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006 翼竜舞う洋上アルプス

 <洋上アルプス>にたどり着いた【工房ハナノナ】は港から少し西に行ったところの市場で食べ物を手に入れていた。

 市場といっても廃墟の前で、大地人たちが露天を出している程度である。それでも置いてある品々は一行の目を喜ばせた。



「綺麗な魚ー。ディル見て、綺麗なさかなー!」

「でも、どうせ生焼け魚にしかできないんでしょう?」


「うるさいうるさいー! ディル、生魚決定!」

「え、むしろその方がうれしいです」


 ぽかぽかとディルウィードを叩くイタドリ。その様子を冷ややかな目で眺めるのはサクラリアとたんぽぽあざみである。



「いい感じでリア充しててうらやましいですよね。あざみさん」

「なんだかクリぼっちなんて卑猥な言葉にしか聞こえないくらい妬ましいね。りあちゃん」

「それはどうかわからないですけど、最近ドリィさん輝いてますよね。あざみさん」

「女は愛されてなんぼな生き物っすよ。ああ、ドリィのやつ、暖かいクリスマスを過ごすんだって思うとなんだか泣けてくるね。りあちゃん」 

「さっきのスコールで私たちズブ濡れですしね。急に凍えてしまいそうですね。暖かさが欲しいですよ。あざみさん」

「もうどうやって二人にヒビを入れてやろうかとしか考えられませんな。りあちゃん」



 イタドリたちのわずか3メートルほど後ろで妬み光線を放つ二人を、シモクレンが槌で小突く。

「はーい、負のオーラを放つのはそこまでにしときー」


「わ、出た。大災害後、急速にリア充化してきた女、矢車喜久恵!」

 あざみは切れ長の目を半眼にしてじとりと睨む。



「何言うてんの。っていうか、実名出すのよしてくれへん? なんか恥ずかしいわ」

「ケケケ。え、何。洋風な顔立ちしたおっぱい姉ちゃんってそんな名前だったのか」


 バジルが卑猥な笑みを浮かべる。いや、狼面であるから表情に変わりはないのだが、ハギの目にはそう映った。

「バジルはん。もっかいその名で呼んだら、神殿送り級に殴るかもしれへんけど堪忍な」

「さ、さーせん! シモレン姐さん!」

「ちょい待ち、それもなし! ウチのが年下やって」



 実のところ【工房ハナノナ】のメンバーは、慰安旅行にあてもなく南の島々を訪れたわけではない。<ユーエッセイの歌姫>の託宣に導かれてここまでやってきたのだ。



(鳥は南へ。島々を渡る風よ。嘆きの石の声を運べ。星のゆく間に)



 この詩の理解には、桜童子も苦しんだ。クエストの発生を告げる歌ではなさそうである。


 <ユーエッセイ>にあるゾーン<エインシェントクインの古神宮>の前には、老婆の大地人がいる。<ナインテイル自治領>のプレイヤーにとっては知る人ぞ知るゲーム中のNPCであるが、この世界でも彼女は健在である。

 お葉婆と呼ばれる彼女は、クエストを受ける資格を有したプレイヤーにだけ名前で呼びかけることから「判定バア」とも呼ばれた。今回彼女は「神域だから近寄るな」とたしなめただけであった。



 それでも【工房ハナノナ】にとっては聞き逃せない言葉が含まれていた。


 <嘆きの石>。これが<ルークィンジェ・ドロップス>ではないかという判断を下し、【工房ハナノナ】は<フィジャイグ地方>へ向けて航海を始めたのだ。


 桜童子が<フィジャイグ地方>を選んだのは、南・鳥・島のキーワードによってである。

 南と鳥と島で、南鳥島を思い浮かべるのはこの<セルデシア>の感覚では適切ではないだろう。その名では呼ばれてはいないのである。

 ひょっとして、<ミナミ>のことかもしれないが、そうなれば【工房ハナノナ】には打つ手がない。<ミナミ>は<Plant hwyaden>の本拠地。到底近寄れるものではない。


 この冬の季節、南を目指す鳥は渡り鳥である。島々を渡って<フィジャイグ地方>の熱帯雨林で休むのである。ただし、それがどこであるとは言えない。明言されていないのだ。


 目的地も期間も不明であるから、寄る土地寄る土地での情報収集は欠かせない。オイドゥオン家の港でもイクスを中心に情報収集に当たった。大地人交渉に上方修正のあるイクスがこの<洋上アルプス>でも積極的に聞きまわっていた。


「よく虎に乗ったままで、交渉がうまくいくなあ」

 バジルがイクスの様子を見ながら呟く。

「虎に怖がっているか、サーカスを見ている気分なのかのどっちかじゃないですかねえ」

「ヤクモもするー」


 そう言うと、禿姿のヤクモはハギの足元を離れ、イクスの近くで飛んだり跳ねたりした。すると、大地人の奥さんはそれを見て興が湧いたのか、<島マンゴ>をヤクモに手渡した。


「ヤクモー、ありがとうを言いなさい。ホラ、ありがとうって」

 遠くからハギが声をかける。

「あがとー」

 ヤクモは<島マンゴ>を両手で持って、ぴょこんと頭を下げた。こういう仕草を見ると、ヤクモが式神であることをすっかり忘れてしまう。

「よかったにゃー、ヤクモー。奥さんありがとにゃー」

 イクスもヤクモの頭を撫でながら笑った。そうすると額の角がよく見えて、ああ式神なのだなと改めて思わされる。


「そうだ、旅の方たち。なんだか危険な風水師(フンシミー)が出るらしいよ。気をつけた方がいいね」

 奥さんは薮蚊に困っているといった程度の難儀さを顔に浮かべて言った。

風水師(フンシミー)?」

 イクスは首をひねる。

「んー、何て言ったっけねえ。ああそうだ、〈決定の典災……シンブク〉」


 奥さんの彼方には高い山がそびえ、その周りには大きな翼竜の群れが盛んに飛び回っているのが見えるが、それより恐ろしいのだろうか。

目を凝らすと、ステータス画面が現れ〈神代樹の森〉とゾーン名が表示される。こちらもかなり危険な匂いがする。


「ホラ、翼竜たちが低く飛び始めたよ。こりゃあ一雨来るね。さあ、店じまいだよ」

 一行は港へ駆け足で戻り、<洋上アルプス>をあとにした。

現実世界でいえば屋久島までやってきましたー!


月に35日雨が降ると言われる屋久島ですが、意外とそんなこともありません。でも沿岸部で降ってなくても山の中で降ってたりするのでしょう。



一行は海の上でどしゃ降りに遭っています。

甲板は雨対策してないから、もう、濡れまくりですとも。でも、冒険者強いしね! 陽射し強いしね!

生乾きとかないし、風邪もひかないです。


※みずっちさんの指摘により、一行は島の名前を〈洋上アルプス〉と呼び、山岳ゾーンを〈神代樹の森〉と確認するシーンを追加してみました。



さあ、次回は、ヨサクユイあすた組もハナノナ組も戦闘の気配が! 深夜0時をお楽しみに!

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