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013 三枚の地図とハティヌキューミー

 <La Flora>は西へ向け出航した。

 【工房ハナノナ】の面々に加え、きゃんDも乗っている。桜童子は彼のサブ職業を見た瞬間、「天啓キター!」と叫んでいた。彼なら桜童子の勝つための閃きを生かすことができるかもしれないのだ。


 さもなくば龍眼をここに招くしかないところだった。龍眼のサブ職業<軍師>は「着弾までの距離が測れる射撃特性」がある。


 距離を測れることが重要なのである。

 きゃんDのサブ職業は<砲撃士>である。<ロックオンサイト>を使えば、正確に距離が測れる。 


 

 ただしこれだけでは不十分だ。まだ勝てない。

 月の浜辺で敵の能力の一端に気づいたが、全貌を解明したわけではない。

 出航までの間、桜童子は先ほどの干潟で現場検証を行い、さらに街に出て<風水師>を探すことにする。クガニに聞いて目星は付けてある。


 ただでさえエンカウント率が尋常でなく高いというのに、<典災>に遭遇して死亡した直後である。全員が桜童子を引き止めた。だが、一度死んで桜童子は迷いがなくなった。



「『グソーヤアマダイヌシチャ』さ!」

 後生は雨垂れの下―――(あの世は身近なところにある。だから子孫に誇れる行動をしなさい)という金言だ。


「慎重さがリーダーのいいとこだったのに。バジルさんみたいになっちゃった」

 ディルウイードが嘆く。

「まあ、このバカ狼よりはいいでしょ。この人、湖の名前に惹かれただけだしね」



「ぐぉ、なんで見抜きやがったー! 狐侍ー!」

「ここ来る前から、花の蜜の香りで満ち溢れ、ピンクの鳥で覆われてる幻の湖に行くんだーとか叫んでたしね」

「うるせーよ。男のロマンぶち壊しやがってよー。なんだよ、ちょっと生臭さかったよ。がっかりだよ」



「うわ、超最低」

「いいから、厨二狼はほっといていくで!」


 それから、【工房ハナノナ】の面々は二つほどの中規模戦闘に勝利して<風水師>に出会い、教えを授かった。


 見送りは盛大だった。少し西の島に渡るだけだが、今生の別れになるかもしれないと感じたのだろう。ウミトゥクとマヅル、カニハンディーンとクガニは振る舞える限りの食事を出した。



「ぷへぇ、ひっさしぶりに味のない品を食べたぜ」

 バジルは甲板に寝っころがりながら言うと、ツルバラが笑った。

「酒と果物と南国牡蛎はめっちゃくちゃうまかったっすよ」

「ツルバラっち、ツルバラっち。私の料理どうだったー?」

「え、うう、うまかったっすよ」


 イタドリの質問に動揺したような表情のツルバラ。さすがに生焼け料理ではそんな顔にもなるだろう。

「ドリィの料理、涙流して食べるのなんて味のない料理食べてきた彼らだけよ。聞くだけ野暮だわ」

 あざみの言葉は辛辣だった。イタドリは少し涙ぐむ。その頭をぽんぽんとディルウィードが慰めるように叩くので、あざみは今度は舌打ちをする。




「なんや、なまけギツネはえろぅ気がたっとるようやなぁ」

 甲板に腰を下ろしシモクレンが呆れ顔で言った。

「ヨサクくんに念話したけどつながらなかったんだろうねー。となると、向こうも戦闘中かあ。こっちもゆっくりはできないが」


 桜童子も言う。こちらもMPの温存のため交代制で甲板に座っている。

「<海棲大金魚(シシガシラ)>来るぞ! レアものだ!」

 ハギの声とあざみの駆け出すのはほぼ同時だった。


 派手な色をしたボコボコ頭の怪魚がしぶきを上げて海面から躍り出た。ダンクシュートを決めるバスケットボール選手のように空中を舞ったあざみの何倍もある大きさだ。


 それでもたったの一閃で<海棲大金魚>を真っ二つにする。


 海中から上がったドロップ品の箱には、やはりこの間のように地図が入っていた。

 ただし、今度は<ケーラ諸島>に○印が描かれてある。



「にゃあちゃん、これ、どういうこと?」

 ひと暴れして気分もすっきりしたらしいあざみが地図を広げて見せる。

「うーん。あれ一枚じゃなかったのか」

 二つを並べてみる。<筆写師>が複製したような寸分たがわぬ地図だ。印だけが違う。


「これは、<ケーラ諸島>に行ってみるよりほかないな」

「それって近いの?」

「今この辺りだから、通り過ぎたな」

 そういって桜童子は<シュリ紅宮>と<太陽石>の中間程度を手で指し示す。



「引き返そう!」

 あざみの提案にツルバラが反対する。

「ボクは反対ですからね。GPSとかないんですよ。気楽に進路変更とか言わないでくださいよ。漂流したいんですか。マジかんべんっす」


「島影見えてるじゃんよー。あれでしょ? あっちの点に向かって引き返せばいいじゃん」

「ボクとあざみさんじゃレベルが違うんですよ。見えねーですよ、そんなもん」


 あざみとツルバラの応酬を楽しそうに眺めるのは吟遊詩人きゃんDプリンスだ。楽器をかき鳴らし、「いつもこんな調子なのかい?」と歌声でたずねる。


「まあ、そんなところです」

と、サクラリアも歌って答える。


 いよいよ<ウフソーの太陽石>のある<水の島ハティヌキューミー>が見えた頃、<狗頭蛇龍(シーサーペント)>というお化け鰻からドロップされたのも地図で、これには<アグーニの大ソテツ林>のあたりに△印がついていた。


 三枚並べてみる。寸分違わぬ地図。<太陽石>に×、<ケーラ諸島>に○。<アグーニ>に△。記号だけが違う。いったいこれは何なんだ。


 考えてもわからなかったので、目前にある<太陽石>を見てみるより他あるまい。とりあえずはこの美しい島で考えよう。誰もがそう考え、ジュリの案内に従って、島の南に船を回した。



 ハギは、ハトジュウを限界まで高く飛ばし、その視点を借りて上空から島の様子を眺めている。


 東の方には珊瑚礁と砂浜だけの島があるらしくエメラルドグリーンに輝いて見える。島全体はハギに言わせれば西を向いた<海棲大金魚(シシガシラ)>のような形らしい。


 その言い方で言うと、ジュリのご主人様は森と泉に囲まれた胴体の中ほどにいて、<太陽石>は岸壁の多い背びれのあたりだという。<La flora>は長大な腹びれの付け根辺りに入港することになる。


 ハトジュウの高度を下げていくと、港に<ウフソーリング>の青年たちが集まっているのが見える。なにやら緊急事態らしく慌しく右往左往しているという。警戒しながらも、一向は船を着岸させる。

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