90話 風雲急を告げる
シャロミーと街を歩き回った翌日、カサードは自分の執務室で、虚空を見つめ何やら呟いている。
「ん~……そういえばあんぱんとか、菓子パンみたいなのをまだ作ってなかったなぁ……、とりあえず蜂蜜とかメープルシロップとかは在るけれど、仕入れるよりも自前で集めたほうが、安く済むかも。って事で蜂蜜採る時は……」
何かを思いついたようで、わら半紙の試作品で養蜂箱の設計図をガシガシと書き始める。
おそらく、木工製品製造村のドワーフに養蜂箱を作って貰い、村の近くに設置するつもりなのだろう。
「ん~、他に砂糖とかも自前で大量製造すれば、たとえ高級品でも少しでも安く出来るかも。出来た暁には甘味を作りまくりんぐ。ぬふふふふ……目指せ地産地消!」
そんな独り言を言いながら、カサードはにやけている。
にやけながら図面を書いていると突然、バァン! と乱暴に執務室のドアが開く。
「ひょあ?!」
カサードは、突然の音に驚いて体をビクッと強ばらせ悲鳴を上げる。
誰かと思い、ドアの方を見ると、ペシェだった。
「こら、待ちなさいペシェ! あっ カサード様、驚かせたようで……ごめんなさい」
次に入ってきたのはシャロミーだ。
多分、シャロミーが目を離した隙に、ボクの匂いを辿って走り出したペシェを追いかけて来たのだろう。
「クルルゥ~……」
ペシェが、執務机に座ってるカサードの横から抱きついて、頭を擦り付けてくる。
『本当になつかれてるなこりゃぁ……』
カサードは、ペシェの頭を撫でながら苦笑う。
「カサード様の邪魔しないの! 離れなさいペシェ!」
ボクから引き離そうと、シャロミーがペシェを後ろから引っ張る。
「ガウゥ……」
シャロミーに引っ張られるが、離れたくないのか踏ん張るペシェ。
このままでは自分の仕事が出来ないので、どうした方が良いか少し考える。
『う~ん、ペシェは喋れないからボクの所に来る理由を聞けないからなぁ……。エリザベドの婆さんに、ペシェの喉を喋れるように改造して貰えないかと聞いてみるかな? よし、その線でやってみるか』
「ペシェ、離れなさい。あんまりシャロミーを困らせるんじゃないよ」
優しい口調でペシェに離れるように言うと、眉をハの字にして若干さみしそうに離れた。
「もう~、なんでアタシの言う事に反応しなくて、カサード様の言う事を聞くの~?!」
シャロミーはペシェを、どう扱えば良いのか困っているようだった。
「あははは、シャロミー。今度、ペシェをエリザベドの所に連れてって、意思疎通が出来る様に頼みに行くつもりだ。だからそんなに引っ張らないで……」
カサードは、そんな風にシャロミーを宥めてから、二人が離れたのを確認し自分の巣事を続けた。
数週間後、カサードの計画は順調に進んでいた。
色々と動き回っていたカサードだが、突然パステゴットに謁見室に顔を出すように言われたので、何事かと思いつつ謁見室に行くことになった。
「国王陛下、カサードです。入ります!」
「うむ」
形式的なやり取りで、カサードは謁見室に入ると、先に来ていたと思われる黒ずくめの騎士らしき人物が立っていた。
「カサードよ。一つ聞く、この者が言っていたぞ。おまえがパヨティーン国の国民を拉致したと言っておるが本当か?」
「……は?」
突然父様からの訳の解らない質問されて、カサードは呆然とするしか無かった……。




