86話 城下町巡りからの……
カサードは名無しの女性と、城下町の色々な店を楽しく巡った。
職人通りで、武器屋や防具屋、カサードの発案で力を入れている調理道具を作る鍛冶屋等。
しかし、名無しの女性は浮かない顔をしていた。
「どうしたの? あまり興味がわかなかった?」
カサードが聞くと女性がコクリと頷く。
相変わらず言葉を発しない女性。
『う~ん……裏通りにある僕の店に連れてくか……』
カサードはそんな事を考えながら、名無しの女性を自分の店に案内する。
カサードの店は、既に人を雇って開店させていたが、路地を入った隠れ家的な店なので、入店している客はまばらだ。
「いらっしゃいませー。あっ、殿下……」
ホールスタッフからの挨拶に、カサードはヒョイと片手を上げて返す。
「ちょっと厨房入るよ~」
「あっ! はい! どうぞ!」
「そんな畏まらなくてもいいのに……。それと連れを奥の個室に案内お願い」
「畏まりましたっ!」
ホールスタッフと、ちょっとした会話をした後に厨房に入る。
カサードが手を洗った後、何を作ろうか考えていると。
「ちょっとあなた! ここは厨房です! 入らないでください!」
ん? なんだ? と思いつつ声のする方を見ると、カサードが連れてきた女性に対し、給仕が止めてるにも関わらず厨房内に無理矢理入ってきたので、給仕に対しカサードが一言。
「あー……その人はボクの連れなので、中に入れちゃっても大丈夫ですよ~」
「えっ?! そうでしたか! 失礼しました!」
給仕が、ペコリと頭を下げてホールに戻っていくのを見ながら、連れの女性にこっちに来るように手招きする。
「一人で待ってるのが寂しかったの?」
女性に聞くとコクリと頷いた。
『う~ん……この短い間に懐かれちゃったのかなぁ? とりあえずこの世界には無い料理にするかな……』
カサードはそんな事を思いながら調理の準備をする。
カサードはまず牛肉を取り出し、脂身を削ごうとすると、横からにゅっと手が伸びてひったくられた。
「うぇ?!」
誰かと思い、横を見ると名無しの女性が、調理しようとしていた牛肉をガブリムシャーガブリムシャーと食べている。
「ちょ!? 生肉……! えぇぇぇぇ?!」
豪快に貪り食う女性の姿に、カサードと厨房に居た料理人達が呆気に取られる。
「えっと……食べるのなら焼いた方がいいと思うよ?」
女性に話しかけても無視するように食べ続けている。
『ん~? もしかしてこの女性って基本的な……いや、なんだろう? 見た目は人間だけど獣みたいな気がする』
そうこう考えていると料理人達が、女性と生肉を引き剥がそうと、羽交い絞めなどをして奮闘している。
「キミ! 生肉は食べないで! お腹壊すよ!?」
「ガァ?! ガルルルル!」
『あっ やっぱり……喋られない理由が解った、多分喋るために必要な器官である声帯が無いんだ……』
カサードはドタンバタンと、生肉の奪い合いをしている女性と料理人達に声をかける。
「落ち着け!! 客が見てるから! 各自持ち場に戻れ!」
カサードは料理人達を叱り飛ばす。
「こら、もっと美味しい物にするから放しなさい!」
生肉を咥えて放さない女性に対し、ペットを躾ける様に話しかけた。
すると、女性は咥えていた生肉をカサードに渡したので、ヨシヨシと撫でると気持ちよさそうに頭を寄せてきた。
『ふむ……なんとなくこの女性の扱い方が解ってきたぞ……』




