、探してほしい人がいたら名前を教えて」
紙にはツイーナさんに教えられ、一人ずつ名前を書いていく。だから、ハーグ君の探している人は顔を知らなくても見つけられるかもしれない。……名前と、何の魔法が使えるか知っていれば。




