111話 蜘蛛亜人とのファーストコンタクト(後編)
カサードが、熊の皮を剥いでいると、アラクネが話しかけてきた。
「おまえらに頼んでみたが、えらく時間かかるのぅ」
ボクは、皮の剥ぎ取り作業をしながら話をする。
「まぁ、食べるまでは結構時間はかかりますね。で、アラクネさんはいつもどうやって食べてるのです?」
「わっちか? わっちは獲ったその場でかぶりついて食べるのぅ」
「え? 毛皮は付いたままですよね? さらに言うと生ですよね?」
「うむ、食べる時に毛の食感があるが、かまわず食べているぞ」
「……じゃあ、今日は楽しみにしてくださいね。とっても美味しく食べる事が出来るはずです」
「ふむ……では楽しみにしておこう」
等とアラクネと食べ方に関して色々と話しながら、熊を解体していく。
約一時間程かけて、内臓と肉を分け終って一息つく。
「ふぅ……漸く解体できたな。さてと……食べごたえ重視で、もも肉をステーキ風に調理してみようかな?」
カサ-ドは、いつもの様にポンッ! と手を叩き、熊のもも肉を食べやすい厚さに切り分け、インベントリから味噌が入った瓶を、手品のように出現させると、おぉー! と盛り上がった。
そして、オリジナル魔術『ジョキンダー』を籠手に薄く展開。
さらに、篭手の手のひらの方に、無数の小さな刺を生やして、ペチペチと肉の表と裏を叩いて小さな穴を開けていき、その作業が終わると刺を引っ込める。
その後、肉に味噌を薄く塗って、数分置いておく。
その間に近くに転がっていた石ころを立てて、作った簡易かまどに薪を数本置き、焚き火の火種を簡易かまどの方に移し、フライパンを熱する。
そして、熱せられたフライパンの上に、下ごしらえをした熊肉を乗せると、ジュワァ~~~~!! と肉の焼ける良い音と共に、焼けた味噌のいい香りが辺りを漂う。
「ふわぁ……何だにゃ、この匂い!?」
「嗅いだことの無い香りですわ!」
「じゅるり……」
「未知の匂い……わっちもヨダレが出てきたぞ……」
「よっし、出来たよ~」
木皿に上手く焼いた熊肉を乗せて、各自に渡した後、皆で食べ始める。
「美味しいにゃ!」
「これは!? いつも食べている肉と全然違うぞぃ?!」
「おい……しい」
「これは美味ですわ!」
「うん、肉の臭みがなくて、味噌の味も絡んでて我ながら美味しく料理できたなぁ」
各自に『熊肉の味噌包み焼き』の感想を言っている。
「「「おかわり!!」」」
「おぉぅ!? 皆、食欲旺盛だなぁ、焼くよー……」
カサードは、全員(アラクネを除く)にお腹一杯になるまで、せっせと料理を作り続ける。
リリアーナの分の肉を焼いていると、不意にアラクネが話しかけてくる。
「おまえの作る料理、わっちは気に入ったぞ」
「あっ、ありがとう……」
「わっちはおまえの事も気に入った」
「なぜです?」
「おまえは、わっちの姿を見ても恐れなかった、それとわっちの願いも聞いてくれた。おまえ以外の奴は、わっちの姿を見るなり肝を潰し逃げていく」
「あぁ~……なるほど。まぁ、アラクネが話しかけてきた事で、意思の疎通が可能だと思ったからかな?」
「ほほぅ、面白い答えだな。ますます気に入ったぞ」
要するに、[一人?で食事するのが寂しかったから]という事にしておこう。
約一時間後、漸く全員(アラクネを含む)が満足した様で、満腹になり寝る者や、剣の素振りする者もいた。
「えっと、見張りは誰がする?」
「わっちがするぞ」
「ちょっとまって、私がするにゃ! カサード様が、あなたを信用してるみたいだけど、私はあなたをまだ信用してないにゃ!」
「ん~……すまんアラクネ、好意だけは受け取っておくから。見張りはシャロミーがしてくれ」
「そ……そうか? 仕方がないのぅ……」
そんな感じで見張りをシャロミーに託し、ボクは毛布に包まって寝る事にした。
アラクネの方はと言うと、少し寂しそうな顔をし、森の方に消えていった。




