第29話 旅は道連れ
呆気に取られていた彼等だが、重装備の盾役と思われる男が、被っていた兜を地面に叩き付けズンズンとボクに向かって歩いて来る。
そして、鬼の形相で胸ぐらを掴まれ、足が浮く。
「おいテメェ! どういうつもりだ! 俺達の獲物を横取りしようってのか?! ア˝ァン!?」
コワイヨー ニラマナイデヨォー オロシテクダサァーイ。
チラッ と後方のお仲間と思われる方々に目線を送ってみる。
お仲間全員が見事に目線をそらした。
あちゃー 誰も絡まれたボクを、助けようとしてくれない……。
「え? 獲物って何のことですか? こっちも通れなくて困ってたんだ。そっちからもボク達の馬車が見えていた筈だけど」
とりあえず説明してみる……が。
「うるっせぇよ! もう少しで倒せるって所でテメェが飛んできてだなぁ!…」
あぁん、唾飛ばして喋らないでぇ……と心の中で嘆いていると。フワッとボクの後方から風を感じた。
「カサード様を下ろしなさい! さもないと、体から首がサヨナラするにゃ!」
シャロミーが、ボクの胸倉を掴んでいる男の喉元に、剣を突き付けて言い放った。
「くっ……わ……解ったよ! 離すからその剣を下ろしてくれ……な?」
男は突き放すようにボクを離す。
着地の際、ボクはバランスを崩して、ドタリと尻餅を付く。いたたっ 乱暴な奴だなぁ。
シャロミーはボクが離されるのを確認すると、スッと剣を鞘に納めた。
立ち上がり、お尻に付いた土をパタパタと落として。
「ボクはカサード、エタンダール国からサルベーヌ共和国に行く途中なのだ。こちらは護衛のシャロミーだ」
とりあえず自己紹介とシャロミーの紹介をして辺りを見回す。
すると、おずおずと一番奥の聖職者姿の女性が、恐る恐るという具合に、自己紹介を始めた。
「あのぅ……私はリッカミッラ 見ての通りヒーラーです」
しかし、盾役の男が突然激高した様に叫びだす。
「オイ! 誰が喋っていいっつったよ?! あぁん!」
今の暴言で、他のメンバーが竦み上がった様だ。
あぁ コイツって脳筋パワハラタイプなのか。うん、コイツは黙らせたほうがいいな。
「シャロミー、ちょっとコイツ黙らせてくれないか?」
とシャロミーに頼んでみる。ボクの力ではこっちが怪我するだけだから。
「はい 解りましたにゃ! 覚悟するにゃぁ」
シャロミーは何故か、嬉しそうに返事をすると、パワハラ暴言男の側までトコトコと歩いて行く。
「な……なんだ?! なにするつもりだ? おい、それ以上近づくんじゃねえよ!」
そう言い、男はシャロミーの肩をド突こうとするが、シャロミーは男の腕を掴み、ヒョイと捻ると男をクルリとひっくり返した。
シャロミーに転がされた男は、何が起こったのか解らず、目を白黒させていたが、状況を理解したのか、今度は顔を真っ赤にして憤怒し始める。
「テンメェー! もう許さねぇ! ボッコボコにしてぶっk……」
その瞬間、男の首が飛んだ。 え? ボク斬ってないよ?
シャロミーの目は縦長になり、尻尾の毛はぶわっと立って、剣は振りぬいた常態で止まっている。相当、この男の言動が許せなかったのだろう。
ボトリと落ちた男の顔はキョトンとしている。
そして体の方は頭があった部分から血が噴出し、胴体は膝から崩れ落ち、ドサリと倒れた。
すると、残った仲間の方は、何故か飛び跳ねて喜び始めた。
「え? え? 何事ですかこれ?」
ボクは動揺するが、シャロミーは、猫耳をピクピクさせながら頷いている。
リッカミッラや、残された仲間をよく見ると顔や腕に痣がある。
おそらくシャロミーが首をはねた、この男の暴力による物だろう。
残された仲間が、シャロミーの周囲に集まり、感謝している。
「私達は、この男の呪具によって縛られていました。しかしこの男が死んだ事により、呪具の効果が消えました。ありがとうございます!」
三人は揃ってシャロミーに頭を下げる。そして、残りの二人が自己紹介を始める。
「あたしはエリミール 力はあまり無いけど、攻撃魔法が得意なの」
そう言って自己紹介してきたのは、三角帽を被って、魔法杖を持った魔女っ子的な女性だ。
「おいらはモッキンバード へっぽこだけどアーチャーだよ」
エルミールに続いて自己紹介してきたのは、笹耳で金髪緑眼でファンタジー世界でお馴染みのエルフの男の子だ。
「ところで、お前たちは、これからどうするんだ?」
ボクはパワハラ男が死んでからの、この子達の身の振り方が心配になった。
すると、エルフのモッキンバードから、想定外の答えが返ってくる。
「ハイ! おいら達はカサード様達について行きます!」
えーーーーーーーーーーーーーーーー?!




