先の話
夜、人気のない道を歩いていた青年にスーツ姿の男が声をかけた。
「こんばんは、君は川口君だよね」
「そうですが、あなたは誰ですか?」
「突然こんな事を言って信じてもらえないだろうが…、簡単に言うと、私はタイムマシンに乗り、未来の地球からやってきた者だ」
確かに何を言っているのかと思ったが、いたって真面目な口調の男に酔っぱらっている様子はなく、不思議と男の言葉には説得力があった。
「その未来の地球からきた人が僕に何の用ですか?」
尋ねる川口青年に男は言う。
「うむ、君達からすれば今から八十年後の未来の話になるのだが、八十年後の地球は滅亡の危機を迎える。その危機を救えるのが君の孫なのだ」
「僕の孫が…。なるほど、だからあなたは地球の未来を変える為に僕に会いにきたと…」
「…理解が早くて助かる。まだ独身で結婚もしていない君にはとても信じられない話かもしれないが、これは全て本当の話だ。そこで君に頼みがある。君の孫が産まれ、二十歳の誕生日を迎えた時、孫にこの小包を渡してほしい」
男はそう言うと、スーツのポケットから一つの小包を取り出し、青年に渡した。
「いいかい、君の孫が二十歳の誕生日を迎えるその日まで、絶対に小包を開けてはいけない。絶対にだ。いいね? 地球の未来は君達にかかっている。頼んだよ」
自分の役目を果たした男は去っていった。川口青年は男から受け取った小包をしげしげと見つめる。
男は地球を救う為に自分の孫に小包を渡してくれと言った。しかし、自分がどうなっているかも分からない八十年も先の事など興味がないし、そもそも結婚をする気がないのだ。
地球の未来など知ったことではない川口青年は小包をその場で開封し、中身を見た後、コンビニのごみ箱に捨てて帰宅した。
八十年後、どこかの別な誰かの活躍により、無事に地球の危機は救われた。スーツの男は何人もの人物に同じ話をし、同じ小包を手渡していた。
信用出来る人間を見つけ出すには、やはり数を打つ必要がある事を男は知っていたのだ…。