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6.はじめからおわる【5】

 白い雪が降る空を見上げて、何故か僕はこの頃よく現れる少女の存在を思い出した。また彼女は僕の家の前にいるのだろうか。この寒空の中突っ立っていたらよっぽどの馬鹿としか思えないが。


 それにしてもなぜ彼女は僕の前に何度も現れ、時には僕に襲いかかってくるのだろうか。彼女は別に物を盗みに来ているようではないようで、少なくともこれまでの襲撃で盗られたものは思い当たらない。いつも彼女はただゲロを吐いて帰るのだ。


 ……まさかそういう趣味なのか?

 いやいや、まさか。

 我ながらあまりにも下らない考えに少し笑ってしまう。ゲロを吐いて楽しい人間なんていないだろう、流石に。


 だが偶然だとか奇遇だと言って済ませられる話でないのも事実だ。彼女とのエンカウント率ははっきり言って異常なのだ。一日に一度は彼女の顔を見かけているし、三日に一度は彼女の腹をぶん殴っている。ここまでくると、彼女が僕に会おうとしているとしか思えない。


 しかし僕には彼女に付きまとわれるような覚えがない。殴られた恨みを晴らそうとしているとも考えられたが、流石にここまで返り討ちにされれば諦めるものだろう。


 何が彼女を駆り立てているのかを考えながら、僕は例の路地裏に体を滑り込ませた。誰も踏んでいない雪がギュッギュッと音を立てる。


 今日の寒さは殺人的だ。しっかり防寒しないとたちまち凍え死ぬだろう。降り積もっていく雪を手で捕まえながら僕は考える。


 雨はよく神様の涙だとか言われる。なんとも美しいイメージである。では雪は何だろうか。僕が思うに、雪は神様のフケである。見た目からの連想に過ぎないのだが。こんなにフケが出るなんて、神様の頭皮は無事なのだろうか。


 仏教の教えでは五衰というものがある。これは天人の死の兆候と言われ、衣服垢穢・頭上華萎・身体臭穢・腋下汗流・不楽本座の五つからなり、それぞれ「服に垢が付く」「華の冠が萎える」「身体が臭くなる」「脇の下に汗が流れる」「本来いるべき座を楽しめなくなる」ということである。


 ここから考えると、雪の空に御座します神様はもうすぐ寿命であるらしい。加齢臭とかしそうである。


 そんな下らない事を考えていると、ぐうと腹がなった。寒いことだし鍋系のものにでもしようか。


 鍋はいい。とりあえず食えるもの――時には食えないものでもよい――をぶち込んで煮込めば、少なくとも食べられないことはないものができる。味噌やキムチなど濃い味付けのできる調味料があれば、鍋はこのような状況において最強の料理と言える。


 確か味噌がちょっと残ってたはずだし、適当に具を見繕えば腹一杯食えることだろう。うちに帰って腹を満たすのが楽しみだ。


 そんな楽しい献立タイムは、家の前でぶっ倒れた人影の発見をもって終了した。


 その姿は小さく華奢で、どこか見慣れたような――


『今日明日はとっても冷えるので、外出の際は十分に厚着をしてお出かけください。では次のコーナーは――』


 ああ、こいつはよっぽど馬鹿だったらしい。

 寒さのせいかひどく頭痛がした。

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