閑話 実験体と称される女性 (前編)
暫し時を遡り、ここはパヨティーン国の実験棟の敷地内にある広場。
「おら! さっさと歩け!」
黒ずくめの男に手鎖をかけられた女性が、実験棟の建物から野外に引っ張り出される。
よく見ると、手鎖に何やら魔法文字が刻まれている。
どうやらその魔法文字で、何かの力を封印している様だ。
「おい実験体! お前はこいつ等を殺せ、出来るだけ短時間でな」
黒ずくめの男はそう言いながら手鎖を外す、外した後走って離れる。
手鎖を外された女性の眼前には、何処からか連れてこられた人々が武器等を構えながら怯えている。
「あなた、やっぱり早くエタンダール国に逃げた方が良かったのよ……」
「す……すまん。こんな事になるとは思ってなかった……本当にすまない……」
集団の中から夫婦だろうか、話し声が漏れ聞こえる。
恐らく近くの村から、無理矢理連れてこられたのだろう。
「エタンダール国……? どんな国なのだろう?」
実験体と言われいる彼女は、実験棟で生まれてからずっと『実験体』と言われ続けている。
勿論、実験棟にいる連中は彼女に名前なんかつけてくれなかった。
恐らく、情が移らないようにしていたのだろう。
そんな女性は、実験施設の外には出たことが無いので、エタンダール国という施設外の国に思いをはせるようになる。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
女が『エタンダール国ってどんな所なんだろう』と想像していると、近くの村から拉致された集団の中から鍬を掲げた男性が一人、女に襲い掛かる。
「えっ?! きゃぁ!」
男性が振り下ろした鍬が、女の方に食い込み、倒れる。
倒れた彼女に、男性は何度も鍬を振り下ろす。
攻撃された『実験体』と称される女は血まみれになり、ピクリとも動かなくなる。
「やった! やったぞー! これで村に戻れるぞー!」
「わぁーーーー………」
その声に村の人達が歓声を上げ始める。
しかし、その歓声は、実験体と称される女を背にしている男性の背後の異常な光景を見て段々と静かになり始める。
男性がやっつけたと思っていた女の姿が、モコモコメキメキと巨大化し始めていたからだ。
「おい! お前! 後ろ! 後ろ! 逃げて! 早く逃げろ!」
村の人達が一斉に男の後ろの方を指さし、逃げろと叫んでいる。
「なんだ? 後ろ? ん……ひっ! な……なんだこりゃ?! た……助けてくれーーーー!」
男が振り返り、巨大化中の物体を見て腰を抜かし、地面をはいずるように離れる。
「ひっ……うわぁぁぁぁ! 離せ! この野郎! ……ぐわぁぁぁぁ!!! ゴボボッ」
男性は巨大な手に捕まれたが、持っていた鍬で足掻く。
が、男性の抵抗空しく、握り潰されてしまい、死亡した。
「うわぁぁぁぁぁ逃げろー! あんな奴だとは聞いてないぞ!」
一斉に逃げ出す村の人々。
だが既に門の扉は閉まっており、外に出る事は出来ない。
「おい! 開けろ! 開けてくれぇぇ!」
「きゃぁぁぁぁ!! 化け物がこっち来たぁぁぁぁ!」
ドンドンと扉を叩くが、開けてくれる気配はない。
そうしている内に、巨大化した物体がジャンプしズドーンと人々を踏み潰す様に着地。
その後は阿鼻叫喚、一方的に殺されていく人々。
殺す相手が居なくなり、囲ってある壁を殴るがはじき返される。
恐らく結界魔法で、どんな力でも壊せなくしてあるようだ。




