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018 オウの島と3分の1の私

 この状況はジュリ自身も理解していなかっただろう。理解していたのはハギたった一人である。



 戦闘に出かけた午後3時ごろ、ヤクモは<フサキナ>のアキジャミヨの家にいた。赤い衣がもの珍しいのか、おでこの角が珍しいのか、とにかく若者も年寄りもかわるがわるヤクモと戯れている。その光景を視覚共有しながらハギは思う。



「この人たちは、暇なんですかねえ」

「え? なんだって?」

 バジルは<仔鹿のマーチ>にのってリズムをとりながら聞いた。

「いやあ、ヤクモがかまってもらってるらしいんですがね。なかなかいい光景だなあと」

「何! 女子に囲まれてるのか! お前の目を貸せ!」


 その後ヤクモは、ジュリが皿洗いなどを済ませた後アキジャミヨと歓談している様子を目撃している。籐製の椅子にゆったりと座り午睡を味わおうとしているらしかった。なんとものんきな話に思えたが、大地人たちが冒険者に討伐を依頼するのはそういう平穏がほしいからなのだから特別<ウフソーリング>が暢気すぎるというわけではないのだろう。



 異変はその後起こった。しっかり眠り始めたと思われた瞬間、ジュリが目を開けて音もなく立ち上がったのである。無表情のまま早足に家を抜け出し、誰にも気付かれず道を歩いていく。


 ヤクモはジュリを追った。普段は通らない水を祀った池の周囲の道もずんずん突き進んでいる。どこに向かっているのか、ヤクモには判断ができないが、ハギには分かった。


 ハトジュウの視界からは上空からの地形データが送られてくる。目の前の景色と同時に2つの視点の情報が送られては混乱しそうなものだが、ここのところ上手に処理できるようになってきた。遮断ではなく統合である。ハトジュウの俯瞰をもとに空間認識を強めたのである。 

 

 ジュリはこっちに向かってきている。ミニマップを表示しないでもその機能が頭の中にあるのと同じだ。

 ハギは周辺警戒を怠らなかった。気になるのはジュリだけではない。桜童子の異常エンカウントに惹かれそうな位置に巨大魚が2匹いる。そうしていると、自分の視界の端で動くものを感じた。<龍脈>だ。



「背後の浜から龍出現! 巨大!」


 ジュリが来ているのも気にかかるが、まずは目の前の敵だ。仲間全員のステータス画面を展開する。MP管理を担うのは今回はサクラリアの役目だったが。龍に追われ、それどころではないだろう。注目するとそのサクラリアのMPが減った瞬間が見えた。何もMPを使う動作はしていなかったはずだ。


「隊長! 私たちのMP吸われてますよ!」


 桜童子がその声に気付いたようにディルウィードの名を呼び、ユニコーンを召喚しようとしていた。これは次の作戦か、と気付き<魂呼びの祈り>の詠唱を始める。


 シンブクがあざみの刀を受けながら、ハギの背後を見た気がした。

 慌てて感覚を広域モードに切り替えると、ジュリはもう<ハテ>の手前の島まで来ていることが分かった。ジュリの姿が見える位置にハトジュウをとまらせた。ヤクモも島の入り口までやってきた。



 それどころじゃない事態が起きた。あざみが腹を割かれて倒れてしまった。急いで<魂呼びの祈り>の詠唱を完了させる。間一髪だった。あざみを戦闘不能にするわけにはいかない。


「リアさん。私にシフティングタクトを。立て直しましょう。振り出しに戻ったのだから」

 この戦いで、無事に勝利を拾っても、ジュリがどんな動きに出るか分からない。


 砂嵐が起きる。

 危惧していた巨大魚たちは去ったようだ。一艘の船が近づいたからだった。

 その船に乗っているのは、カニハンディーンとクガニだった。クガニは大地人風水師に習い、<フリップゲート>を習得していたらしい。船の前に開いた青白い異空間はもうすでに閉じようとしていた。


 砂嵐が止むと、シンブクはユイの足元に倒れていた。<フリップゲート>を通過したのがユイだと、ハギはそのときはじめて理解した。



 そしてシンブクの遁走がはじまった。ヤクモはジュリが見える位置まで近づいてきている。ハトジュウを少し高く飛ばせた。


 全力で走ったが、浜の中ほどまでしか戻っていない。しかし、シンブクはもうジュリの元まで到達していた。不定形ではあるが人の形をなそうとしているように見える。そしてその口のあたりが動いて声を発した。


「見ツケタゾ。狂気ノ・・・・・・雛鳥。同ジ<航海種(トラベラー)>デアリナガラ、<採取者(ジーニアス)>ヲ狩ル<監察者(フール)>ヨ。死ネ」

 

 ジュリの目が光る。


「私の3分の1はこっちの世界の人間なんだよ。私は私の使命を果たす。ただ言っておくよ。<沼男>に果たせる使命などない!」


 不定形の中にジュリが手を突っ込む。


 水風船のゴムが破れるように、バシャンとシンブクの身体が弾けると、それらは全て大量のドロップ品と金貨に換わった。


「私がこうやってまともにしゃべれるのは、この身体を創り育てた<冒険者>のあたたかいもののおかげだ。それも3分の1の私。アカウント乗っ取りのせいでBOT化して月に収容されたのも3分の1の私。<大地人>に書き換えられたBOTのジュリは今、<ウフソー>の彼のおかげで今、主人格になろうとしている。ならば残り3分の1の私は時が来るまで眠りにつこう。もう眠りを乱す<採取者>はいないのだから」




 そう呟いたのが、途切れ途切れに聞こえた気がする。そうして糸が切れたようにジュリはへたりとしゃがみこんだ。



 全てを理解できたのはハギだ。だがハギが説明までできるのはBOTのくだりくらいだ。



 現実の通貨を稼ごうとするため、MMORPGの世界ではキャラクターにプログラムされた動作をさせるプレイヤーがいる。彼らをプレイヤーと呼ぶべきではないだろう。ただの金稼ぎマシンだ。

 このBOTに対しては日本担当の会社である<F.O.E>も対策に乗り出している。しかし、これはいたちごっこだった。

 彼ら金稼ぎマシンは規制の網の目をかいくぐるように摘発を逃れた。そのために他のプレイヤーのアカウントを乗っ取るものも現れた。

BOT研究のため<F.O.E>が、クローズドβの中で摘発したBOTを動かしているという噂もあった。そのBOTが<大地人>に書き換えられているのを見かけたプレイヤーがいるというまことしやかな話も流れていた。


 ひょっとするとジュリはそんな<大地人>だったのかもしれない。

 だが、どうやってこの大地に現れたのか、そして、<残り3分の1の私>というのが何者なのか、<ジーニアス>とは<フール>とは<トラベラー>とは何か。

 ハギにはまったく説明ができなかった。



 桜童子はぽんとハギの膝の裏あたりを叩いた。

「とりあえずは、勝ったな」



 そういうと、桜童子はころんと転がった。力尽きたようだった。

ハイ(≧w≦)ノうふそー編中盤終了ー!


ここまでお読みいただきありがとうございます!

ちょっと休憩をいただいてから、終盤に移りたいと思いますー




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