41話 味噌のセールスかよ!?
「いや、単にキュウリを食べて欲しくてな。特別な方法で……」
ボクは懐の味噌の入った竹筒をぎゅっと掴む。
シャロミーはキュウリの入った箱を、ボクの前に置き、左に座る。リリアーナは右に座る。
ボクは二人に挟まれる形になる。
「えっと、とりあえずそのまま食べてみて」
シュテーナがキュウリに手を伸ばし、口元の布を少し捲り、コリコリと食べる。
「うむ、キュウリだな」
「次はこれを少し付けて食べてみてほしい」
ボクは味噌の入った竹筒を取り出し、蓋を空けてキュウリの入った箱の横にコトリと置く。
「なんだこれは?」
シュティーナは竹筒を持ち、鼻に近づけて匂いを嗅ぐ。
「ふむ、香水の様に良い匂いだな……」
次に指で少量すくって口の中へ……口をもごもごさせて味を確かめている様だ。
「ん、これだけでも美味だな。これは何というのだ?」
シュティーナはそう評価し、味噌の事を聞いてきた。
「あっ ハイ、これは味噌という調味料です。原料は大豆と塩と麦です」
ボクは味噌の説明と原料を公開する。
「ほぅ、ミソと言うのか」
「はい、この味噌をこうやってキュウリの先っぽに付けて食べてみてください」
食べ方を説明がてら、ボクはシュティーナよりも先に、キュウリに味噌を付けてコリッと食べる。
うん 美味しい!
「どれどれ……(味噌を付けて)ポリコリ……ほぅ! これは! キュウリだけだと飽きるが、ミソの味がキュウリの味を引き立てておる! 美味じゃ!」
やった! とりあえず花丸貰った! と喜んでいると。
「ふむ、このミソという物が気に入った! カサード殿下、これは貴国で出回っている品物なのか? 出回っている品ならば、我商人ギルドでも扱ってみたいのだが、どうだろうか?」
よほど味噌が美味しいかったのか、サルベール共和国の商人ギルドでも、味噌を扱いたいと言ってきた。う~ん、どうしよう?
出来たら大豆製品全般を交易に出したいんだけどなぁ……。
これはまだ企画段階だから、大量生産ができる状態になってからの方が良いかも?
などと思案を巡らせる。味噌はカサードお手製で、持ってきた分しか無い。
と言うか、いつの間にか交易交渉の空気になってた。
「う~ん……味噌はボクが造った物で、交易に出す程の量は無いのです。申し訳ない。しかし、2年待って頂ければ、交易に出せる程の量を造れると思います。それまでお待ち頂けないか?」
ボクはそう説明する。だって自分の趣味は、美味しい食べ物を食べる事だも~ん。
そこで急にティン! と来た。
「あっ 味噌を交易に出せるようになったら、其方からは海草類を出して頂けないか? 勿論、干した物で構わない。その方が運ぶ時に軽くて良いと思うぞ」
ふふん。昆布は出汁に使えるし、天草から寒天を抽出して、水羊羹とかも作れそう。
グヘヘ……夢広がりんぐ。
「海藻類か……う~む、解った。これで交渉成立だな。カサード殿下」
とりあえず話しが纏まったみたいだな~。
と思いながらひたすらキュウリに味噌を付けてポリポリ。う~ん、何本でもいける!
シュティーナも、交渉話を続けながら食べていたので、最後の一本に同時に手がかかる。
「!? もう最後の一本になったのか。どうする? 半分づつにして食べるか?」とカサード
「うむむ、一箱あったのにもう無くなるとは……うむ、そうしよう。」とシュティーナ
最後の一本を、ポキッと真ん中から折って分けて、二人で食べることにした。
「うぅ~、私も食べたかったー!」とリリアーナ
「結局、私達には目もくれず全部たいらげちゃったにゃ……」とシャロミー
挟まれるような形で白い目で見られるカサード。
ハッ! 両隣に居た二人の事を忘れてたー!
「あっ ごめんごめん! 帰ったらたくさん食べさせてあげるよぅっ! 許してっ!?」
と両側の二人対して謝る光景をシュティーナが見てクスクスと笑っている。
「あぁ……確かに『道化のカサード』と噂されるだけの事はあるな……聡い事をおどけて隠すか」
騒いでいる三人の耳に届かない程の小声でシュティーナがぼそりと呟く。
「こんなつまらない用事で押しかけて申し訳ない。とりあえず金貨50枚と銀貨100枚程を戻して貰えないか?」
預け金から少し引き出す事にした。
「ハハハ、我は楽しい一時を過ごせたから構わない。金貨50枚と銀貨100枚だな、すぐ用意するから待合室の椅子に座っていてくれ」
ボク達はお辞儀をして、待合室に移動して座ろうとした時に、受付の人が金貨50枚銀貨100枚を持って来てくれたので驚いた。
「座る間も無かったな」
アハハと笑い、受け取って、カサード達は商人ギルドを後にする。




