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011 初めての死とシュリ紅宮

「いやあ、さすがにシーサーの背に乗るのは楽しかったなあ」


 騎乗生物は、係員が笛を吹いたら召喚されるシーサーで、二人乗りだった。目的地まで運び終わると背中から振り落として勝手にどこかに消えていってしまうのが笛で召喚された生物らしかったが、直行便としてはかなり便利だ。 



「え! にゃあ様。シーサーに乗ったの!? あー、ユイがいたらそっちにしたなあ・・・・・・はあ」

 サクラリアは自分で言って落ち込んでいる。


「アタシはジュリと一緒に乗ったけど、あんなバカ忘れられて爽快だったわ」

 あざみは負け惜しみでも言うかのように高笑いした。さらに爽快だったと言う割にシモクレンに八つ当たりする。

「っていうかさ、このムダ巨乳はさ、もー、にゃあちゃんと乗れたからデレちゃってさ。見てるこっちが恥ずかしいわ」


「なんやの。ヨサクはんがおらんから言うてウチに当たんせんといて」

「まあまあ、まあまあ。おふたりさんおふたりさんー」

「出たよ、ちびっ子リアルリア充娘ー。ディルにしがみついて、あれ犯罪級だったよ」

「さすがにディルくんに抱きついて後ろ向きに座るのはウチもちょっとどうかと」

「ええええ! とばっちりだよー! 完全なるとばっちりだよー」

 仲裁に入ったイタドリは二人から容赦なく指摘され立つ瀬がなくなる。



「にゃっはっはっはー! まあ、みんな笑顔大爆発だったからにゃ! おあいこにゃ」

 シーサーではなく山丹にまたがって幹線道路を疾駆したイクスはそう言って笑った。




「オレ様たちは、めっちゃくちゃ眠った! なあ、ハギ、ヤクモ」

「かなり安眠できましたねえ」

 ヤクモはハギを見上げて頷いただけだったが、確かに式神なのによく寝ていた。


「やっぱ、にゃあさん。アンタがいないと船旅めっちゃ快適っすよ」

「はっはっは、ツルバラくん。そいつは申し訳ねえなあ」

 一行は左右に大ソテツが林立した石畳を歩いて登る。途中、民族衣装を身にまとった<大地人>や、肘から羽を生やした半裸の亜人<ウフソーリング>、さらに、<大災害>からほとんどこの城郭で楽器を引いているという猫人族の<冒険者>と出会う。


 3つの種族が一緒にいるのが面白いが、曲に合わせて思い思いの振り付けで踊っているのも愉快だった。<大地人>の男性は掲げた両手をぐっぱーぐっぱーとしながらステップを踏み、女性の方はゆらめくようにして同じリズムで舞っている。

<ウフソーリング>の男性は肘の翼を見せつけるように、腕を顎の前に掲げ突き出す。女性の方はこんがりと焼けた胸をアピールするかのように腋を締めて身を震わすのだ。これを餅でもつくように片足を踏み出し、交互に踊って見せる。


「バジルさーん。鼻の下伸びてますよー」

「うるせえディル坊! これは男のロマンだ」

 そういうと、あごの下に手の甲をかざす例の踊りに加わる。そしてすっかりと意気投合してしまった。


「ボクの名はきゃんDプリンス。ご覧のとおり<吟遊詩人>だ。こちらの<大地人>がウミトゥクとマヅル。<ウフソー>がカニハンディーンとクガニ」

「きゃんDー! おまえオレのことを<ウフソー>と呼ぶのはよせとあれだけ」

「カニハンディーン、そういえば今日は何日だっけ」

「あれだけいうなと、えーっと、何日だっけ、クガニわかる?」


 真っ赤になって怒っていたのに、別の話題を振られるとあっという間に忘れるのを目の当たりにして【工房ハナノナ】の面々は驚いた。


「カニちゃん、太陽石に聞いてみるしかないよー」

 正確に日時を知ろうと思ったら太陽石を使えばわかるということか。やはり誰も日時を知る者がないことを改めて理解する。<シュリ紅宮>に日影台は存在しないらしかった。


 もう既に<シュリ紅宮>のゾーンに入っており、これで復活基点が作られたことになるから正殿を見るまでもないのだが、観光のつもりで奥まで登る。


 <サクルタトル>とは違う石灰質の黒味を帯びた石積みの中で、紅が映える美しい建物だった。実際にはその一段下の御獄石門が復活所となるから、皆その前を通る時には寒々とした気分がした。

その時、どこかで雷のような音と地鳴りがした。




 守礼門の辺りに戻ると、先ほどの五人が騒いでいた。

 ここから下った干潟のところでシンブクと名乗る<典災>が現れ、<大地人>や<ウフソーリング>に危害を加えているのだという。

「じゃあさっきの音は!」

「きゃんD氏! 周辺の人々の避難は!」

「わからない! 数人を残して皆散り散りに逃げたはずだ」


 桜童子は苦渋の決断に迫られる。自分が行けばエンカウント異常のせいで余計に被害が出ることも考えられる。このゾーンにいればこれ以上の被害はないのかもしれない。

 だが、今苦しんでいる人はどうする。見捨てるのか!?


 この迷いはシモクレンもあざみも理解している。だから容易に飛び出さないのだ。


「干潟って言ったか」

 この男だけはわかっていなかった。バジルだ。

「オレ様は行くぞ! 止めるな! これは男のロマンというやつだ!」



「バカは死ななきゃ治らないにゃ!」

 飛び出そうとするイクスを桜童子は制した。 


「く! イクスはここに残れ! おいらたちなら万が一のことがあってもここで復活する! ツルバラ君もジュリも待機だ! ハギ、ドリィ、ディル、レン、たんぽぽ行くぞ! リアはここでみんなを守ってくれ。ヤクモも! ハトジュウはおいらの肩に!」


 イタドリが先頭になってバジルを追う。シモクレンとハギが並び、ディルウィードが後方を駆ける。桜童子は黄金の<鋼尾翼竜>を召喚し、その背中に乗る。大迂回して後方上空から敵に当たる気だ。これなら、万が一エンカウント異常の影響が出始めたときでも、一気に引き受けて飛び立つことも可能だ。


 

 <典災>は水の上に立っていた。水鳥たちが飛び立つ中、その姿が徐々に明らかになる。

 中国サーバーの影響を受けたような風貌が特徴的で<風水師>と言われると、いかにもそのようにも見える。

「我ハ<決定の典災>・・・シンブク」

「自己紹介はいいんだよ! お前のような<典災>ってやつは強いんだろうな!」



 バジルが吼えると、シンブクは爪の長い指をバジルの足元に向ける。すると魔方陣のようなものがバジルの足元に浮かんだ。


「うへえ! なんだこれ」

 そこから逃げるように走るが、足元の魔方陣はバジルに従ってついてくるので逃れられない。


「モウ既ニ決定シタ! <害> 病ノ気ニ飲マレルガヨイ!」

 下水管が空気を押し上げるようなごぽりという音がして、バジルを魔方陣から伸び上がった影が包んだ。


「がは!」 

 相手を状態異常に追い込む名手であるはずのバジルが、状態異常に苦しみ始めた。


 

 同時に苦しみ始めたのはハギだ。硬直状態になって呪文が唱えられない。


「キャッスルオブストンストーン!」

 障壁が張れないならば、全滅を防ぐにはイタドリの無敵能力時間を使うしかないように思われた。

「ムダダ! 既ニ決定シタ! <苦> 仲間ヲ失ウ様子ヲ苦シミナガラ見ヨ」


 次の瞬間、動いたのは桜童子だった。

 未知の敵に先手を許しては、ずるずると対策を迫られ続けることになる。

周囲に逃げ遅れた人はいない。全力で戦える。

 黄金の<鋼尾翼竜>を駆り突撃する。水しぶきが上がる。

 剣を横薙に構えた甲冑姿の姫が桜童子の姿に重なる。

「ソードプリンセス!」


「今決定シタ!」

 シンブクの首がぐるりと回り、桜童子を見て笑った。

「<死> 闇ヘト堕チヨ!」

 あと四メートルというところで魔法陣に包まれる。あと一秒あれば<ソードプリンセス>の剣が敵を真っ二つにしただろう。だが<ソードプリンセス>の刀は泡となってシンブクの衣を揺らしただけだった。


 桜童子は虹色の泡と化して死んだ。




「嘘だろ!? ウソだろぉおおおおお!」

 バジルが大量の血を吐く。

 シモクレンが力任せにハンマーを投げる。シンブクが体を反らせて躱す。

 シモクレンは手を上げる。

「ディルはハギを! あざみはバジルと組んで! ドリィ! こっちへ」

 戻ってきたハンマーを握る。


「退却!」 

 

 じりじりと時間が流れる。シモクレンとイタドリは少しずつ後退する。もう四人は安全なゾーンまで逃げただろうか。気温は低いのに汗が滴り落ちる。シンブクは動かない。


 バサリと何かが前を遮った。ハトジュウだ。ケーッと力強く鳴いた。

 退避し終わった合図だと悟ったシモクレンとイタドリは、踵を返して猛然と駆ける。

 曲がり角を過ぎてシモクレンは振り返る。汗が飛び散る。来ているのはハトジュウだけだ。シンブクはいない。

 ゾーンに入って、シモクレンもイタドリも肩から転がり込む。大の字に横たわる。肩で息をする。息が穏やかになるとシモクレンの目から涙が溢れ出す。

「何も、できんかった。ウチ、何も」

 両手で目を覆う。



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