2.はじめからおわる【1】
「ご苦労さん、今日の分はこれくらいかな」
「……こんなに貰っていいの?」
「これから寒くなるし、それで温かいものでも食べな」
僕の手の上で500円玉がその鈍い光を湛えた。紛れもない大金である。
「でも流石にあれだけでこんなにもらっちゃ……」
「いやいや、この御時世、鉄ってのはかなり高く売れんのよ。お前には普段から儲けさせてもらってるんだ、たまには還元しねえとな」
そう言うと男は煙草で黄ばんだ歯を見せてニヤリと笑った。
僕はそこら辺に落ちている廃材を集めて売る、というしょーもない仕事で金を稼いでいた。僕からすればガラクタにしか見えないが、どうやら商品価値はあるらしい。
「最近は物騒だし、気をつけろよ? 病気も流行ってることだしよ」
「わかったわかった。じゃ、ありがと」
僕が礼を言いながらドアを開けると、外から猛烈な冷気が吹き込んだ。彼はこれから寒くなる、なんて言ったが既に十分寒い。十分厚着をしないと死ぬくらいには。
「気をつけろよー」
そんな彼の言葉を背後に僕は外へと踏み出した。
寒い。太陽はちゃんと働いているのだろうか。そんなことを考えながら僕は空を見上げる。
思えばここ最近空を見上げたことなんてなかった。何故なら、そこにはずっと同じ景色が広がっているから。
灰、灰、灰――――頭上に広がる灰色の空に僕は思わずため息をつく。
アインシュタインは言いました。
「第三次世界大戦でどんな兵器が使われるかについてはわかりませんが、第四次大戦ならわかります。石と棍棒でしょう」
でも、こんな調子じゃあ、もう1ラウンドはいけるんだろうな。
ついた溜息が白くなって、静かに空気と混ざりあって消えた。
どうやらどこかの国のお偉いさんは、派手にやったらしかった。
出血大サービスと言わんばかりにドカンドカンと核が落ちたらしく、その凄まじさと言ったら世界地図を書き直さなくてはならなくなるほどであったらしい。
不幸中の幸いと言うべきか、我が国には核の雨が降ることは無かったが、普通の爆弾の雨が降ることとなった。
普通の爆弾の雨は普通に建物を蹂躙し、普通に人間を虐殺し、普通に文明を破壊して。
そして気付けば戦争は終わっていた。一体どこの誰が勝ったというのだろうか。
それから何があったかというと、まあ色々あったのである。
そこから一つ特筆して言うとすれば、地球温暖化は止まった。
爆発によって塵が舞い上げられまくり、太陽光が遮られたのである。気温が低下し、農作物が不作に不作を重ね、それはもう凄いことになった。
あ、それからもう一つ。
首都は京都になった。
東京は滅んだ。
核の雨は振らなかったが、残念なことに普通に核は降ってきたのである。