第5話 苦悩
前回の王城抜け出し騒動で、俺は教育係の大臣に3週間の謹慎を命じられた…。
謹慎って言っても王城の城壁門から外には出られない事以外は、結構どこ歩き回っても自由らしい。
なので俺は、王城敷地内にある教会図書館に行って、錬金術以外で面白そうな本が無いか見に行く事にした。
教会に入った正面には荘厳な礼拝堂がある、キョロキョロと辺りを見渡していると、そこに居た黒の修道服を着ているシスターさんが寄ってきて、目線を合わせるように屈んで。
「どうしたのですか?王子」
と問いかけてきたので、俺は図書室はどこか聞く事にした。
「すいません、図書館はどの部屋にありますか?」
この『すいません』を前に持ってくる言葉、日本人独特の言い回しかな?。
なので、目前のシスターさんは『何で謝ってるのかしら』という表情を浮かべるが、すぐに笑顔になって図書館の部屋に案内してくれた。
シスターさんに案内してもらい、図書館に入ってみると、本棚から無数に鎖がぶら下がっていた。
「なんだこれ?…あっ! よく見たら本に鎖が付いてる!」
そんな風に驚いていると、シスターさんが。
「あー…王子、それは盗難防止のためです」
そう説明し、シスターは「王子、ごゆっくり見てくださいませ」と言い、忙しそうに図書室から出て行く。
『シスターさんありがとねー…。なるほどー…そうなのかー…ってマジかよ』
と内心ボケながら驚きつつ、鎖の付いてる本を手に取ると、確かに本棚と本の一冊づつに鎖が付いていた。
『ここまでしなきゃ盗難を防げないの?…これじゃ借りて自分の部屋で読むことが出来ないじゃないか…実にめんどくさい…』
と思うカサード君だった。
状況を理解しつつ、本をペラペラとめくって読んでみる…。
「う~ん…全部手書きなのねー…ご苦労なこった…」
こちらは前世から転生してきた身なので、本といえば当たり前に活版印刷の時代だった。
そういう時代から来た者、そんな考えになっても、何らおかしくはない。
「全部手書きはもの凄く時間もかかるし、手間もかかる…まずはガリ版印刷から広めようかな…」
と呟き、物造り大国日本、日本人の血が騒ぎ始めた瞬間でもあった。
図書館の本を色々と見て回った結果、宗教関係の本しか無かったというオチでした…チャンチャン。
王宮内に戻った時には、既にお昼を回っていた、いつもの一人だけの食事…美味しいんだけど…何かが足りない…毎日そう思いながらの食事はいい加減うんざりしてきている今日この頃…。
そして、あの時に見た光景…今のこの食事のその落差に苦悩して頭を抱える。
イラつき、ガシャーンと片手でテーブルに並んでいた料理をなぎ払う。
その音に、何事かと驚いた料理長や給仕の者や近衛兵のシャロミーさんが、俺の周りに集まり出す
「何か私の料理にご不満でも?」
「王子?どうしたのですか?」
恐る恐るといった感じで、周囲の人たちが声をかけてくる。
「いや…騒がせてすまない…料理は美味しいんだ…でも…」
「でも…なんでしょう?」
でも…なんでしょう?と、言われてどう答えようか考える…。
しかし、納得してもらえるような答えは出ず、ガタッと立ち上がり部屋を出る。
周りは俺の突然の行動に呆けて立ち尽くしていたが、シャロミーさんだけが付いてくる。
「彼らになにか粗相でもあったのですか?」
「カサード様! 何か言ってください!」
シャロミーさんは何とか俺の思いを聞き出そうと色々聞いてきている。
自室に戻り、シャロミーさんに。
「一人にさせてくれ」
と言い、ドアを閉め鍵をかけベッドにうつ伏せで倒れこむ…。
『どうすればいい?いっそのこと国王である父に相談するか…?』
悶々と考えているうち、いつの間にか眠ってしまっていた…。