4.はじめからおわる【3】
「クリスマスプレゼント?」
「ああ、受け取りな」
そう言って男が取り出したのは、冷たい輝きを放つナイフだった。
「……死こそが救済だ、みたいな?」
「まさか。これをお前にやるって言ってるんだ」
私は今日の分の仕事を終え、男の店へとガラクタを運び込んだところであった。ここにはどこからか男が持ってきた暖房がありとてつもなく快適なのもあって、というかそれが主な理由で僕は彼の店が好きだった。
至るところがボロボロなのはいただけないが、と思いながらそのボロい壁に掛けられた日めくりカレンダーを見ると、今日は十二月の二十五日。
「神様がいるんだったら、この状況をなんとかして欲しいがねえ」
男はそう呟くと、根元まで吸った煙草をさらにふかした。
「……まあ貰えるなら貰っておくよ。鞘は?」
「無い」
「なんでさ」
「あったら売り物にしてる」
彼の言うことも最もだ。幸いにもこの街にはもはや銃刀法違反なんて概念はないので、僕はそのナイフを抜き身のまま持ち帰ることにした。
「風邪ひくなよー」
そんな彼の言葉を背後に私は外へと踏み出した。
それにしても代わり映えのしない毎日だ。いつもと同じ道を歩き、いつもと同じ空を見上げる。死ぬまでこの繰り返しなのかもしれないと思うとゾッとする。
家に着くまでそう時間はかからず、10分ほどで我が家、もとい路地裏に着いた。
今日は配給もない事だしそのまま寝てしまおう。そんなことを考えていたが、目の前の厄介事のせいでそれどころではなくなった。
路地裏の袋小路にある、僕の家であるダンボール。その前に誰か人が立っている。背丈は低く、子供のようだ。
そいつは僕の足音を聞きつけたのか、こちらを勢いよく振り返った。
僕はその顔に見覚えがあった。
「あ、確かこの前殴られてた――」
「――――!」
彼女は慌てて逃げ出そうとしたが、ここは袋小路のため逃げ場は無い。
彼女は僕を睨みつけるが、僕の手に抜き身で握られたナイフを見て彼女の目は明らかに変わった。
彼女は必死の形相で僕に飛びかかってきた。
流石に女の子をナイフで傷つけるのは憚れたので、グーパンチを叩き込むことにした。無論顔ではなく腹である。
彼女の突っ込んできた勢いも相まって、僕の拳は鈍く重い音を立て、彼女は吐瀉物を撒き散らせながら悶絶した。
「なんなんだ一体……」
僕が呟くと、彼女はキッと僕を睨みながら咳き込むとフラフラと走りながら逃げていった。
その後僕はなにか盗まれた物がないかと確認したが、無くなっていたものはなかった。
初めて人を殴ったその日のご飯はとても美味しかった。