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019 流星煌くウフソーリング・クリスマス

 桜童子が目を覚ましたのは、とっぷりと日が暮れた頃だった。


 アキジャミヨの館では、連日の宴が繰り広げられていた。桜童子の横では、ふてくされたようにあざみも寝転んでいる。


「どうしたー、たんぽぽ」

「おなかいたいの。そんな時期なの」

「ウソつけ」

 


 あざみは大事なところで戦闘から半ば離脱してしまったことと、結局ヨサクがこちらに現れなかったことが腹立たしくてすねているのだ。腹の傷ならとっくに治ってしまっている。

「おめえの目論見どおり、ドロップした金貨は全部ジュリのもんになったじゃねえか」


「アタシの手で渡してあげたかったよ」

「くかか。いいじゃねえの。おめえが突破口開かなきゃ、勝ててないよ」


 あざみは背中を向けて寝返った。 

 しばらく黙ってそうしていたが、あざみは背中向きのままにじりより桜童子の手元に頭がくるように動く。そして桜童子の手をぱっと握って頭の上におく。


 なでなでしてくれという動作らしい。

桜童子も天井を向いたまま頭をなでてやった。

 

「あざみー。ご飯用意できとるよー」


 <ウフソーリング>の屋敷は風通しがよくできている。さすがに冬の夜であるから大概のところは閉めていたが、シモクレンが差し掛かった障子は折り悪く開いていた。


 3人はびくっとしたまま、そのまま数秒停止していた。かなりの時が流れた気分がしたが、桜童子が起き上がろうとしたのを敏感に察してシモクレンが先に声を発した。


「あ、にゃあちゃんの分も、今用意するから」


 ぱたぱたと駆けていく音を聞きながら、桜童子の背中には<典災>と戦ったときよりも冷ややかな汗が伝っていた。


 宴会場となった広間にシモクレンの姿はなかった。

「あ、にゃあ様が目を覚ました! にゃあ様、レンたんがご飯用意してくれてますよ!」

「あ、ああ。心配かけた。後で食べる」


 そう言って桜童子は出て行った。サクラリアが首を傾げてその背中を見ていると、静かに隣に座ったのは、あざみだった。

「あ、それ、にゃあ様の分」


 黙って食べ始めたが、途中でもぐもぐと動かすあごをぴたりと止めるあざみ。

「これ炊いたの、ドリィ?」

「うまいっしょうまいっしょー。腕あがったっしょ、あざみっち。ほめてほめてー」


 若干ぼそぼそとした歯ごたえを感じるが、ハティヌキューミー産米の甘みに助けられていて、イタドリの料理にしてはたしかに美味いと感じる。


「アタシもほめて欲しかっただけなんだよ。にゃあちゃんは兄ちゃんでキクエは姉ちゃんなんだよ。ううう、ちょっと軽率だったかなあ」


 反省しているあざみであったが、咀嚼中なのでなんと言っているか誰も聞き取れなかった。飲み込んだら涙がこぼれた。


「うびー、涙出るほどおいしかった? おいしかった?」

「超しょっぺえ」

 涙の味ばかりする。




「レン」

 おいついた桜童子はシモクレンの背中に声をかける。シモクレンは空を見ていた。

「心配せんでええよ。ほら、こっち。ココ空いてるよ」

 ふくよかなシモクレンの指が大きな切り株の空きスペースをぽんぽんと叩く。でも桜童子の方をちらりとも見なかった。


 桜童子はこういう場合抱え上げてもらうことが多いのだが、今回は自力でよじ登った。

 そして一緒に空を見上げる。



「ウチなあ」

 シモクレンは静かにしゃべり始めた。

「こんな世界に来てまで、焼きもちやくなんて思うてへんかったわあ」

「ボイスチャットになってから、どこのギルドでも大概それが元でひと悶着あったじゃねえか。ウチらはそういうのとは無縁だったけど」


「さすがは鈍感マスター。リアとか焼きもちやきの鬼やったんやて。なかなかにゃあちゃんと組ませてもらえへんかったんよ。一言いうたろ思とっても、オフで会うとこれがめっちゃくちゃかわいいアイドル級で、性格もええやん。すーぱーぽちゃ子なウチは黙るしかなかったんやもん。にゃあちゃん、知らへんかったやろ」

「そ、そうなのか」

 ポリポリと頭をかこうとするが腕は短く、頬の辺りに添えられただけになってしまう。


「ふふ。だから、にゃあちゃんがどこに行こうと誰といようとウチは平気」

「さびしいこと言ってんじゃねーよ」

「あざみの頭なでてようと腕枕してようとウチは平気」

 そこでちらりと桜童子の方を見る。目が笑ってない。

「う、腕枕できるほど腕長くねーよ」

「しようと思ってたんだ」

「お、思ってない! 思ってないからな」

「ふふふ。大丈夫。にゃあちゃんは自由でいて。それが言いたかっただけ。あ」


 困ったような表情をして何か言い返そうとした桜童子だが、シモクレンの視線の先に何かを見つけて口をつぐんだ。

 流星だった。涙の雫がこぼれるような速度で光が落ちていく。


「見た! にゃあちゃん、流れ星! 今日2個目よー! ラッキーやわあ」

 シモクレンは弾んだ声をあげたが、桜童子は無言で空を見つめていた。そこにツルバラが近づいてきて二人に声をかけた。


「あ、リーダーさーん。副リーダーさーん」

「ああ、ツルバラはん。ご馳走食べましたー? それから、今見たー? 流れ星!」

「ごちそうさまでしたー! そんで、オレすげーっすよ! 夕べ3つ同時に流れるの見たっすよ。何分かで結構見たっすよ」

「えー! 昨日もそんなの流れたの? うわー、ウチも見たかったなー」



「こぐま座流星群だ」

 空を見つめたまま桜童子がぽつりと呟いた。


「え? にゃあちゃん。なんて?」

「こぐま座流星群だよ! そうか、まさかセルデシアにそんな仕組みがあるとはな。大潮もあるんだからあって当然といえば当然か。レン、みんなに出発準備をさせるんだ。ツルバラくん、2ヶ所にこれからみんなを運んでもらうよ」


「え!? なんすか! サラマンダー今さっき寝せたのに。起こすんですか」

「何? にゃあちゃんどうしたの?」

「(鳥は南へ。島々を渡る風よ。嘆きの石の声を運べ。星のゆく間に)だよ!」


 ユーエッセイの歌姫が歌に乗せた詩だ。シモクレンはハッとする。

「あ、星ってまさか、今の流れ星!?」


「ああ、そうだろう。(鳥・南・島)で<フィジャイグ地方>を、そして(星のゆく間に)でその期間を示していたんだ」


「(星のゆく間に)が期間てどういうことなの?」


「こぐま座流星群の極大期はおよそクリスマス周辺なんだ。長くても26日までだ。もうすぐ24日になるんだ。今日失敗したら、明日しかないってことになる。つまり、あの歌詞は<こぐま座流星群が極大期を迎える頃、フィジャイグ地方に渡り、太陽石のような石を反応させろ>ってことだと思うんだ」

 

「じゃあ(嘆きの石)って」


「<ルークィンジェ・ドロップス>だと思っていたが、逆だな。あざみたちが言っていた<ウフソーの太陽石>のように<ルークィンジェ・ドロップス>に反応する石のことかも知れねえ」


 シモクレンは反芻するように考えてから、反論を思いつく。

「でも<太陽石>が反応したときデジタル表示が出ただけなんやろ?」

「レン、地図ひとつ持ってたな。貸してくれ」


 桜童子は<光の精霊(リュミエール)>の召喚呪文を唱え、灯りを出現させる。その間にシモクレンは胸の谷間に隠しておいた地図を取り出す。

「べ、便利っすね」

 ツルバラは動揺を隠せない顔で言った。


「シモクレン78の隠し技のひとつ、<四次元乳ポケット>だ」

「そないぎょうさんあるわけないやん」

 軽口を叩いておいて、桜童子は地図の○印を指差す。<ケーラ諸島>最西端の島だ。


「アキジャミヨさんに聞いたら、そこは<クボービロウ島>と呼んでいるらしいっすよ」

「おそらく一番高いところを目指せば、御嶽があるはずだ」

「うたき? 何すかそれ」

「祭祀施設だ。仮説が正しいとすれば、そこに<ルークィンジェ・ドロップス>に反応する石があるに違いない」


 桜童子は手の先をスライドさせて、他の地図には△印がある<アグーニ>を指し示す。

「ここには行ったことがあるが、それらしいところがたくさんある。だが、<太陽石>と結んだ線を考えれば、87mの絶壁の上にある<マハナ>が怪しい。多分ココは最後に反応させればいい場所だ。<大ソテツ林>を突っ切って目指すか、絶壁をよじ登るかは任せることにしよう。ツルバラくん、ココが一番時間がかかりそうだから最初に向かってくれ」

「あのー、順番ってなんすか?」


「全ては仮説だが、蓋然性が高いとおいらは考えている。これはきっと時限式のスノウフェルでありながら、3つのカギが必要なトリガー式のイベントだ。三体の大怪魚を倒すことで手に入る地図を頼りにイベントを起こすなんて<フィジャイグ>らしいスノウフェルじゃないか。いいかい、<クボービロウ>に○、<太陽石>に×、<アグーニ>に△だ。○×△だ。○は一画で描け、×は二画。△は三つの直線で囲まれているから三画といえるだろう。いいね。○が1、×が2、△が3だ。<クボービロウ>の石をまず起動させ、次に<太陽石>、そして最後に<アグーニ>の順で反応させていけば良いというわけさ」


 呆気にとられたような表情のツルバラの横で、シモクレンは念話で招集をかける。


「あ、えっと、それで何が起きるんですか?」

 ツルバラはだんだんと慌ただしくなる空気に焦りながら訊いた。

「さあねえ。でも、十分おいらたちは情報を得ていると思っているよ」

「え、わかってるんですか」


「わからないのかい? じゃあ、一緒に楽しもうじゃないか。<ウフソーリング・クリスマス>ってヤツを」 

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