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005 火山灰舞うサクヤ媛岳

「坊主、てめえ大地人なんだ。命の加減は自分でしろよ!」

「ぜ…! ぜ…! ぜ…! くぁぁぁおおおおああああ」


 荒い呼吸を整える間もなく、ユイは突進する。

 ヨサクの回し蹴りを体を沈めて躱す。

 丸太のような足がユイの髪をかすめて後方に吹き抜けた。と思った瞬間下方から胴を薙ごうとする足が現れる。ユイは腕をクロスして受け止める。ダメージこそなかったが,それでも、突進を始めた位置より大きく後退するほど吹き飛ばされた。



 回し蹴りの後、高さを変えた後ろ回し蹴りをヨサクは放ったのだ。持ち前の運動神経と<冒険者>としての身体能力が加わると、重力さえ自在に操っているかのように見える技が出せる。ただし、ダメージを狙った蹴りではないから、ユイも大怪我をせずに済んでいる。


「バカ野郎が! てめえの装甲は紙だと思えと言っただろうが」

「ぜ…! ぜ…! ハイ!」

「考えろ。どうやったら後ろの鈴が捕れるか。一撃も喰らわずにだ」


「うぉおおおおおおおおおお!」

 ユイは休まず突進した。左回し蹴りを警戒したようにまた体を沈めた。回し蹴りは軌道を変えユイめがけて振り下ろされる。ユイはその蹴りの方向に転がって再び突進する。

 ヨサクの軸足側を抜けたとユイは感じていたが、その瞬間強い力で腰から空中に引き上げられまた吹き飛ばされる。今度はうまく着地できず何度か後方に転がった。


 ヨサクは蹴りを放った勢いを利用して体を回転させ、ユイのベルトを掴んで放り投げたのだ。その回転を利用して体を起こしたので、ヨサクはほぼ最初の位置から動いていない。それどころかポケットに入れた右手はそのままだ。

「それでいい。もっと考えろ」

「ぜ…! ぜ…! ハイ!」


 ユイは休まず突進した。また同じ右方向に体を沈めた。左回し蹴りがないので駆け抜けるかと思えば、そこから伸び上がりユイは拳を繰り出した。ヨサクは読んでいたように、拳を左手ではたいて躱すと、その回転の勢いのままユイの足を刈り払う。

 ユイの体が一瞬宙に浮いて地面に叩きつけられる。ユイの目の前にヨサクの拳があった。

寸止めしてもらっているが、これが戦闘状態ならあっさりと死亡だ。神殿送りなどではない。死亡だ。


 だが、ヨサクはそれでいいと言った。

「少し休憩を入れる。まだ考えろ」


 ユイは大きな木の根に腰掛けて、竹製の水筒から水を飲む。

 真昼だが少し睡眠をとる。回復にはこの方法が早い。


 <大災害>後、ユイはヨサク以外の<武闘家>に会ったことがある。

 技を教えてもらおうと思ったが、<パンナイル>の<武闘家>たちは、決まって紋切り型にこう言うのだった。

「考えるな。感じろ」

 冒険者の<武闘家>は、己の技を門外不出にしているのかと思ったほどだ。


 そう考えるとヨサクは真逆だ。考えろ、ひたすら考え、考えた先に答えがあると言っているような気がする。決して教え方がうまいわけではないが、目標や目的が明らかになっている分、課題が明確になる。

 

 起き上がったユイは手甲を外す。左右の手甲が触れ合うと重い響きがする。手甲だけじゃダメだ。肩当ても胸当ても外す。そしてほとんどすべての装備を外す。


「考えたじゃねえか」

 ヨサクが森の中から現れた。ヨサクの後ろには、被衣をかぶった若い女が控えていた。

 被衣を少しだけ上げた隙から、目鼻立ちの整った顔が見える。どこかで見たような気もするが、降灰と影のせいでよく見えない。バジルならわあわあ言いそうなほど美しい女性であるのは確かだ。


 女の手が光り、ユイがその光に包まれる。<反応起動回復>のエフェクトだ。

「お前もだいぶ慣れてきたようだからな。こっちに来てもらった」

 ヨサクも光を受ける。



 先ほどのように、ヨサクの背後にある杭の上の鈴を取れば終わりという修行だが、今度はヨサクの方からも攻撃をしてきた。


 倒して奪おうとしても、ヨサクは数段上の実力者である。ひょっとすると<古来種>と肩を並べるのではないか、と思えるほど恐ろしく強い。

 また戦っている隙に奪おうとしても、一気に間を詰められるか、攻撃されて吹っ飛んでいってしまうか、どちらかである。


「いいか、一発も喰らうな! 足を止めてカウンター一発狙いのスタイルもあるにはあるが、それじゃ今までと変わらんし、どちらかといえば劣化だ」

 何度戦っても出し抜くことができない。


「足を止めるな。舞え! その先にお前の進むべき道がある」


 本当だろうか。苦し紛れのバックブローを放つ。ユイの拳は軽く、ヨサクの拳で触れられただけで軌道を変えられてしまう。膝の裏を蹴り抜かれて、靭帯が伸びる。


「覚えろ。足を止めたら狙うぞ、小僧」

 ユイは地面に這いつくばって痛みをこらえながら、回復を待った。しかし、数秒そうしただけで立ち上がった。


「オレの名はヴィバーナム=ユイ=ロイ! オレは…小僧じゃない! 未来の<古来種>だ!」


 気概がエフェクトとなって現れる。

 体の中心線を守るように構えを取る。負傷した膝に周囲からオーラが集まる。


「こいつ。呼吸法を身につけたか」


 <武闘家>の特技、<ブレスコントロール>のエフェクトだ。

 強いボスに対峙した時のように、ヨサクの顔に笑みが浮かんだ。


「ヨサク先生。オレはまだ、強くなるよ」


 謎の女施療神官は身をくねらせる。

「あらやだ、かっこいい」

「なんだ。お姉さん、やっぱりあすたちんさんだったんだ」

 女は被衣を上げた。つい数週前に<サクルタトル>攻略部隊にいた冒険者の一人だ。


 ユイにはよくわからないが、中身は男の人らしい。魂は男性ということなのだろうか。

「覚えててくれたんだ。ありがと、戦友だもんね。回復いる?」

「いいえ、まだやれます! 先生お願いします」


 先生ときたか。ヨサクは心の内で笑った。

「いや、今日はここまでだ。食料の調達に行くぞ」

「いえ、まだやらせてください!」


 ヨサクは首を横に振った。

「何をするときでもその呼吸を続けろ。これも修行だ、ロイ(・・)

ハイ、登場したのは〈セクシーダイナマイト〉あすたちんさんでした。



もう既に、声の女性化もすすみ男性を感じさせるものはほとんど残ってないんですが、比較的女子率の高い【工房ハナノナ】のメンバーからすれば、あすたちんさんの仕草はがさつじゃない分違和感を覚えるようです。


でも、そんなのピュアなユイくんには分からないので、きちんと女の子扱いします。

ハッ! これはまさかユイとあすたの恋愛フラグ!?


ハイ、それはないです。

さて、次回は屋久島へ到着! 〈翼竜舞う洋上アルプス〉も深夜0時更新!!

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