001 南洋路のエンカウント
■◇■
前作「フォーランド・ガラパゴス」の続編。
http://ncode.syosetu.com/n6907cv/
〈工房ハナノナ〉の新たな冒険がはじまります。
<ナインテイル自治領>は<大災害>後、初の冬を迎えようとしている。
といっても他の地域と違って冬支度の必要はほとんどない。
<Plant Hwyaden>の実効支配を受ける<ナカス>や、【工房ハナノナ】のある<サンライスフィルド>、古神宮のある<ユーエッセイ>などを含め、北部九州に当たる地域は<トオノミ地方>と呼ばれ、建物をはじめとして街のコンセプトなどは熱帯や南国をイメージしたデザインのものが多い。
街を出て道を往けば、香りの強い大きな花が咲き乱れ、細く背の高い植物が森を形成し、大きな葉が光を受け柔らかな緑の世界を作り出している。
建物は白壁で蔦の絡まるものや、通気の良くしたもの、雨を効率よく流すための傾斜がついた屋根などが目に入る。
日差しは眩しく、木々は青々と茂り、冬といえども暖かさが感じられるほどであるから、【工房ハナノナ】のメンバーがさらに南国の<フィジャイグ地方>を目指したのが年忘れのための慰安旅行であったのなら、最早気の迷いというよりほかにない。
「だってさ、盆地だからさ。寒いんだよー、<サンライスフィルド>」
誰かに言い訳するようにたんぽぽあざみがつぶやく。
「あざみっちー、あざみっちー。忘年会なら<ユフインの温泉街>にすればよかったじゃない! <ユフイン>!」
船旅に飽き気味なのか、ツインテールの髪を両手でぱたぱたと揺らしながらイタドリが言う。
「そーっすよー! 近場でいいじゃないっすかー! こんだけエンカウント回避のための設備投資してんのになんでこんなに敵に遭遇するんですか! ボス級ですよ。いいかげんにしてくださいよー。『船要るから廻してくれ』って、操舵手が要るんですよ? 近場だったら、ボクわざわざ呼ばれなくって済むのに」
<召喚術師>の青年ツルバラは嘆く。
【工房ハナノナ】が乗る船はパンナイルで建造された蒸気船である。<La Flore>の名をもつ。サブギルドマスターのシモクレンが打った刀と引き換えに【工房ハナノナ】が所有権を得たが、<サンライスフィルド>に海はなく<パンナイル>に預かってもらう形となっている。
数週間前の<サクルタトル攻略戦>に使われたときは、陸路から<サンライスフィルド>に戻った【工房ハナノナ】の代わりに、<鬼邪眼>龍眼率いる冒険者一団が<パンナイル>まで船を戻していた。
この船に乗船するためには、<パンナイル>まで行って乗船すれば早いのであるが、問題は<パンナイル>が<ナカス>に程近いことである。冒険者をたくさん乗せて船を出せば<ナカス>への反乱と見られてもおかしくない。
<ナカス>を刺激しないように、交易船を装い<ツクミ>まで船を廻してもらったのである。そのためにツルバラが必要だったのだ。ちなみに<ツクミ>は<トオノミ地方>の中でも<ナカス>から最も離れた地域である。
「いやあ、おかげで助かるよー、ツルバラくん。こないだの戦いでも、君が辛抱強く待っていてくれたから<フォーランド>脱出がうまくいった」
積荷の後ろからウサギのぬいぐるみのような人物がぴょんと現れ出た。エンカウント率を異常上昇させている張本人、【工房ハナノナ】リーダー桜童子である。
「ほめても何も出ねーですよ! そもそも<ツクミ>に行くまでに<ユフイン>通ってきたんでしょう! 目的がないなら、そこでとどまっておけばいいのに!」
「目的ならあるんだけどね。おや? 嘆いているところ悪いが、ツルバラくん!」
「え? なんすか? もう嫌な予感しかしないっすよ」
「敵襲だ。しかも特大」
「はああああ、もう! なんでこの穏やかな海原でこの船の2倍もあるようなモンスターが猛り狂って襲ってくるんですか。この人置いていくか、ボクを置いていってくれー!」
「おきろバジル! <銀鱗鯨竜>だ。ドリィ! 船首に!」
バジルを起こし、ハギに船を包むほどの結界を張るよう指示を出し、ディルウィードに威嚇射撃魔法を放つように桜童子は命じる。
<銀鱗鯨竜>が激しい勢いで水を吐き出す。それがディルウィードに向けてのものだったからイタドリは飛び込んでカバーに入る。
「ドリィさん、さんきゅ! でも盾じゃなくハルバードで受けるくせ、なんとかなんないんですか」
「ソフトテニス部だもん! バックハンド! バックハンド!」
「ついでに弾き返す技覚えたらいいんじゃないですか?」
「リターン ムリ! ムリ!」
ハギが<護法の障壁>を張り終わる。その結界が閉じる直前、三人が大きく飛び上がった。
二刀流女侍あざみ、バジル・ザ・デッツ、<古来種>の鎧を身にまとう<大地人>少年ユイの3人だ。
バジルの<マルチプルデッツ>で<銀鱗鯨竜>から右目の視界を奪い、あざみも<口伝>を発動するため連撃を放ち、ユイが重いかかと落としを脳天に見舞う。後方支援のサクラリアが<マエストロエコー>でダメージを倍加させる。
「逃がさ、へん、で!」
シモクレンがハンマーを投げる。鈍い音を立ててヒットすると、ブーメランのように手元に戻ってくる。
<猫人族>の<大地人>イクソラルテアと<剣牙虎>山丹は周囲を警戒している。
桜童子も既に空中にいた。ユニコーンに高く舞わせ、その背から飛び降りる。その瞬間、ウンディーネの召喚に切り替えた。
「エレメンタル・・・・・・レイッ!」
光線が掌から迸り、<銀鱗鯨竜>を鋭く貫いた。
いよいよはじまります第3部ー!
またもや更新は毎日深夜0時!
お楽しみください!