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プロローグ『怪しいものではない』

「怪しい奴め! 皆気をつけろ!」


 一人の若い男が叫ぶと、俺の周りを囲んだ若い衆が鍬や鎌を手にこちらを睨んでくる。

 な、なんでこうなった……。

 俺は焦りながらも状況を整理しようと思考する。

 まず、俺はいつも通り自室で目を覚ました。うん、ここは問題ない。

 じゃあ次だ。その後は適当な飯でも食べようと冷蔵庫を見たが何も無かったんだっけな。んで、仕方なく長ズボン穿いて白ティーに着替えて玄関から外に出たんだよ。

 そしたら見知らぬ村にいた訳よ。


 ……ぜんっぜんわからねぇ!


 なんで玄関開けたら見知らぬ村に着くんだよ。しかも玄関のドアも消えてるし。なにこれドッキリ!? でも一般人にドッキリなんて日本じゃまずなさそうなんだが。ドッキリと言えばカナダとかヨーロッパだしなぁ。

 焦りのあまりどうでもいいことまで考えていた俺は、表面上だけは冷静なふりをしながら彼らに話しかける。


「ま、まま、待て! 俺は怪しい者では……あれ? コレどう見ても俺怪しいか?」

「いや、俺らに聞かれても」

「あ、これは申し訳ない」

「「……」」


 何とも言えない沈黙が落ちる。

 おい、どうすんだよ、的な視線が相手側で交わしている。その間は俺氏、縮こまることしか出来ない。

 コンビニで朝食買おうと思って出掛けただけなのになんでこんな目に合わなきゃいけないのか。全くもって理不尽だ。

 半ば自暴自棄になりそうな俺に、村人達が手に持った鍬や鎌を下げ始めた。


「なんと言おうか、コイツは怪しいが、悪いやつではなさそうだな」

「そうだな。だがかと言って放置も出来んだろう」

「あぁ、それもそうだな」


 なんか勝手に話が進んでいるんだが、これって邪魔しちゃいけないよな。

 俺は無言で村人達を見つめていると、彼らは何度か言葉を交わすと、こちらに向き直る。


「お前、突然現れたがどんな魔法を使った?」

「へ? 魔法?」

「そうだ。魔法だ」


 真面目そうな顔で頷く目の前の男に、俺は困惑を隠せず首を傾げると、彼も首を傾げる。


「お前、魔法がわからないのか?」

「えぇっと、魔法が存在するとは信じてない人間なんで」

「何を言ってる。魔法は存在するぞ……“我が手に明かりを”」


 難しい顔で彼は言うと、手から突然火が吹き出す。

 突然のことに俺はびっくりし、上半身を後方に反らしすぎて後ろにコケる。

 いってぇ……。


「大丈夫か?」

「……まぁ」


 いつの間にか手から火を消していた彼に手を貸してもらい、俺は起き上がる。

 いやしかし、まさか魔法が本当に存在するなんてな。これは世紀の大発見じゃないか?

 などと考えていると、彼は手で顎を擦りながら口を開く。


「もしかしたらなんらかの魔法にお前は巻き込まれたのかも知れんな」


 うぅ、哀れみの視線が痛い……。

 いや! でもこれはチャンスだ。ここで同情されれば俺の立場も少しは良くなるかも。ここは悲しい表情を。


「どうした。突然真顔になって」

「え、悲しい表情じゃないっすか?」

「口調もおかしいぞ」


 ぐっ、俺の渾身の演技が効かないだと!? これでは同情してもらって立場が良くなる! 作戦が上手くいかない。

 ど、どうすれば……。


「まぁ、お前は恐らく被害者だろうし、一時的だが俺が保護してやる。皆! それでいいか?」

「おう」

「俺もそれでいい」


 周りの村人達から賛成の声が広がる。

 あれ? なんか知らんが良い方向に向かってる感じ?


「そういえば、お互い自己紹介していなかったな。俺はグレス。お前は?」

「俺は、一ノ瀬虎太郎だ。その、よろしく」

「あぁ」


 握手をした瞬間、鍛えられた彼の手に俺の手が悲鳴を上げたのは言うまでもない。






 ===================





 俺は今、グレスの家に厄介になっている。

 彼、と言うか彼ら村人達の住んでいる家はどれも木造建築だった。

 それもパッと見は江戸時代か、それぐらい古い。

 何と言うか、ちょっと落ち着くな。日本にいるみたいな気がしてね。

 グレスの家を見回す事数分後、奥から幼い子どもと妻らしき女性が出てくる。


「こんにちは。貴方が一ノ瀬さんかしら? 私はグレスの妻、サヤカといいます」


 黒髪ポニテ美女ことサヤカさんが綺麗な動作でお辞儀する姿に、俺はあたふたしながら返す。


「あ、あの、突然お邪魔してしまい、その」

「お気になさらないで下さい。困った時はお互い様です」


 にっこりと女神のように慈愛のこもった眼差しで言うサヤカ様に、俺は感激のあまり思わず涙が溢れる。


「あ、あいがとぅごじゃいますぅ」

「ふふっ、一ノ瀬さんは面白い方ね。ね、あなた」

「まぁ……確かにそうだな」


 呆れた視線を向けながらも、彼の顔はしょうがない奴め、みたいな感じで見てくれていると思う。たぶん。


「ほら、ルルも自己紹介しなさい。後ろに隠れてないで」

「むぅ」


 サヤカさんの後ろに隠れていた少女、ルルちゃんかな? が、恥ずかしそうにしてこちらを見上げている。

 やばい。俺はロリコンじゃないと思っていたけど、この黒髪美少女の上目遣いを見ちゃうと、ロリコンでもいいやって思っちゃう。

 ルル……恐ろしい子!


「ルル……です」

「あ、うん。ルルちゃん、これから少しの間だけど、よろしくね?」


 俺が答えるとサッとサヤカさんの後ろに隠れてしまった。

 むむ、これは中々手強そうだぜ。ルルちゃんが心を開いてくれる日がいつかくるといいんだが。

 ……いや、変な意味はないからね?


「悪いな。ルルはちょっとシャイでな」

「大丈夫大丈夫。徐々に仲良くなれるように頑張るさ」

「そうか。仲良くなることはいいが、娘に手を出したら……わかるな?」

「い、イエッサー……」


 元々強面な顔が更に恐ろしくなったグレスの顔に、俺は引きつった顔で頷く。

 てか、どうみても10歳すらいってない少女を恋愛対象に見るわけ無いだろ! って言いたいけど、それ言ったらなんかダメな気がする。


「まぁしばらくは俺がお前の面倒を見てやる。だが、ずっとは無理だからな」

「わかっているとも。出来るだけ早く独り立ちするよう頑張るよ」

「あぁ、それならいい。それで、お前は狩りが出来るか?」

「か、狩り?」

「そうだ。この村で男は皆狩りが出来なくてはならない。当然、お前も出来なきゃいけない」


 まじか……どうしよう、狩りなんてゲームでしかやったことねぇよ。

 冷や汗をダラダラと流す俺に、グレスは溜息をつく


「なるほど、狩りは出来ないようだな」

「すんません!」

「いや、気にするな。出来ないなら出来るようになればいい」

「ふぁ!?」

「よし、善は急げというしな。ついて来い。狩りの仕方を教えてやる」


 そう言って、グレスは俺の腕を掴み、ズンズンと足を動かして外に出て行った。

 ちょ! 俺の意思は!? へい! そこのお美しい親子! 助けて! ヘルプ! いぃやぁあああああ!!






 森の中に入る前に武器の使い方を試した結果。


「弓も剣も使った事ないのか……」

「さぁーせん」


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