38話 カサード 活け造りをつくーる!
ふとカサードは、市場に向かって歩きながら、仕分け場での見学時の事を考えていた。
う~ん? そういえば魚を運ぶ時の桶には氷が入って無かったなぁ……。
この時代には活魚等の保存方法が確立されてないのだろうか?
あれをしてこの時代の人々を驚かせたいなぁ……などと思い、ニヤニヤしてしまう。
あれと言うのは『活き造り』だ。あぁ……皆の驚く顔が頭に浮かぶ……。
そんな妄想に耽りながら、シャロミーの後ろを付いて歩く。
「カサード様? 何故ニヤけてるのにゃ? お目当ての魚市場に着いたにゃ」
思いに耽っている内に到着した様だ。
「んぁ? あぁ 解った」
ボクはニヤけていた顔を、両手でパチンとたたいて気を引き締める。
魚市場内に入ると、威勢の良い声が、彼方此方から聞こえてくる。
「うん 良いね! この感じ」
「カサード様、今日は何を召し上がるつもりですかにゃ?」
「……魚……キモイ……」
其々(それぞれ)に思い思いの感想を述べつつ見て回る。
リリアーナの、魚キモイ発言は聞かなかった事にしよう。
「らっしゃいらっしゃい! お! そこのお三方、スープ用にどうだい? 買っていってくれよ!」
見ると様々な魚が並べられている。
よく見ると、揚がったばかりな様で、ピチピチと動いている魚もあった。
見た目がアジの魚を買う事にする。
活け造りするには鮮度と速さが必要。(と自分で思っている)
「魚屋のオヤジさん、板はありますか?」とカサード。
「板か? 何に使うんだ?」と魚屋のオヤジ。
「この場で調理するよ。シャロミー、ちょっとそこの桶で水汲んできてくれないか? 捌いた魚の血を洗い流すから」
「了解にゃ」
諸々の準備が出来た所で、手をパンッと叩き、短刀でアジを捌き始める。
刺身包丁とは違い、刀身が厚いので結構違和感があるが……美味くなれば良いのだが……。
通行人が立ち止まり何をしているのかマジマジと見ている。
アジを水で洗いながら、瞬く間に三枚におろすと、次は食べ易い様にスッスッと一口位に斜めに切っていく。
いつの間にかシャロミーが、木皿を持って来ていた。
「んぉ? シャロミーありがとう」
さすがシャロミー、気が利くなぁ。と思いつつ、シャロミーが持っている木皿に刺身を盛り付ける。ツマが無いので、見た目は結構寂しいが……。
「よっし、出来たっと……」
盛り付けをした後、顔を上げると、通行人が沢山立ち止まって、僕の事を見ていたのでギョッとした。
「うぇ!? 何事です?!」
状況が解らず思わずそんな言葉を漏らす。
「何だあの料理は? あれで完成なのか?」
「見事なナイフ捌きだ」
「何だ? 焼かないのか?」
等等の言葉がざわめきと共に聞こえてくる。
その時、アジの口がパクパクし始める。
「うわぁ! なんだ?! あの魚、生きてるのか!?」
「きゃぁ! 気持ち悪い!」
「何かの魔術か?!」
ボクはこれで完成だよ、という意味で、これ見よがしに食べてみせる。
勿論、服の内ポケットに忍ばせていた醤油をかけてだ。
そこでドヨメキが少し大きくなる。
「魚屋のオヤジさん、これは活け造りと言う料理です。食べてみてくれませんか?」とカサード
「え?! これをか? 活け造りと言うのをか……気味が悪いな……」と魚のオヤジさん
魚屋のオヤジさんは醤油のかかった刺身を、恐る恐ると言った具合に摘んで口の中に入れる……。
「んーーーー!? 何だこれは!? 美味い! 生魚がこんなに美味いとは!」
目をカッ! と見開いて驚いている。
「これは何の騒ぎだ? 道を空けろ! 立ち止まるんじゃない! 向こうへ行け!」
人が集まりすぎていたのか、憲兵が出張ってきてしまったようだ。
憲兵二人とやけに上等な服装の人が、魚屋の前に来た。
「この騒ぎの首謀者は誰だね?」
と上等な服の人が質問する。すると、魚屋のオヤジさんが僕に向けて人差し指を突きつける。
「……おやぁ?」
シャロミーとリリアーナのいる方に上半身を捻って向くと、同じくボクに向けて指を刺していた。
「あやぁ?」
そんな言葉しか出てこない。
相変わらず活け造りの魚がパクパクしてる。
上等な服を着た人が、活け造りの魚を指差しながら。
「これは何だ? 魔術でも使ったのか?」
睨めつけられながら問いかけられた。活け造りの事だろう
「いえ、魔術も何も使ってません。それは活け造りという料理です!」
嘘は言ってない、そういう技法なのだが。
「よし、しょっ引け」と上等な服を着た人
「はっ 暴れるなよ?」と憲兵
「ちょっと! カサード様は何も悪いことしてないにゃ!」とシャロミー
「何してるのよ! 貴方達! 縛らないで!」とリリアーナ
「煩い! 邪魔するのなら、貴様達も捕まえるぞ!」
シャロミー達が抵抗してくれたが、捕まりたくないのか大人しくなってしまった。
え? ちょ!? ナンデ捕縛?! ウェエエエエエエエエエ!!!
何故か知らないが捕まってしまった……。アジの刺身を全部食べれば良かったと後悔しているカサードだった。




