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008 要塞化するディノパーク

 トンファーというのは意外に使いづらい。鎌のように使ったり回転させたりするのはまだうまくいかない。だが拳や肘を当てるつもりで腕を振ればなんとか当たりそうだ。

 

 

 その実践を、先ほどの修行場からほんの目と鼻の先にある<醜豚鬼>の要塞で積むことになるとは。

 いきなり実践と言うのもまさかだが、本当に目と鼻の先というほどの近さであるのもまさかだった。

 降灰で雪に閉ざされたようだったからとはいえ、その気配を感じさせなかったのは、この要塞の<醜豚鬼>が意外と統制が取れていることを示しているとも言える。



 無視することもできる。だが悪の種族を放置しておけば、必ず大地人が憂き目に遭うのである。それはユイには見過ごせない。


 トンファーを握る手にも力がこもる。


「ロイ。一匹回りこんだぞ」

 ヨサクの声がこだまするが、周囲は降灰に加えガスが出ているらしく視界が悪い。


 要塞の中には等身大の恐竜の置物が配置されている。滑り台になっているらしいが、ユイにはなぜこうしたものが置かれているかわからない。<フォーランド>で実物を見たが、その名の通り恐ろしい生き物だった。

 

 恐竜の足元に背中を付け進む。

 気配がして地面に転がった。今立っていたところ槍が突き出されている。

 ユイは伸び上がるようにして、トンファーを<醜豚鬼>の顎に叩きつける。


 <エアリアルレイブ>!


 ユイは空中で無防備になった<醜豚鬼>より高く飛び上がり、<アサシネイト>級の踵落としを食らわせる。攻撃した瞬間、踵から青白い雷が迸った。泡となって<醜豚鬼>が消える。



「ほー、驚いたー。踵落としでも<ライトニングストレート>なんだ」

 後ろからあすたちんが現れた。その後ろに槍の穂先が見える。


「しゃがめええええええ!」

 一瞬の交錯で勝負は付いた。


 あすたちんは、灰の積もる地面で、ふうっと息を吐いた。

「けふ。コホッコホ。わたし、生きてる?」

「ホラ、あすたちん姉ちゃん、立って」


 もう少ししゃがむのが遅かったらユイの<ワイバーンキック>で顔面が潰れていたかもしれないし、しっかり地面に伏せていなければ背中から槍が貫いたかもしれない。ともかく危ないところだった。

 

「<エアリアルレイブ>に<ワイバーンキック>。<ライトニングストレート>がトンファーでなく踵ってのは予想外だったが、ま、順調だな」


 ヨサクが手の灰を払うようにパンパンと打ちながら現れた。


「先生、見てたんですか」

「オメエの修行だろうが。見てなくてどうするんだよ。俺の知る技全部教えたら免許皆伝だからな。早く覚えろよ」


 ヨサクは視界ゼロの白い闇の向こうから現れたが、どうやって見ることができたのだろうとユイは不思議に思った。これは身体能力の差なのか、それともこれがレベルの差というやつなのかとユイは考えた。


「先生。オレもっと強くなりたいです」


 たとえ<武闘家>のすべての技をマスターしたとしても、今のままではヨサクには追いつけない。追い越せなければ到底<古来種>にはなれない。


「あざみ姉ちゃんやフルオリン姉ちゃんみたいに、すごい技が欲しいんだ」

「ハッ。てめえも<口伝>を求める口か」

「くでん……」


 なんだろう、それは。あのすごい技の名前なのか。

 でもそれぞれ別の名があったはずだ。<紅旋斬スカーレットタイフーン>と<天盾地弾(ヘルアンドヘブン)>。

 それらをまとめて<口伝>というのだろうか。

 


「ロイ。てめえにはわからない話かもしれないがな、俺たちがここに来るまで、技には限りがあった。決まりきったことしかできなかったんだ。それをどう選択するかに面白みがあったわけだ。だが、ここに来て事情が変わった。昔出来てたことも簡単ではなくなったことがあるし、発想と修練しだいで今までの不可能が可能にだってなる。口伝ってのはそんなもんだ」


「姉ちゃんたちは、それでめちゃくちゃ強いよ」


 腕組みをしたままヨサクは言う。


「ああ、強い。だが、口伝があるから強いんじゃない。強いから口伝を実戦投入できたってだけの話だ。狐女は執念の鬼だ。できないことはできるようになるまで徹底的にやる。打ち込んだらそれ以外のことは全く目に映らない、耳に入らない、そんな執念が実らせた技だ。盾女は違うタイプの天才だ。才能がほとばしっているから周りが迷惑する。新しい靴を手に入れた瞬間、実戦投入できるほどの口伝が発動するなんて、馬鹿げているほどありえないことだ。だが、あの盾女はそれをやる。千里の道の一歩目でショートカットを発見するような奴なんだ。参考になるようで、全く参考にならない」


 届かないと言われつつも、あざみもフルオリンも憧れであり、いつか超えるべき目標なのだという念がユイの胸に去来する。ヨサクの次にすごいと思っている。

「先生は何か<口伝>があるのではないですか」

「あるな。だが俺のは参考にはならない」


 ユイは少し考える。


「あ、わかった。なにか工夫することで跳躍力を高めているんじゃないですか?」

「いいや」


「じゃあ、攻撃力を高める技……?」

「いいや」

「即死効果?」

「まったく違う」


「じゃあ、一体」

「だから、参考にならないと言っているだろう。聞いたところで役に立たない」


 ユイの目の輝きはそう簡単に諦めないことをありありと物語っていた。「ゲーム時代にできなかったことができるようになる、それが<口伝>」なんて言ったところで、ゲームをしたことのない大地人に伝わるはずもない。

 ヨサクは長いため息をついて自分の<口伝>について話す。

  

「<掘削奇術(ジェムプロダクション)>」 



「そ、それは、どんな技なんですか」

 ヨサクはまた長い溜息をつく。

「露天掘りをイメージしながら地面に<オリオンディレイブロウ>を放つ。宝石や鉱石の脈に当たればお目当てのモノが飛び出すって技だ。どうだ、全く意味ねえだろ」


 さすがにユイも考え込んでしまった。

 やれやれ、ようやく分かったかとヨサクは苦笑いを浮かべたが、ユイの思案は別のところをさまよっていたらしい。


「露天掘り?」

「そこかよ」

 ヨサクだけでなく、ホコリを払い落として話を聞いていたあすたちんも意表をつかれてずっこける。



「次は<オリオンディレイブロウ>を教えてください、先生」


 ユイの瞳は冬の星空のように澄んでいる。力を求めながらも闇に堕ちない純粋な瞳。ヨサクもこれには弱い。

「<口伝>を知りたかったんじゃないのかよ」

「今は知らない技、全部教えてくれ!」

「敬語を使え」

「です!」

「文章でしゃべれ」

「知らない技を教えてくれです!」


「カカカ、アスタ! ヒールかけとけ! でなきゃ死ぬぞ! 構えろロイ!」

あすたちんは<反応起動回復>をかけながら、「男ってバカよねー」と呟くのだった。

 

ないのかよ! 〈典災〉との遭遇ないのかよ!



というツッコミは明日まで待ってね!

次回「アマミの夕暮れ」は深夜0時更新!!

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