何も無い世界 〜生と死の間で〜
何も無い暗闇が支配する世界。
僕はその中に一人。
誰もいない、何も見えない。
信じられない。
いや、信じたくない。
信じたくないから、無駄だと思いながら何度も周囲を確認する。
だが見える物といったら、半径一メートル位の地面だけ。
見えている物が少ないけれど、そこから考えられること全てを頭の中に思い浮かべる。
何故だ、何故僕はここにいるんだ?
そもそもここは何処なんだ?
だが、思い浮かべている全ての答えは出せる訳が無い。
しかし、いくつかは時間が経てばわかるだろう。
こうしているうちに誰かが助けにに来てくれる筈。
……あれ? いつの間に僕はこの暗闇の中に誰か居るもんだと思った?
そう証明出来るものは一つも無いのに?
ここをどうやって脱出する?
そもそも僕はどうやってここに来た?
……いやいや、落ち着こうか。
まずは深呼吸して……
吸って……吐いて……
フー。
ダメだな、いつもこうなっちゃう。
ちょっとした事ですぐカッとなっちゃう。
こればっかりは仕方無いかな。
それより今は状況を把握しないとだな。
まずわかっていることから整理していこう。
一つ目、ここは真っ暗で何も見えない、何も無い空間だということ。
二つ目、そもそもここが何処だかわからない。
三つ目、人が居る気配が無い。
四つ目、今の時間がわからない、つまりここに来てからの時間もわからない。
五つ目、お腹空きました、誰か食べ物を……って冗談です。
てか、感覚だけどこんな状況になってからすでに何時間も経っているはず、なのに全く疲れないし、お腹も空かない。
どういうことだろうか、死活問題だから余計に気になってしまうが、まあいっか。
それよりも、僕が今日一日何をしていたか思い出そう。
そこに解決策があるかも、あるいは原因がわかるかもしれないし。
えーと、まず朝起きて、ご飯を食べました。
……うん、特におかしい事も無いな。
よし次。
その後、文房具屋に行ったな。
で、確か……ペンとノートを買ったんだっけ。
……あっ、シャーペンの芯買うの忘れてた。
まあいっか。
その次に、電気屋に行ってUSBメモリを買って、近くの店で弁当を買って公園に行ったけ。
で、公園で弁当を食べて……
あ、ちょうど食べ終わる頃に誰かに呼ばれたような気が……
あれ? 誰だっけいつも一緒にいた人だった筈なのに思い出せない。
あ、もしかして……
それが原因?
「あれ? やっと気が付いた?」
! 誰?
なんか後ろから声が聞こえたような気が……
それに、何処かから人の気配がする。
しかも、この声、女性かな?
「残念、そっちじゃないんだよなぁ」
え……
今度は右から……
どういうことだ?
いきなり過ぎるよ、お前は何者なんだ……
「何者って、もう私の事を忘れたの? 悲しいな……」
忘れた? 誰を?
いきなり出てきてそれはないだろう。
「君はここが何処だかわかるかい?」
え?
そんなことわかるわけ……
「そうか…… なら、強引にでもわからせてあげる……」
? どういう事だ?
「こういう事!」
なっ!?
誰かがいきなり僕の頭を掴んで、放り投げやがった。
それより、どういう事だ?
だんだん周りが明るくなってきた。
すると、僕が今何処にいるのかわかってくる。
……え? 何……でだ? これは現実なのか?
何故……何故僕が……そこに……居る?
しかも……この部屋は……、僕は……何故あそこに寝ている?
ここは、病院……なのか?
何で管だらけになっている?
何で医者があんなに周りに居る?
何で家族が…………みんな泣いているんだよ……
。
でも、何で……どうしてこんな事に……。
「まだ思い出せない? 君はどうしてあそこにいる? そして…………どうして、君は今……」
「嘘だ!! これは! これは……」
「…………」
信じたくない、最後まで聞きたく無い。
「わかったよ…… 答え合わせをしようか…… 君の考えてることの……」
……わかった。
その前に、姿を現してくれ……。
「……」
うわ! いきなり目の前に出てきた!?
って、あ!
「思い出した?」
思い出した! 僕と同じクラスの自他共に認める天才ちゃん!
周りが恨むほど頭が良く、スポーツも出来るし、欠点が見つからないし、男子からは女神、女子からはその才能を分けて欲しいと言われる人!
「……怒るよ?」
あ……ごめんなさい。
言い過ぎました。
顔が笑ってるのに声と目が笑って無い。
「わかれば良いんだよ。 わかれば」
わ、わかりました。
って、それより大事な事を……
「おっと、ごめんごめん。 つい、久しぶりに話しが出来るから……」
久しぶり?
どういう事だ?
僕はあの時からの記憶が無いんだが……
「あ、ごめん。 確認しとかないとだね。 今君は何年生?」
え? 何でそこを?
……えっと、今中学三年生になってすぐだけど、それが?
「あっちゃー。 やっぱり」
は?
「今、私は高校一年生なんだよ」
は? え?
何を行っているの?
真顔で返されるとこちらが困るんですけど
「こちらの世界では時間の流れが遅いの。 だから、ね……」
あー、はい。 そうですかって言えるか!
「ただ……」
ん?
「もうあまり時間が残されて無いみたい。 急ごうか」
時間が無い? どういう事だ?
「それは追って説明するから。 まずは今の君の状態から……」
彼女の説明によるとこうだ。
まず、僕の状態は相当悪いらしい。
原因は脳に相当なダメージがあり、一年以上持っているのが奇跡らしい。
簡単に言うと植物状態と言ったところか。
しかも、ここ数日で急変して一気に悪い方に転がってきたらしい。
それと、今僕が……あ、今僕が寝ている世界が現実世界だとすると、ここは死と現実の間。
ここでは時間の流れがおかしいらしい。
そもそもここにいる人も少ないらしい。
普通だったらここを通り過ぎてしまうらしいが、今の僕は植物状態のためここで留まっているらしい。
「で、君がこうなってしまった原因だけど……思い出せる?」
原因か……確かあの時……あいつに……。
あれ? あいつって誰だ? なぜ思い出せないんだ?
それはいいや、確かあいつに突き飛ばされて……。
あ、あの時か!
「ようやくわかったみたいだね」
ようやくって、何でそんなことを知っているんだ?
そもそも、何で彼女が僕と会話が出来るんだ?
それに、僕はさっきから声に出してないのに何で会話が成立する?
「あ、気づいた?」
まぁ、な。
じゃなくて。
何で?
「仕方ないか、君は超能力って信じる?」
え? 超能力?
まぁ、あってもおかしくはないな。
けれど見たことが無いからどうも言えないけど……。
「うん、なら話しやすい。 私にも、いや世界中の誰にでも能力を持っているとしたらどう思う?」
はぁ!? どういうことだ?
「つまりね、世界中の誰でも能力を持っている。 けれど、殆どの人は気付かずに一生を終わる。 で、クイズ番組とかで難しい問題を一瞬で解く人っているじゃん、そういう人は能力を開花させやすいってわけ。 ……わかる?」
えーっと、つまり、みんな超能力があるってことで良いのかな?
「あ、うん。 多分あってる」
あ、そう。
で、彼女はどんな能力を持っている?
それをどうやって使っている?
「えっとね、一つ目はね。 この空間の間に自由に行き来き出来る。 けど、私が寝ている時に限っての話しだけどね。」
あー、なるほど。
それを使えばここに寝ている時だけどいることが出来ると。
便利だな。
「そうでしょ。 で、二つ目は人の精神に入り込める。 実際試して見ると、コンピューターにも入れるんだよね。 これは便利だと思うんだ」
え!? なにそれ!? つまり、いままでの僕の思ったことは全部筒抜けだったってこと!?
「そういうことだね」
あれ? でもいままでの勉強とかは? あれも能力なの?
「いや、あれはまた別のこと」
あ、はい。
それならいいや。
「じゃあ、本題にいくよ。 君はどうしてここにいる? 思い出せる?」
え、確か公園でご飯を食べていて……あいつらに、あの不良グループに絡まれたんだっけ。
どうもあそこはあいつらの領地らしいって言ってたな。
で、ちょっと言い返したら周りにどんどん不良が増えていって……。
そうしたらもう一方的だったな……。
やり返そうとして、動いたら……。
そうか、あのとき車道に突き飛ばされて結構なスピードが出ている車に…………。
「……うわぁ、改めて聞くと怖いなぁ」
怖いって他人事のように言うなよ……。
でも、なんで生きていたんだろう。
よく考えたらあれって即死するよな、普通。
「ん~。 多分、生きていたいって気持ちが強かったんじゃないかな?」
そっか、そうなるのか……。
あ、ところで、時間が無いって言っていたのはどういうことだ?
「あ、うん。 その事についてだけど。 簡単に言うね、君、あと一時間位で死ぬよ」
あ~、なるほど。 だからもう時間が無いのか……。
って、ええ!!?
もう死ぬの?
マジで?
「うん、本当だよ。 見てみてよ、君の心電図」
彼女が指差しをした先には……確かに僕の心電図らしきものがあった。
嘘じゃ無いんだ……。
そうか、だから家族みんな泣いていたのか……。
あんなに医者がいたんだ……。
信じられないよね……。
もう無駄なのかな……。
だって……だって、あの心電図、僕のような素人でもわかるよ……もう止まりそうだよ……。
そうか、だから僕がここにいるのか……。
もう死ぬのか……。
もうみんなに会えないのか……
「……でもね、きっと会えるよ。 何処かで生まれ変わってまた会える。 記憶は無くなっちゃうけれどきっと、きっと」
生まれ変わる……か、そうか、そうだよな。
でも、記憶が無くなるのは……。
「大丈夫、君の能力の一つに記憶に関する能力があるの。 それを使えるようになればきっと思い出す」
そんなことが……。
でも、そう考えればまだ怖くないな。
次も彼女に会える。
それだけで良い。
その瞬間、心電図のピーっと言う高く、切れることの無い音が部屋を響かせる。
「もう時間なのね……」
彼女がそう呟いた瞬間、足元が崩れる。
そうか、これでこの人生は終わりなのか。
でも、怖くは無い。
また彼女に会えるのだから。
そう思い、崩れていく地面に逆らわないように落ちていく。
彼女の姿が遠のく。
この人生に見える最後の光景か……。
もう家族にも会えない。
次の人生で待っていてくれ。
…………さようなら。
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私は彼の最後をこの空間で看取る。
もうここからの声も届かないだろうなぁ、そう思いながら静かにしゃべる。
「そうそう最後の答え合わせ。 君が突き飛ばされたとき、一つだけ忘れていることがあるんだよ。 君は一人だけで突き飛ばされたと思っているよね、それは違うよ。 だって…………あの時私も居たもん」
そうだよ、あの時死んだのは私、彼は……私を庇おうとしてくれた。
二人で突き飛ばされたのに、車がこちらに向かってきたのに、彼は私を助けようとしてくれた。
でも、遅かった。
助けようとして動いた時にはもう……。
だけどね、嬉しかった。
こんな形になってしまったけれど。
この声も君には聞こえないけれど。
最後に言わせて……。
ありがとう、大好きだよ。
今でも……そして、これからも。